繰り返しレート80MHzにおける個々のテラヘルツパルスの検出
過去数年で時間分解テラヘルツシステムは著しく成熟したが、測定速度が問題として残っている。制限要因は時間遅延である。データアクイジションが制限されるので、測定レートは数10Hzからせいぜい数kHzとなる。ここでは、個々のテラヘルツパルスの強度を繰り返しレート80MHzで測定する新技術を紹介する。
まず装置構成としては、フェムト秒ファイバレーザ、テラヘルツエミッタとして光伝導スイッチ、レシーバとしてゼロバイアスショットキーディテクタ、および高速データアクイジションユニットを統合したものとなっている。検出信号は数ns(ナノ秒)幅であり、これはレーザの逆繰り返しレートよりも遙かに短い。したがってこのシステムは真の「超高速」テラヘルツ伝送計測を可能とし、ウエッティング(濡れ)動力学をリアルタイムで調べることができる。
前書き
テラヘルツは、周波数100GHzと10THzとの間の電磁波、あるいは3㎜〜30μmの波長を言う。言い換えると、マイクロ波と赤外の間の光と言える。テラヘルツ波は、プラスチック、塗装膜、紙袋、段ボール箱や繊維の内部を見ることができる。X線と違い、テラヘルツ波は電離作用を起こさない、また生物学的に無害と一般には見なされている。従来まで強いテラヘルツ照射を生成するのは難しかったが、過去10年でレーザベースの生成技術に著しい進歩があり、これが「テラヘルツギャップ」を埋めるのに役立った。今日では、ユーザーはかなり広範なベンダーから商用システムを選択し入手する事ができる。標準の時間分解テラヘルツ(TD-THz)セットアップでは、光伝導スイッチもしくは非線形結晶が赤外レーザ短パルス信号をテラヘルツ照射に変換する。テラヘルツパルスは、サンプルと相互作用し、レシーバでレーザパルスのタイムシフトコピーとしてサンプリングされる。この「ポンププローブ」デザインでは、時間遅延の実行が必要になる。これはテラヘルツパルスの時間幅が一般に、赤外レーザパルスよりも一ケタ大きく広がっているためである。時間遅延は、全ての先進的TD-THzシステムに共通の原理であり、これの実現には移動ステージによるか、あるいは2つのフェムト秒レーザのパルストレインを同期させるかのいずれかの方法による。メカニカルディレイが一般的な計測レート、10Hz〜500Hz(1)、(2)を達成するのに対して、同期繰り返しレートをベースにしたシステムはkHz領域を可能とす(3)、(4)。とは言え、システムが1秒間に生成する数千万のテラヘルツパルスに比べれば、これらの数字はすべて小さく見える。言い換えると、タイムディレイ(時間遅延)は、達成可能なデータレートの点では依然として大きなボトルネックとして存在している。
一方で極限的な速度でテラヘルツ観察をしたいという要求が存在する。一例として、水中のタンパク質の動態研究がある。ここでは溶解した生体分子がミリ秒あるいはマイクロ秒以内に広がり、さらに同じ時間スケールでタンパク質-溶液混合物のテラヘルツ吸収特性が変化する。産業環境においては、高速なベルトコンベア上のサンプルの特性のモニタリングは、真の「超高速」測定手法を必要とする。特に高い空間分解能(「全数検査」)のパラメータマッピングが望まれる場合である。
われわれは、従来のポンプ-プローブスキームに代わる方法を開発した。これは4〜7ケタ高速である。テラヘルツレシーバとして高帯域ショットキーダイオード使うことで遅延ステージの必要性を完全に排除した。入射テラヘルツパルスに含まれるスペクトル情報は犠牲になるが、テラヘルツ振幅信号そのものは前例のない速度で計測される。十分な発振強度を持ったテラヘルツエミッタにより、われられのセットアップはロックイン検出器もパルスピッキングも、信号の平均化も必要としない。したがって、個々のテラヘルツパルス振幅の定量的評価が可能になる。計測速度を制限するのはフェムト秒レーザの繰り返しレートだけである。これはわれわれのセットアップでは、80MHzに相当する。このコンセプトは、時間分解能が数ナノ秒の動的プロセスの観察に役立つ。
セットアップ
われわれの計測セットアップ(図2)は4つのコア構成要素からなる。(i)コンパクトなフェムト秒ファイバレーザ(トプティカフォトニクス社、“FemtoFErb 1560”)、(ii)InGaAsベース光伝導テラヘルツエミッタ(フラウンホーファー HHI、モデルTHz-P-TX)、(iii)アンプ(ACST GmbH)を集積したゼロバイアスショットキーダイオード、(iv)高速データアクイジションユニット(LeCroy,“Waverunner”)である。
レーザが照射する短パルスは、〜80fs半値幅、繰り返しレート80MHz、中心波長〜1.5μmである。偏波保持光ファイバがパルスをテラヘルツエミッタに送り出す。通常、光パルスは標準的な光ファイバ内で分散するためパルスを成形しアンテナの位置で最短パルスになるように、われわれのファイバアセンブリは分散補償手段を含んでいる。
光伝導アンテナの特徴は多層構造、ここでは活性層(光伝導InGaAs)がタッピングレイヤ(光学的に透明なInAlAs)に挟まれている。ストリップラインアンテナが自由空間にテラヘルツパルスを放射する。パワーの最大値を示す450GHz付近での平均パワーは、〜60μWに達する(5)。スペクトル幅全体は6THzに広がる。
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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2015/10/LFWJ1509-36-39.pdf