超高速科学用途レーザの遺産と進歩

ジョン・ウォレス

超高速レーザのフェムト秒スケールパルス幅は科学用途に最適であり、通常は速すぎて計測できないような自然現象や生体内作用を捉えることができる。

超高速(ピコ秒およびフェムト秒)レーザは今日、産業分野、医療分野(例えば、産業用途ではスマートフォンスクリーン用のマッチングガラス、医療用途ではレーザ眼科手術)で用いられているレーザの最も重要な領域であるが、そのようなレーザが真の色(true colors:真価)を─文字通り色のこともあるが─示すのは研究における超高速レーザの利用である。まさしく科学は、このタイプのレーザが始まった場所である。と言うのは最初の超高速レーザそのものが研究プロジェクトだったからである。
 超高速科学レーザのタイプには、発振器と増幅器が含まれ、そのいずれかはバルク、あるいはファイバベースのコンポーネント(または両方)で組み立てることができる。ファイバを利用するとより小型で、しっかりした超高速科学レーザができるが、ファイバには上手に扱わなければならない固有の問題もある。ファイバが経験する高いピークパワーと、その結果としての高強度は光損傷、あるいは非線形光学効果に帰着する。とは言え、非線形効果は、場合によっては、うまく利用することも可能である、際立った例はスーパーコンティニウム光源である。これはファイバの非線形性を利用して高輝度広帯域光を生成する。
 超高速科学レーザのカテゴリでは、最短フェムト秒パルスを生成できるレーザが市販されている。そのようなレーザは、高度な技術に依存して高品質のパルス、例えばキャリアエンベロープ位相(CEP)安定化などを生み出す。これにより、個々の少サイクルパルスが正確にパルスエンベロープに整列されることが保証される。増幅器のコンポーネントに損傷を与えない、高エネルギー増幅フェムト秒パルスを作るには、パルスが増幅器に入る前にチャープパルス増幅器(CPA)が、分散素子を使ってシードパルスを時間的に引き伸ばす、増幅後、高エネルギーパルスは、続いて時間的に圧縮される。
 長年にわたる超高速レーザの進化は、ファイバベース超高速レーザメーカー、独トプティカ社が提供するチャートで見ることができる。最初の超高速レーザは、色素利得媒体をベースにしたものだが、これは高価であり、信頼度が低かった。一方、チタンサファイア(Ti:Sapphire)のような固体利得媒体、光ファイバをベースにしたレーザタイプは、高信頼であり、商用レーザとしてのコストも適切である(図1)。

図1

図1 図は、初期の色素レーザから最近の固体レーザとファイバベースのレーザまでの超高速レーザの進化を示す(資料提供:トプティカ社)。

超高速ファイバレーザ

「トプティカ社は、イッテルビウム(Yb)とエルビウム(Er)利得ファイバをベースにしたパッシブモードロックファイバレーザをピコ秒とフェムト秒域で製造している」と同社社長、ヴィルヘルム・ケンダーズ氏は語っている。「当社は、偏波保持ファイバと飽和吸収技術を長年使用しており、今では当社のファイバソリューションの一部では、寿命が3万時間を超えている」。トプティカ社のレーザは、780、1030、1064、1550nmで発振する。
 ケンダーズ氏によると、同社のレーザの高い連続動作時間によって、科学アプリケーション用として信頼性の高い発振器になっている。例えば、テラヘルツ生成、マルチフォトン顕微鏡、2光子重合(特にここでは、研究用にフォトニック微細構造作成に用いることができる)、タイミング配分の精密光クロックとして使われる。こうしたレーザは、パス幅40fs〜10psまでのパルスを生成することができる、さらにアクティブ繰り返しレート同期も可能。これは周波数コムの作製にとって特に有用な品質。周波数コムの多くの科学的利用には、プラズマ殺菌測定、太陽系外惑星の発見、超精密時報伝達、微量気体検出、絶対距離計測干渉計が含まれる。
 コンパクトであることから、超高速ファイバレーザは、Ti:サファイアの優れた種光源になる。例えば、米コンティニウム社が作製したQ-Light-PMは、18.4×15.7×6.5㎝の小型で頑丈な筐体に、エルビウムドープファイバレーザを収めている。このファイバレーザは、780nmの直線偏光周波数逓倍波長を放射し、ビーム品質(M2)は1.2、あるいはそれ以上に優れている。繰り返しレート、30〜40MHzでパルス幅110fs以下、平均出力は10mW以上。筐体には、電子制御装置も含まれている。Ti:サファイア増幅器の種光源に加えて、そのレーザは画像処理や生体医療研究にも用いることができる。

Ti:サファイア

他のレーザ利得材料と比較して、Ti:サファイアは680〜1100nm以上に広がる非常に大きな利得帯域を持っている。さらに、スペクトル帯域とパルス幅間のフーリエ関係により、広い帯域は超短パルス生成に必要なものである。結果として一般に、Ti:サファイアレーザによって最短パルスが生成される。
 米コヒレント社は、3タイプの超高速科学レーザを製造している。発振器、増幅器、マルチフォトン顕微鏡に特に最適化した発振器、それとともにこうした機器の出力をカスタマイズするための付属部品、例えば可変光パラメトリック発振器および増幅器、高調波発生器、他の周波数シフト法がある。同社のシニア製品ラインマネージャー、ナイジェル・ガラハー氏はこのように語っている。
 同氏は、産業用Ti:サファイアレーザの開発が、超高速科学レーザにどのように役立ったかを説明する。「伝統的に、語られてはいないが一般に受け入れられているトレードオフが、パフォーマンスと操作の簡潔性/信頼性の間に存在する。最先端のパフォーマンスが欲しいなら、超高速レーザとの間に実践的な(hand-on)─まさに手を出すような(hand-in)関係を持たなければならない」と言う。「ところが、過去2、3年で、これは本当に変わってしまった。ついに究極的なパフォーマンスと産業グレードの簡便さ、信頼性の合流がはっきりと見えるようになっている。コヒレント社は、これをウルトラファスト科学における産業革命と言っている。この産業革命で重要な側面は、他の業界で長年採用されている最終試験手順を通して、厳しい高度な加速寿命テストと加速ストレススクリーニング(HALT/HASS)開発の実施である」。
 例としてガラハー氏は、標準的な製品、Vitara UBB超高速発振器がパルス幅が8fs以下であることを挙げている。これは、ユーザーが介入することなく、何千時間も連続動作するハンズオフパッケージで提供される最先端のパフォーマンスである。
 同社のAstrella Ti:サファイア増幅器は、別の例である、とコヒレント社の製品ラインマネージャー、ヨゼフ・ヘンリッヒ氏は言う。「これは、当社のワンボックス増幅器製品コンセプトの最新作である。キロヘルツレベルの繰り返しレートで、高度に増幅されたパルスを生成するための全てが、1つのパッケージに収められている。これに含まれるのは、Vitaraシード発振器、ストレッチャー -コンプレッサ、当社最新のアンプ用励起レーザと再生増幅器そのものである。Astrellaは特に興味深い。と言うのは、当社初のワンボックスを設計し、上述の厳しいHALT/HASS手順を用いて徹底的にテストしたからである」。その増幅器のCPAストレッチャー -コンプレッサは、封止筐体に収容されており、ユーザーの介入は不要となっている。
 同増幅器は、M2<1.25で6mJ/パルス、パルス幅は<35fsまたは100fsが選択できる。35fsパルス幅は、ピークパワー
が約170GWとなり、これはTi:サファイア利得結晶のTECなしで達成された数字である。典型的なアプリケーションは、様々なタイプの分光計だ。振動、電子、テラヘルツ研究、内核電子のX線研究さえもある。X線研究は、高調波発生を利用するもので、これはアト秒光パルスを生成する技術である。

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2015/07/LFWJ1507_photonics_products.pdf