自動車のHUDにプラスチックマイクロオプティクス

ニコラウス・ヘトラー、ロバート・ハッチンス

自動車のヘッドアップディスプレイ(HUD)に成形プラスチックマイクロオプティクスを使った斬新な光学設計は、コスト、スペース、重量の問題を解決し、湿度や温度からの影響回避に役立つ。

HUDは最初、軍や航空用途向けに50年ほど前に開発され、当初は数百万ドルのジェット戦闘機のコックピットだけで使用された。自動車への応用は最初は高級車領域だったが、今ではHUDはファミリーカーや他の中級車種にも浸透してきている。
 自動車用途では、HUDの基本的実装法は3つある。直接描画する再発光、半透明のスクリーンから反射する光によるコンバイナ、フロントガラス内部から反射する光を利用する反射方式(図1)という、3つのアプローチだ。
 再発光タイプは、散乱や発光でドライバーに見えるように、フロントガラスの内部表面(恐らくコーティングされている)に画像を描画する必要がある。このアプローチは、対処可能な画面領域、解像度、色域、輝度、画像補正の点で優位性があるが、画像を車のフロントに展開することができない。この点はHUDに必須の特徴であると多くの人々が考えている。ドライバーの注意を道路から逸らすことが最小になるからである。
 あとの2つのアプローチは、光学レイアウト全般は事実上同じである。コンバイナタイプは、よりコンパクトに造ることができ、低コストであるが、両アプローチとも効果的な画像を自動車の前方に映し出すことができるので最先端の技術である。
 HUD設計で極めて重要な側面の1つが光エンジンの選定だ。薄膜トランジスタ(TFT)ディスプレイ(1)、デジタルマイクロミラー(DMD)ベースユニット(2)、MEMSスキャニングミラー(3)、また他
にもアプローチ(4)がある。とは言え、特に高級でない自動車用途では、光コンポーネントの選定と同様に光学レイアウト面が重要になる。

図 1

図 1 自動車用途反射方式の光路の説明図(資料提供:CDA GmbH社)。

自動車の何がそんなに特別なのか

商用航空あるいは民間航空ではHUD市場はまだ優位を占めている(また、引き続き大規模導入される見込である)が、他の市場での可能性がますます技術開発者の関心を引くようになってきている。
 2012年、世界で販売された自動車のわずか2%(120万台)がHUDを導入していた。最近では、日本がHUDシステム導入自動車数が最大だった。しかし、2020年までにはヨーロッパがトップに立つと見られている。ヨーロッパが行っている新規開発の大半が、高級でない分野にその技術を普及させることを狙っているからである(例えば、ドイツのメーカーであるコンチネンタルは、2012年からHUDをBMWの中級クラス3シリーズ向けに供給している(5))。
 市場調査によると、2010年代の終わりまでで、この市場の年平均成長率(CAGR)は30%近い。これは、市場全体が約6倍に成長することを意味する。2020年には約900万台のHUD実装車(市場の約9%)が販売される(図2)。言うまでもなく、HUDシステム光エンジンの標準的なコンポーネントは、投影光学系、ディスプレイパネル、およびその他で、光コンポーネントメーカーにとっては、これは成長市場でもある。

図2

図2 HUD導入は2020年には約900万台に達すると予測されている(出典:IHS社)。

自動車設計特有の問題

見やすいピコプロジェクタやマイクロプロジェクタ技術の開発はHUD開発を推し進める要因とも考えられる。必要な仕様の多くが両方のアプリケーションに酷似しているからだ。最先端のHUDはこのような相乗効果を活用している。またユーザは、快適に見ることのできる距離で重要情報にアクセスできるようになる。したがって、ドライバーはさらに運転に集中することができ、運転も一層楽になる。
 しかし自動車アプリケーション特有の問題がある。これに含まれるのは、システム構成、多様なモデルでの再設定が容易であること、環境/性能問題(自動車が使用される温度や湿度環境の範囲を考慮)。さらに、TS16949などの自動車品質管理基準に準拠する規定がある、最後に全ての自動車サブシステムに共通のパフォーマンス仕様がある。つまり、コストをかけないで絶対的なハイパフォーマンス高信頼がある。

ディスプレイの考案

HUD設計の光学的な問題を明らかにするために、光エンジンへのアプローチを考えてみよう。光エンジンは、高解像度TFT-LCDディスプレイからなり、輝度や色域は高輝度バックライトLEDによって規定される。
 画像生成ユニット(PGU)はダッシュボードの下やフロントガラスの下にある。その後の光学系は画像を反射面(コンバイナ/リフレクタ)から上方に投影しなければならない、同時に画像が車の前方、コンバイナではドライバーから1.5〜2mに遠くの離れたどこかに浮いているような印象を与える。
 このような機能で、拡大と結像位置を提供するディスプレイを考案する作業は大した問題ではない。共通仕様は、ピクセルサイズ30μm、ワイドスクリーンフォーマットでドライバの最大5°の視界。従来のマクロオプティクスならこうした仕様は十分に満たせるが、ただしそれはシステムを不必要に大きくしてしまう。

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2015/07/LFWJ1507_ft5.pdf