可視光固体レーザとダイオードレーザ:新たな選択肢

ジェフ・ヘクト

新しい技術と周到なエンジニアリングによって可視光スペクトラム領域で固体レーザと半導体レーザの選択肢が増えつつある。

2014年の物理学ノーベル賞は効率的な青色LEDの発明者に贈られた。これは、可視光の固体光源における大きな進歩を思い起こさせる。1991年12月、材料研究学会の会議で赤﨑勇氏が明るい青色LEDを見せてくれたときの驚きを覚えている。今では、紫、青、緑、それに赤色のレーザポインターをわずか数ドルで購入できる。
 しかし可視光スペクトラムの他の所に残っている穴は、埋めるのが難しい、つまりコストがかかる。特定のアプリケーションでは幅広い可変性や波長精度が必要となり、また黄色やオレンジのビームは見つけにくい。幸いなことに、そのようなニーズの多くを満たす新しい改善された光源が出てきた。これは初期の研究システムの技術改良や新たな研究を反映している。

可変パラメトリック光源

光パラメトリック光源は、初期の実験室から大きく発展した。その広いチューニング範囲は非線形オプティクスを使用することによってもたらされる。これにより励起フォトンを「シグナル」と「アイドラ」という周波数の低エネルギー(長波長)フォトンペアに分けるが、これらは足すと励起周波数になる。超紫外(UV)レーザ、一般には355nmで励起されると、周波数は可視域全体に広がり、近赤外(NIR)まで達する。和周波や第二高調波発生のために光学系を追加することで可変範囲を超紫外に広げ、200〜2600nmまで可変とすることができる。
 最もよく知られた光パラメトリックシステムは光パラメトリック発振器(OPO)と光パラメトリック増幅器(OPA)である。重要なバリエーションには、疑似位相整合(QPM) OPO、同時励起OPO、シー
ディングされたOPAが含まれる。パラメトリック発振は強い励起光を必要とし、ナノ秒OPOでは平方センチメートルあたり一般にはメガワット、フェムト秒OPAでは平方センチメートルあたり最大数100ギガワットが必要になる。高エネルギーのパルスレーザ、パルスレーザを導波路やファイバの小領域に閉じ込めるとこのようなニーズを満たすことができる。
 「パラメトリック発振は励起レーザのパフォーマンスに非常に敏感である」と米オールトス・フォトニクス社のルシアン・ハンド社長は言う。「安定した励起レーザを造ることができるとすぐに、OPOは適切な設計でターンキーになる」。同氏が言うには、機器キャリブレーションに使えるOPOを造る上で大切な部分はkHzのQスイッチレーザの開発であった。Qスイッチレーザは、効率的なパラメトリック発振と光損傷閾値の間のウインドウ内に留まることができる安定性が必要である。ほとんどの可視光OPOやOPAは、Qスイッチあるいはモードロック固体レーザから第二高調波もしくは第三高調波で励起されている。
 「過去10年の開発は、物理学と言うより機械工学や光工学の方が多かった」とハンドは言う。光学マウントの安定化は、それが振動や温度の変化に耐えるのに役立つ。中赤外OPOは軍用機のカウンターメジャーシステムで使用されている(1)。開発者は、そのシステムを非専門家にも使いやすくした。システムが振動や温度の変化に耐えられるように、光学マウントの安定化に多くの努力が払われた。NISTの研究者たちがkHz OPOをハワイのハレアカラ山、アリゾナのマウントホプキンスに運び、200〜1000nmの望遠鏡CCDの較正を行った(2)、(3)。

レーザシネマ用二倍波VECSEL

可視光スペクトラム固定波長の範囲には欠けているところがある。ネオジウムレーザの第二高調波は532nmで汎用緑色の標準であった。また、赤色と青色のダイオードは簡単に見つかる。しかし他の波長が適切なアプリケーションは多い。
 近赤外半導体の周波数を2倍にすることで他の可視光波長を生成することができるが、ビームに高品質が必要だ。それは垂直外部キャビティ面発光レーザ(VECSEL)で可能になる。光励起バージョン、いわゆる光励起半導体ディスクレーザ(OPSL)では、2000年ごろにイントラキャビティ第二高調波発生が商用化された。米コヒレント社は現在355〜639nmまでの製品を供給している。
 しかしRGBレーザシネマプロジェクタのようなアプリケーションには電気励起の方が魅力的だ、と米ネクセル社のグレッグ・ニーブン氏は言う。同社はレーザシネマ用に端面発光の青色と赤色エミッタを使用している。しかし緑色チャネルには、図1で示した電気励起VECSEL使用する(4)。このレーザは、大型3Dスクリーンに必要な6万〜7万2000ルーメンを供給する。これは最高輝度のランプ出力の2倍以上であり、レーザの寿命は40倍長い(5)。
 個々の二倍波VECSELは、525〜555nmで数100mWを出力するので、アレイは緑色チャネルに必要となる数100Wを出力できる。わずかに異なるレーザラインで発振する複数のレーザを使うことで良好な画像品質に必要なレベルにレーザスペクルを減らせる。米IMAX社は、ネクセル社のレーザを同社の新世代カラーベース3Dプロジェクタに使っている。図2に示したように、左右の目には、15〜20nm離れた一連の赤、緑、青の波長で画像が生成される。視聴者は、左右の目のそれぞれに調整されたカラーフィルタを持つ眼鏡をかける。開発者によると、これは偏光ベースの3Dよりもコントラストが優れている。
 二倍波VECSELは、アプリケーションが現れれば、実現が難しい他の波長も供給できる。「黄色やオレンジは可能だが、まだそれを欲しがる顧客はいない」と同氏は言う。その一方で、研究者は研究室で達成できるパワーレベルを上げている。米プリンストンオプトロニクス社、チュニ・ゴッシュ氏の研究チームは、8月に531nmで4.7Wを達成したと報告した。報告によると、これはイントラキャビティ 2倍波、電力変換効率18.3%、電気励起VECSELの記録である(6)。

図1

図1 ネクセル社の電気励起VECSELの構造、イントラキャビティの2倍波用結晶を示している。量子井戸領域で生成された光は垂直に共振する。濃い青色が電極で、ここから駆動電流が流れ込む(ネクセル社提供)。

図2

図2 カラーベース3Dプロジェクタは、右目と左目でわずかに異なる赤、緑、青を使う。

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2015/05/LFWS201505_photonic_frontiers.pdf