基礎R&Dから新しいアプリまでをカバーする2014年の技術TOP 20

ジョン・ウォレス

Laser Focus Worldのシニアエディタ、ジョン・ウォレスが2014年で取り上げた最も興味深いフォトニクス技術開発20を厳選。フォトニクスにおける2014年の一連の革新は、基礎および応用R&Dから新しいアプリケーション、技術改良までの全てを網羅している。

身につけたくなるディスプレイグラス

1. 拡張現実ディスプレイ
広い世間の人々にとって、最も注目される開発中のフォトニクス機器の1つは、メガネ型の頭部装着型ディスプレイ(HWD)である。しかし、グーグルグラスは、その出だしであまり成功しなかった。理由は何か? それは見た目の奇抜さだ。片側に1つの小さなスクリーンがあるだけ。それを使用していると、ユーザは大抵斜視に見える(ビデオ撮影用のメガネには潜在的に邪魔な印象を与えるという別の問題もある)。米ノースカロライナ大チャペルヒル校(UNC)と米エヌビディア(NVIDA)リサーチの研究者たちは、こうした問題の全てを解決するメガネ型ディスプレイを設計している。透明な拡張現実メガネは、3D立体視が可能であり、少なくともメガネには見えるだろう(図1、「拡張現実ディスプレイ: ピンライトアレイによって、軽量で、透けて見える頭部装着型ディスプレイが可能になる」、Laser Focus World Japan、2015 年 1月号、P10)。

図1

図1 ピンライトの薄い6角形アレイからの光が空間光変調器(SLM)を通して投写され、網膜に広視野画像を生成する。ピンライトアレイとSLM(片方の目に1つ)がメガネフレームにマウントされており、軽量のウエアラブル拡張現実ディスプレイを形成する(提供:UNC)。

2.「完全ネガティブ」光学表面
遙かに性能が優れた光学系において、例えば望遠鏡や高エネルギーレーザ光学系など、精密に設計され、製造された光学系がアセンブリ後にまだ無用の波面誤差があるとき、果たして何ができるか。あるいは、逆に、光学系の設計者が、そのようなシステムのコスト、複雑さ、アライメントの過敏性を低減するために、低波面誤差を損なうことなくできることがあるとすれば、それは何か。
 米QEDオプティクスのエンジニアはこう答える。磁気レオロジー仕上げ(MRF)装置を用意して、正確に逆の波面誤差を持つ光学板を作製し、光学系の適切な位置に置くと、波面の問題を相殺することができる(参照「テストと計測:MRFは完全ネガティブの表面を作製する」LFW, 2014年2月号)。

3. 顕微鏡用スーパーレンズ
技術系の購買層にとっては拡張現実メガネが、まだ普及を阻む大きな障害を克服していないとは言うものの、革命的なアイデアとして見えるように、メタマテリアルスーパーレンズもフォトニクスの専門家には同様に革命的に見える。いまだ障害はあるものの、サブ波長顕微鏡を目指してスーパーレンズの進歩は続いている(「スーパーレンズ」は遠視野光だけでなく、エバネセント波も捉え、再焦点化するので、従来の回折限界を打破できる)。例えば、米カルフォルニア大サンディエゴ校で開発された1D多層メタマテリアルレンズは近接場の対象を捉えて、それを遠視野に映し出す、つまりエバネセント波を自由空間を伝搬する波に変える。米パデュー大が開発した別のスーパーレンズは、加工してファイバ端に組み込める。製造、自己組織化への第3のアプローチは英サザンプトン大で研究が進められている(参照「フォトニクスフロンティア:顕微鏡:スーパーレンズの新展開がサブ波長顕微鏡を改善」、LFW, 2014年8月号)。

4. 薄膜コーティングの負の屈折率層
多層光学薄膜コーティング設計の分野では、仏フレネル研究所のミシェル・ルキームと研究者らが、薄膜設計で一定の層を負の屈折率を持つようにした際、何ができるかを調べた。(そのような材料のプロトタイプは、メタマテリアルという形ですでに開発されている)。研究グループは、数値計算によって、負の屈折率層が1/4波長のブラッグミラーのスペクトル分散調整に役立つこと、さらに興味深いことに、多層ファブリペローキャビティの共振が非常に広帯域になることを解明した。薄膜を中央に挟んだ2つの多層リフレクタで構成されるこの種のキャビティは、多層光学フィルタ設計の標準的なアプローチである(参照「多層光学コーティングにおける負の屈折率層によって新たな特性が誕生」、LFW, 2014年5月号)。

5. エクサワットクラスのレーザガラス
エクサワットクラスレーザ用のレーザガラス材料の研究が進行している。エクサワットパワーレベルのレーザ出力は、高いレーザフリルエンスによる損傷を防ぐためにレーザアパチャを大きく保ちながら、同時にレーザ出力パルスの持続時間を短くすることで達成されるようだ。チタンサファイア結晶は、必要とされるメートルクラスのアパチャにすることができないので、競争圏外となる。北米のショット社の研究チームが、ネオジウム(Nd)添加リン酸塩や他の添加ガラスを開発している。これらは、エクサワットレーザの強力パルスに対処することができる。そのようなレーザは、光パラメトリック・チャ
ープパルス増幅器(OPCPA)や他のタイプ(Nd:ケイ酸塩、Nd:リン酸塩)の最終増幅段でいずれかのタイプのフロントエンドガラスを使う可能性がある(参照「レーザガラス材料:ガラスの進歩がエクサワットクラスレーザを先導」、LFW, 2014年4月号, ワールドニュース)。

スペクトラルコンケスト

6. 可視光チューナブルファイバレーザ
ファイバレーザは従来のレーザの制約の多くを克服する:大抵の場合、小型(大きな光学系が少ない)、簡素(光ファイバピグテール励起レーザ)であり、電力変換効率が高い。とは言え、ファイバレーザでの利用に適した利得媒質から得られる波長域は限られており、主に近赤外である。しかし、ファイバレーザを使って他のレーザつまり光パラメトリック発振器(OPOs)を励起することができ、これによって可視光スペクトラム域にチューニングできる。ファイバレーザ本来の簡素性が一部低下するものの、結果的に得られる機器は、それでもやはりコンパクトで効率的である。米ロッキードマーチンレーザとセンサシステムズのバージョンは、周波数2倍エルビウムファイバレーザとイッテルビウムファイバレーザを含んでおり、可変赤色および赤と緑の間で可変の2倍波ラマンファイバレーザとなっている(図2)。残りの可視光スペクトルを実現するための研究は進められている(参照「光源の進歩:ファイバレーザで可視光チューニング」、LFW, 2014年6月号)。

図2

図2 光パラメトリック発振器、シングル高調波発生、和周波発生非線形プロセスを単一の周期分極反転ニオブ酸リチウム(PPLN)結晶に統合することでファイバレーザからの赤外光が周波数変換され、可視光域の波長が得られる(ロッキードマーチンレーザとセンサシステム提供)。

7. 青色発光VCSEL

面発光レーザ(VCSEL)の用途は多様で、データ通信から暗視照明まであるが、現在までのところ、製品VCSELの発振波長は赤色スペクトルもしくは赤外(IR)域に留まっている。しかし青色を発光する窒化物ベースのVCSELの開発努力は続いている。商業的に成功しておらず、多くの障害が残っているにも関わらず、このような研究が注目されている理由は何か。これは単純に、形勢を一変させるフォトニクスデバイスの1つ、青色VCSELが実験室で実現されたからである。また日亜工業、パナソニックおよび他の場所のプロジェクトに十分な資金が大胆に投入され続けているからである。米ニューメキシコ大のダニエル・フィーゼル氏は、高性能の窒化VCSELを実現するには「金と画期的な着想の両方が必要だ」と言う。「最終的に、窒化VCSELは実現するだろうが、それには根気ともっと時間が必要だ」。根気よくがんばれ!(参照「窒化VCSEL実現への厳しい挑戦」、LFW, 2014年10月号)。

8. コンセントリックグレーティングテラヘルツQCL
シンガポール南洋理工大とシンガポール科学技術研究庁、英リーズ大、香港理工大、中国の上海交通大からなる国際研究チームは、少なくともテラヘルツ発光量子カスケードレーザ(QCL)にとっては、形状による大きな違いが生まれることを示した。研究チームは、標準的なリッジ導波路のQCLを作製するのではなく、円形活性層と同心円形グレーティング(CCG)のデバイスを設計し作製した。出力は、垂直に自由空間に出る。利点は、発散が少ない数十ミリワット(mW)の出力で、これはリッジ導波路テラヘルツQCLの5倍以上となる(参照「テラヘルツ光源:コンセントリックグレーティングQCLの出
力はリッジQCLの5倍」、LFW, 2014年2月号)

9. ペロブスカイトVCSELs
ペロブスカイトは、多彩な材料(実質的には材料群)であり、発光体にも高効率薄膜太陽電池にもなる。英ケンブリッジ大カベンディッシュ研究所の研究者たちは、光励起ペロブスカイトVCSELを作製した。これは緑色励起光を70%の効率で近赤外(760nm)レーザ光に変換する。この実証実験の成果の1つは、光吸収が始まるとペロブスカイトの中で電子とホールが即座に(1ps以内)形成されるが、それから再結合までに最大数マイクロ秒(μs)程度かかるということである。この特性は、ペロブスカイトの幅広い研究領域の大部分にとって実質的によい前兆であり、例えばローコストの高効率太陽電池の開発が挙げられる(参照「高効率ペロブスカイト太陽電池材料はレーザ発振も可能」、LFWオンライン、3月28日)。

10. ペロブスカイト高輝度LED
別の例として、ハイブリッドペロブスカイトは、緑、赤もしくは近赤外を発光する高輝度LEDにもなる。作製は極めて簡単であり、基板にペロブスカイト溶液をスピンコートすればよい。「半導体業界の大きな驚きは、そのような簡単なプロセス法でも非常にクリーンな半導体特性が出せること、シリコンなど従来の半導体で必要とされる複雑な精錬法が不要であることだ」とカベンディッシュ研究所の教授、リチャード・フレンド卿は語っている。より高い電流密度でLEDの量子効率向上によって、照明やディスプレイ向けのローコストのLEDが可能になる(参照LFWオンライン、8月5日)。

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2015/03/LFWJ1503_feature_technology_review.pdf