国際光年に私たちを取り巻くレーザ

ゲイル・オーバートン、デイビッド・A・ベルフォルテ、アレン・ノジー、コナード・ホルトン

IYL 2015、NPI、Horizon 2020、BRAIN、IP-IMIといった国際的なイニシアチブはただ、この業界の既存の認識を強めるものにすぎない。つまり、レーザはわれわれの日常生活において重大な役割を担い、新たな応用分野の出現に伴ってますます普及していくだろうということだ。

2014年のレーザ市場予測においてLaser Focus World誌とフォトニクス業界は、材料加工、3Dプリント、フローサイトメトリ(flow cytometry:流量血球計算)、スマートセンサ、ディスプレイとシネマ、分子研究、バイオフォトニクスといった分野で、「21世紀のイノベーションを築き上げる」ための実現手段となるであろうレーザ技術の能力を、大いに称賛した。
 また、レーザメーカー各社がこの数年間の5%前後の売上高増加という業績におそらくは満足する中、祝福ムードをさらに盛り上げる要因が存在する。かつては隠された秘訣(などともったいぶらずにありふれた表現を使うならば、適用先を模索中の解決策)だったレーザが、文字通りわれわれの日常生活を取り巻き、ついに世界的かつ政治的に認知されるまでに至っている。2010年にレーザ発明50周年を記念する各種イベントが開催されたことに始まり、現在では、国際連合(UN:United Nations)で採択された2015年のIYL(International Year of Light and Light-based Technologies)など、レーザに関連する数多くの世界的なイニシアチブが進行している。
 国際光工学会(SPIE:The International Society for Optical Engineering)の最高責任者(CEO)で、IYLステアリングコミッティ(Steering Committee)の委員を務めるユージーン・アーサーズ氏(Eugene Arthurs)は、「この業界に携わる多くの関係者が、IYLの重要性を理解していないかもしれないが、この祝典は、この数年間で結成された数多くのイニシアチブの1つにすぎない。NPI(National Photonics Initiative)、Photonics21、BRAIN Initiative、IP-IMI(Integrated Photonics Institute for Manufacturing Innovation)など、われわれの日常社会におけるフォトニクスおよびレーザの重要性と関連性に関する重大な認識の向上につながる取り組みが多数存在する」と述べる。
 「政府高官や企業幹部、そして金融業界が、フォトニクスとレーザの意義を理解し、その実質的で直接的な経済的効果と、それらがもたらす推進力の両方を認識し始めれば、官民両方による投資機会が『拡大』して『まるでレーザのように活性化が促進』されることになるだろう」とアーサーズ氏は言う。「認識が高まれば、近寄りがたい雰囲気や、スターウォーズを連想してしまう気持ちがやや緩和され、レーザ技術がどのようにして企業の収益向上につながるかという事実に基づく情報が、それに置き換わるようになる」(アーサーズ氏)
 米ラサップ社(LasAp)の創設者兼コンサルタントで、以前は米ダイムラークライスラー社(DaimlerChrysler)の高度接合技術開発(Advanced Joining Technologies Development)グループでシニアマネージャーを務めていたマリアナ・フォレスト氏(Mariana Forrest)は、「私はこの25年間、ボディ・イン・ホワイト(BIW:body-in-white)や刻印といった加工用途におけるレーザ溶接の利点を確信し、強く推進してきた。機会を見つけては上級幹部らに『しつこく進言』していたほどだ」と言う。「幸い、その苦しい戦いは終わり、レーザとフォトニクス全般に対する業界の認識が高まっていることに加えて、レーザ光源の価格が低下し、信頼性が向上したことから、『自分の在任中はパス』という考え方に変化が生じ、多様な分野において急速に採用が増加している」(フォレスト氏)
 「ユーザの信頼が高まったことと、経済的な実現可能性が実証されたことによって、レーザは現在、量産される自動車鋼板に対する産業用『商売道具』として広く受け入れられており、他の輸送分野にまで用途が拡大しつつある」とフォレスト氏は付け加えた。「引き続きレーザ技術に対する社会、業界、政府の認識向上に努めれば、レーザメーカーは今後も、成長と繁栄を遂げ続けることになると思う」(フォレスト氏)

グラフ

レーザ各社の業績

主要なレーザメーカーのほとんどが、間違いなく好調な業績を上げており、レーザ販売の増加率は、数%程度の国内総生産(GDP:gross domestic product)を確実に上回っている。独トルンプ社(TRUMPF)の、2014年6月30日を末日とする2013/2014会計年度の売上高は、前年度の29億3000万ドルから10.4%増加して34億2000万ドルだった。そのうち、トルンプ社のレーザ技術/エレクトロニクス事業部門(従業員数2588人)による売上高は10億5000万ドルで、総売上高の約30%を占めた。
 トルンプ社の副会長で、同社のレーザ技術およびエレクトロニクス部門(Laser Technology and Electronics Division)の社長を務めるピーター・ライビンガー氏(Peter Leibinger)は、「トルンプ社は11%に近い成長率を達成し、約5〜7%というレーザ業界の平均を上回った」と述べた。「自動車と工作機械の業界に関連する製品で顕著な進歩があり、高温成形部品切断に対する需要が高く、自動車業界においてレーザ溶接の用途が増加した。これに対して最も高い性能を示すのが、当社の『Tru Disk』レーザと、高温成形鋼鉄の切断用に特別に設計された複数軸レーザシステム『TruLaser Cell 8030』である」(ライビンガー氏)
 中国ハンズ・レーザ・テクノロジー社(Han’s Laser Technology)は売上高を、2010年の4億8000万ドル弱から2012年には6億7500万ドル強にまで大きく増加させた。しかし、2013年の売上高は6億6700万ドルと横ばいになり、純利益は、売上原価の増加に起因して縮小した。
 米ニューポート・スペクトラ・フィジックス社(Newport Spectra-Physics)の2014年9月27日までの9カ月間の売上高は、前年同期比で5.2%増加した。科学研究(10.6%増)、マイクロエレクトロニクス(7%増)、生命科学(6.5%増)、工業生産(7.7%増)の各市場での成長が、防衛およびセキュリティ分野の15.9%の減少を埋め合わせた。
 そして、米IPGフォトニクス社(IPG Photonics)である。「IPGのファイバレーザポートフォリオ全体にわたって販売が好調」だった同社の2014年9月30日までの9カ月間の売上高は、2013年同期から17%増加して5億6240万ドルだった。
 IPG社が引き続き成功を収めていることは、ファイバレーザの背景にある価値提案を売り込む同社の能力の証だが、その他にも多数の企業が、ファイバレーザの人気急騰による恩恵を受けている。しかし、このにわかな活況が、不景気に転じる可能性はあるのだろうか。「2014年の売上高は30%増加する見込みで、2メガワットのポンプダイオードをファイバレーザ市場に出荷する予定である」と、中国BWT北京社(BWT Beijing)のマーケティング・ディレクターを務めるルイーザ・チェン氏(Louisa Chen)は述べる。「誰もがコスト構造や財務収支を気にすることなく、ファイバレーザ市場に急いで参入したり、独自にポンプレーザを開発したりしているようだ。ファイバレーザが価格引き下げの圧力を受けたのと同様に、当社のポンプダイオードもこの数年間で、かなりの価格低下圧力に直面している。また、ますます多くの新しいファイバレーザ関連の供給メーカーが、材料加工分野に参入していることが、ゆくゆくはファイバレーザバブルにつながるのではないかと懸念している」(チェン氏)
 中国フォーカスライト・テクノロジーズ社(Focuslight Technologies)社長のシンシェン(ヴィクター)・リウ氏(Xingsheng (Victor) Liu)は、「ダイレクトダイオードのクラッディングやレーザ表面処理と、医療および美容分野が好調だったことで、2014年の総売上高は30%増加したが、SSL(Solid State Lighting:固体照明)とファイバレーザ向けのダイオードレーザ励起光源の販売は実際のところ、価格競争の激化に起因して少し減少した」と述べている。
 ポンプレーザ市場で2014年に成功を収めたその他の企業として、独ディラス社(DILAS)がある。同社のセールスおよびマーケティング・ディレクターを務めるヨルグ・ノイカム氏(Joerg Neukum)は、「当社の600 W/ 200μmと250W/200μmのファイバレーザ励起用モジュールと、25 W〜2 kWのポンプレーザダイオード、そして特に、線幅が細く波長が固定のデバイスは、ディスクレーザやエンドポンプレーザ向けに非常に需要が高い。また、ダイレクトダイオードによる材料加工用に当社が提供するレーザシステムにも高い需要がある」と述べる。「当社ではさらに、25W、450nmのファイバ結合の青色ダイオードの出荷も、蛍光体励起、シネマプロジェクタ、光線力学療法の分野向けに開始している」(ノイカム氏)
 ファイバレーザの好景気が不景気に転じる可能性についてはさておき、レーザ業界の主要企業で、この1年間に業績が低下した企業はあったのだろうか。米ロフィンシナール社(ROFIN-SINAR)は、2014年9月30日までの12カ月間の売上高が2013年同期の5億6000万ドルから5%減少し、5億3000万ドルだった。ロフィンシナール社の最高経営責任者(CEO)兼社長を務めるガンサー・ブラウン氏(Gunther Braun)によると、「2013会計年度と比べて、個々の業界と中国などの特定の地域において、上半期の業績レベルが低く、下半期にそれを十分に補うことができなかった」という。「しかし、当社の中国における業績は、1年の後半にかけてかなり回復した。欧州は堅調な状態にあり、北米では出荷台数が四半期ごとに増加している。高出力ファイバレーザと超短パルスレーザにおいて進歩を遂げていること、そして、脆弱な材料の切断用に新しく開発した「SmartCleave」技術などの革新的なプロセスによってアプリケーションポートフォリオを拡大したことに、期待を寄せている」(ブラウン氏)
 米コヒレント社(Coherent)は、2014年9月27日に第4会計四半期と会計年度を終えたが、純売上高は7億9460万ドルと、2013年同期の8億1010万ドルから減少した。サファイア材料加工を必要とする一部の民生エレクトロニクス製品の発売が延期されたことによる販売の減少と、「モバイルディスプレイ市場における富の移動(shifting fortunes)」が要因だという。
 実際、半導/ディスプレイ業界では2015年の見通しについて、好調を予測する見方と不調を予測する見方の両方がある。米ICインサイツ社(IC Insights)は2014年のマイクロコントローラ出荷数が、2013年の横ばい状態から5%の増加に転じると予測している一方で、マイクロコントローラとアナログ半導体を提供する米マイクロチップ社(Microchip)は、在庫の蓄積と中国における弱まりを根拠に、半導体業界の低迷を予測している。同社は自らを「炭坑のカナリア」(canary in the coalmine)と呼び、その予測が8万社もの顧客を擁する同社の広範な販売基盤に基づくものであるとした。また、米国半導体製造装置材料協会(SEMI)のSMG(Silicon Manufacturers Group)によると、シリコンウエハ出荷量は、2014年第1〜3四半期には750万インチ以上と過去最高水準に達したが(2013年同期からは11%増加)、2014年第3四半期には横ばいだったという。
 そしてそれでも、SEMIのシニア市場アナリストを務めるダン・トレーシー氏(Dan Tracy)は、「半導体製造装置の世界受注額は2014年に約19%増加しており、2015年には15%増加するとわれわれは予測している」と述べている。「マイクロチップ社による予測にもかかわらず、米インテル社(Intel)は記録的な第3四半期業績を達成し、米クアルコム社(Qualcomm)は2014会計年度の売上高が前年比で7%増加したと発表した。他にも多数の業界アナリストらが、2014年の売上高増加率を8〜10%と見積もっており、2015年についても同等の成長を予測している」(トレーシー氏)

多様性の強み

2014年に堅調なレーザ販売を示した中小規模の企業には、共通点がある。つまり、最先端の高性能レーザ製品で構成される多様なポートフォリオを保有し、多数の業界分野を対象にしているという点である。
 超高速ファイバおよびダイオードレーザを製造する独トプティカ・フォトニクス社(TOPTICA Photonics)の社長を務めるウィルヘルム・ケンダース氏(Wilhelm Kaenders)は、「2013年 と2014年には、それぞれ15%の総成長率を達成したが、政治的な不確実性から、2015年の成長はそれよりも穏やかなものになると予測している」と述べる。ケンダース氏は、最近のいくつかの飛躍的な進歩を挙げて、「2段直列方式の第2高調波発生(SHG: second harmonic generation)段は、当社の近赤外線ダイオードを、さらに短い波長とスペクトルおよび強度の安定性向上が求められ続けている半導体リソグラフィ用の193nmの深紫外線(DUV:deep ultraviolet)光源に変換するものである。また、当社の『低温加工』のフェムト秒ファイバレーザは、微細加工の分野において、ナノ秒レーザに対するシェアを伸ばし続けている」とした。さらに、「当社が生物医学計測機器向けに提供するマルチカラー製品は操作が容易で、システムメーカーの間で高い人気を誇っている」と付け加えた。
 同社が展開する20+2Wのガイドスターレーザは、天文計測分野に対するトプティカ社の真摯な取り組みを実証するものだとケンダース氏は述べる。また同氏は、90dBの信号対雑音比(SNR:signal to noise ratio)を達成する同社のテラヘルツ放射源についても誇りに思っている。この放射源は多様な材料科学分野において、レイヤーの厚みの検査パラメータを20μmにまで拡張する。
 レーザダイオードと半導体光増幅器(SOA:semiconductor optical amplifier)を製造する独イノルーム社(Innolume)は、通信および医療市場において製品に関する同社の専門技術を活用することで、2015年の売上高は25〜30%増加すると予測している。同社のCEOを務めるグイド・ヴォーゲル氏(Guido Vogel)は、「当社の売上高増加に最も寄与してきたのは医療分野向け製品である。具体的には、1064nmの理学療法向けマルチモードレーザチップと、チューニング可能なチップを使用して2015年に提供予定の新しいバイオフォトニクス向け製品である」と述べる。「エピタキシャル成長からファイバ結合にいたるまでの垂直統合型のレーザダイオード製造ラインを制御し、量子ドット構造と従来型の量子井戸構造の両方の半導体レーザチップと、780〜1320nmの完全なモジュールを提供する能力によって、当社は今後の成長に向けた体制が十分に整っている。顧客とともにサンプルとプロトタイプの開発に力を注いできたこの数年間の取り組みが、2015年とそれ以降に実を結ぶはずだ」(ヴォーゲル氏)
 生物医学計測機器におけるチップやパッケージデバイスに対する需要に加えて、データ通信が今後、イノルーム社にとって重要な市場になるとヴォーゲル氏は付け加えた。「当社のコムレーザは、1310nmで8〜16チャネルのデータコムDWDMシステムを駆動可能な、シングルキャビティの高密度波分割多重(DWDM:dense wavelengthdivision multiplexing)エンジンで、シリコンフォトニクス分野の進歩に完璧に合致している」(ヴォーゲル氏)

ガスレーザ、長期的には有望か

2013年と2014年にIndustrial LaserSolutions誌のウェブサイトで最も人気の高かった記事の1つは、「Fiber versus CO2 laser cutting」(ファイバレーザとCO2レーザによる切断の比較)だった。この記事では、英バイストロニック社(Bystronic)のゼネラルマネージャーを務めるデイビッド・ラーコム氏(David Larcombe)が、それぞれの種類のレーザの利点と欠点を、バイストロニック社製の製品を使って解説している。
 一般的な2〜4kWの切断に対し、ラーコム氏は、受託加工業者である英FCレーザ社(FC Laser)、(2mmまでの)薄い材料の切断を行う英ブラッタンサウンド・エンジニアリング社(Brattansound Engineering)、電気製品筐体メーカーの英ICEE社、1.5〜4.0mmの鋼板切断を行う英WEC社から得た実際の切断例を示している。この記事では、次工程の顧客の材料要件を予測できない受託加工業者は、ファイバレーザを選択する方がよいとし、ファイバレーザは厚さ4mmまでの薄い反射性金属材料を、CO2レーザよりも一般的に50%高速に、かつ半分の消費電力で切断すると結論付けている。厚みのある非反射性の金属に対しても、切断品質と速度でCO2レーザを上回る結果が得られた。
 米フォトマシニング社(PhotoMachining)のCEOを務めるロン・シェーファー氏(Ron Schaeffer)によると、「CO2レーザは誕生から50年が経過したが、意外なことに米国メーカーにとっても販売
は引き続き好調である」という。「皮肉なことに、ファイバレーザはCO2レーザとほぼ同時期に発明されたが、業界で採用されるようになるまでに何十年もの年月がかかった。しかし、ファイバレーザ市場の著しい成長にもかかわらず、CO2レーザ市場はまだ、かなり堅調のようだ」(シェーファー氏)
 米GSIグループ社(GSI Group)の3つの部門のうち最大の規模を誇るレーザ製品(Laser Product)部門は、第1四半期の売上高が前年同期比で10%増加した。「当社のシールドCO2レーザ製品ラインは、同四半期に高い需要を受け、販売が前年同期比で15%増加した」と、GSIG社のCEOを務めるジョン・ローシュ氏(John Roush)は述べた。「CO2レーザの顧客は、当社の一部の新製品に高い関心を示した。中出力パルスレーザ『P250』や、10〜400Wの当社製CO2レーザと併用可能なマーキングヘッド『Flyer 3D』などである」(ローシュ氏)
 米アクセス・レーザ社(Access Laser)のCEOを務めるヨン・ジャン氏(Yong Zhang)は、「9〜11μmの範囲で照射するCO2レーザのパルスは、可視光線から近赤外線のファイバレーザのパルスよりも10倍長い」と述べる。「CO2レーザからの照射光の方が、目には透明に見えるもの、白色または白色に近いもの、そして有機材料など、ほとんどすべての材料を含む、多様な種類の材料による吸収率が高い。それが、市場においてCO2レーザが、簡単には他のものに置き換えられない根本的な理由である。同じ材料の多くに、紫外線レーザが適用可能だが、その価格はCO2レーザよりも何桁も高い」(ジャン氏)
 ジャン氏は、古き良き標準波長である10.6μmではもはや十分ではなく、商用CO2レーザメーカーが現在、さまざまな材料に対して独特の能力を発揮する9.3、9.6、10.3μmの波長の製品を提供していることも指摘した。それによって多様な用途への適用が可能になり、CO2レーザは今後も長年にわたって利用され続けることになる。
 米IDEXコーポレーション社(IDEX Corporation)の1部門である米メレスグリオ社(Melles Griot)によると、HeNe(ヘリウム-ネオン)とAr/Kr(アルゴン-クリプトン)のガスレーザの販売は、ダイオード励起固体(DPSS:diodepumped solid state)レーザに取って代わられて引き続き減少しているが、長いコヒーレンス長やシングルモード動作といった性能パラメータが必須の分野においては安定しているという。「ガスレーザ製品とそれを利用する重要な顧客は、メレスグリオ社の今後の成功に欠かせない存在であり、われわれは引き続き、この分野に十分に力を注ぐつもりだ」と、メレスグリオ社のIOP生命科学および医用光学(IOP Life Sciences and Medical Optics)事業部門ゼネラルマネージャを務めるロブ・ビーソン氏(Rob Beeson)は述べる。2014年7〜9月期のIDEXの売上高は、9%増加して5億3300万ドルとなったが(7%はオーガニック成長、1%は買収、残り1%は外貨換算調整による)、レーザ部門の売上高は基本的に横ばいだった。

ニューエコノミー

1983年の「Times」誌の特集記事で初めて用いられた造語である「ニューエコノミー」(The New Economy)は、製造に基づく社会から、技術主導でサービスに基づく経済への移行を表すものである。この記事では、オンライン販売と広告、クラウドファンディング・クラウドソーシング、グローバライズされた利用しやすい医療、サステナビリティ、そして共有・再利用サービス(カーシェアリング・Netflix)が、「耐久」消費財の定義をがらりと変え(必然的にそれに関連する高速光ファイバ通信ネットワーク用のレーザ販売が促進され)るであろうことが、非常に的確に予測されていた。
 このニューエコノミーは、当初は米国のみを想定したものだったが、グローバル化とインターネットに主に起因して、現在では世界規模にまで拡大している。幸い、ニューエコノミーは、レーザにとって好都合である。「The New Economy」という適切な名称が付けられた雑誌のある記事「JenLab’snanotechnology solutions speed up skin cancer detection」(ジェンラボ社のナノテクノロジーソリューションによる、皮膚がん検出の高速化)では、独ジェンラボ社(JenLab)が同社のフェムト秒レーザ多光子断層撮影技術を用いて、医療生体検査の労力と時間を要するプロセスに終止符を打ち、一般大衆にとってより利用しやすい、高速でリアルタイムの皮膚がん早期発見に置き換える方法が説明されている。
 ジェンラボ社が特許を保有する12fsの超短パルスレーザは、細胞表面に直径100nm未満の穴をあけることもでき、セルトランスフェクションと呼ばれる過程における、細胞の細胞質に分子を挿入する極小手術を可能にする。この過程は、幹細胞治療において重大な意味合いを持ち、それに応じた高い潜在的影響を経済に与える。このような治療は、糖尿病など、広く一般的な多数の病気に伴う高額な医療費を抑え、より多くの人々の疾患を予防し治癒する可能性があるためである。
 世界銀行(World Bank)によると、米国における2012年の医療費の対GDP比率は17.9%だったという。欧州では10〜11%、中国やインドといった発展途上国では4〜5%というのが一般的な比率である。また、世界的に2050年までにわたって、1人当たりの医療費が1人当たりの収入を上回るペースで増加すると予測されていることは、個々の消費者にとっては悪い知らせだが、バイオフォトニクス分野を対象とするレーザメーカーにとっては良い知らせである。
 では、医療分野と通信分野におけるレーザ販売の増加以外に、ニューエコノミーはどのようなメリットをレーザメーカーにもたらすのだろうか。ケヴィン・ケリー氏(Kevin Kelly)は著書「New Rules for the New Economy」(ニューエコノミー勝者の条件)の中で、技術が社会を変換する様子を説明している。「米国に対する需要が最も高い創作物(輸出品)は、わずか6年間で1ドルの価値あたりの重量が50%減少した」と同氏は言う。「コンピュータ、エンタテインメント、情報通信といった実体のない世界が現在、建設、食品、自動車製造など、かつては大きな規模を誇ったどの産業よりも大きな業界となっている。情報に基づくこの新しい業界は既に、米国経済全体の15%を占めている」とケリー氏は述べている。同氏が結論付けているように、「富の分布が、われわれのツールによって作り変えられている。われわれは現在、ますます小型化するコンピュータとますます拡大する通信によって構築される新しい経済(ニューエコノミー)の中で生きている」のである。
 現代の農業従事者についてのケリー氏の記述は、昨年のレーザ市場予測で紹介した、米ツーシックス社(II-VI)のカールハインツ・グルデン氏(Karlheinz Gulden)による、スマート機器の普及に関する発言を思い起こさせる。ケリー氏は、通信、センサ、輸送の分野におけるレーザの利用を、次のようにたとえた。「農業経済の立役者である米国の農業従事者は、トラクターを移動式オフィスとして乗り回している。そこは空調完備で、電話や衛星利用のGPS位置情報端末が装備されており、高度なセンサが地表近くに取り付けられている。自宅ではコンピュータが、天候データ、世界中の穀物市場、取引銀行、土壌中の水分検出器、デジタルマップ、そしてキャッシュフローを管理する彼自身のスプレッドシートといった、果てしなく続くデータのストリームに接続されている。そう、彼は爪の中を土で汚しているが、その肉体労働は、ネットワーク経済のコンテキストにおいて行われている」(ケリー氏)。
 米コンファレンスボード(Conference Board)の「Global Economic Outlook 2014」では、2015年の世界経済成長率が3.4%にとどまると予測しているが、ここでは、レーザに基づく技術が、前述の「富の分布」をレーザメーカーの有利になるように作り変える主要なネットワーク「ツール」の1つとして、ニューエコノミーにおけるシェアをますます拡大し続けるだろうと期待したいと思う。

楽観的見通しの根拠

Quartzは、「2012年に開設された、新しいグローバル経済を生きるビジネスパーソンのためのデジタルネイティブなニュースサイト」である。同サイトのある記事によると、2014年には、米3Dシステムズ社(3D Systems)が保有する、レーザ焼結およびステレオリソグラフィ関連の一部の主要な特許の存続期間が満了することに伴い、より大型の3Dプリントシステムの販売が急増する見込みだという。これによって、特に中国の新しいシステム開発企業に対して市場が開放される。2014年5月には、中国3Dプリンティング技術産業アライアンス(China 3D Printing Technology Industry Alliance)が3300万ドルを出資して、中国の10都市に3Dプリント技術を対象とする10棟のイノベーションセンターを建設すると報じられた。

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2015/03/LFWJ1503_laser_marketplace_2015.pdf