チップ/チルトミラーマウントで高精度安定性確保

ジョン・ウォレス

3点キネマティックマウントであろうと、フレクシャーマウント、ジンバルマウントなど別の形態であろうと、チップ/チルトマウントは多くの光学セットアップにとって不可欠である。

ラボ実験用に設計された光学マウントはどんなタイプでも「象徴的」と言われるものであるなら、それはキネマティックなチップ/チルト光学マウントということになるだろう。つまり、平面ミラーといっしょにビーム操作に最もよく使われるからだ。光学テーブル、レーザが1つあるいは2つあり、研究者やエンジニアがアイデアを実現(この場合は、マウントを回して調整)しようとすると、少なくとも数個のマウントがそこにあり、テーブルに固定されていることは間違いない。
 キネマティックマウントは手動と電動の両方とも利用できるが、手動バージョンがキネマティックマウントの形態と機能を最も直接的に示している。そのようなデバイス(大小の光学系に適合するようにたくさんのサイズがある)では、ミラーや他の光学部品を可動プレートに固定し、次にアセンブリの固定箇所にキネマティックに搭載(マウント)する。これによって光学部品の位置が2つの直交方向(チップ/チルトと言う)で角度的に調整される。
 固定部品と可動部品の間の3点「キネマティック」リンクは、1個の支点と2つのネジアクチュエータで構成されている。支点が確実に直交するように、アクチュエータは互いに90°になっている。支点は第3のネジであり、これによってミラーも同様に直動調整できる。
 他のタイプのチップ/チルト光学マウントには、拘束的に使うフレクシャーマウントやジンバルが含まれる。ジンバルは、直交軸を含み、電動となっていることが多い。

コーン、グルーヴ、フラット拘束

レーザビームの当初の調整とは別に、「キネマティックマウントを用いることで、ユーザーは長期的な動作でのレーザポインティングの変化も調整することができる。他にも、光学設定で光学素子の照準や割り込みを修正することも可能」と米エドモンド・オプティクス社(Edmund Optics)のレーザ光学系製品ラインマネージャー、ラエフ・ミハイル氏(Ra’ef Mikhail)は言っている。同社は、手動と電動の両方で多様なサイズのキネマティックマウントを製造している。
 「R&D研究所で仕事をしていたとき、レーザの実験ではキネマティックマウントは必須だった」とミハイル氏は言う。「レーザシステムの長期動作ではよくあることだが、ビームポインティングがほんのわずかに変動し、光学系全体のアライメントがずれる原因になる。しかし、2つのキネマティックマウントをレーザヘッドに使うのは一般的な方法であるので、われわれのレーザビームの方向や高さを正確にコントロールし、わずかな調整でわれわれの精密アプリケーション用のアライメントを確保することができた」。
 同社のTechSpecキネマティックマウントは標準的なコーン、グルーヴ、フラット拘束システムを使用している(図1)。機構系は、そこにある自由度の数によって分類される。「3D剛体は6つの独立した自由度を持っている。つまり、x, y, zと回転Rx, Ry, Rz、これらはそれぞれヨー、ピッチ、ロールとして知られている」とミハイル氏は説明している。「全ての自由度が完全に拘束されるなら、マウントはキネマティックと考えてよい。調整ネジには、ネジ先端のボールチップが含まれる。ネジは、それぞれの先がキネマティックプレートに接触する。コーンコンタクトは、すべての移動自由度を拘束する(x, y, z)。グルーヴコンタクトは、ピッチ(Ry)とロール(Rz)の回転自由度を拘束する。最後に、フラットコンタクトは、ヨー(Rx)を拘束する。
 ミハイル氏は次の点を付け加えている。TechSpecキネマティックマウントには、便利な特徴がある。アライメントの不要な変化を防ぐために取り外しできるサムキャップ、光学系を傷つけないように先端がナイロンになった止めネジ、それに精密光学面に触れることなく光学素子のマウントを容易にする指かけ。典型的な角度チップ/チルト範囲は±5°、角度分解能(0.25mm回転をベース)は0.2°、感度(1°回転をベース)4角秒、温度安定性とポインティング安定性は、それぞれ<5と1.3μrad。

図1

図1 エドモンド・オプティクス社のキネマティックチップ/チルトマウントはコーン、グルーヴ、フラット制御システムを使用している(左)。3つの調整ネジは、コーン、グルーヴ、フラットに適合する。2つの回転軸(黒いノブのどちらか一方を回す)と1つの移動軸(3つ全てのノブを等しく回す)は調整可能(資料提供:エドモンド・オプティクス社)。

熱サイクルに対する耐性

「キネマティックマウントの2つの最も重要な特徴は、安定性と調整可能性だ」とリック・セバスチャン氏(Rick Sebastian)は言う。同氏は、米ニューポート社(Newport)のオプトメカニクス向け製品マネージャー。安定性は、キネマティックマウントを一度調整したら、その位置にいかによく留まるかを示す基準、一方調整可能性は、いかに容易に特定の位置に調整できるかという指標。
 セバスチャン氏によると、最も先進的で最高性能のミラーマウントはステンレス鋼でできている。ステンレス鋼は、アルミよりも3倍硬い。その結果、ステンレス鋼でできたミラーマウントは、アルミ製の同等マウントと比べて反りが1/3となるので、調整が容易になる。加えて、ステンレス鋼は温度変化中の膨張と縮小がアルミよりも少ないので、安定性が優れている。
 キネマティックマウントの安定性は一般に、熱テストを通じて定量化される、とセバスチャン氏は指摘する。熱テストでは、雰囲気温度が周期的に変わるチャンバーの中にマウントを固定
する。その温度サイクル中、ミラーマウントのミラーの角度位置(ピッチとヨーの両方)を時間経過とともにモニタし記録する。一般に電子式オートコリメータを使う。このテストの結果でマウントの安定性を正しく評価することができる。安定性の2つの重要な指標は、ドリフトとシフト。ドリフトは、テスト中の最大角偏向の尺度、シフトはマウントが元の温度に戻った後にマウントがいかによく元の角度位置に戻るかの尺度。ステンレス鋼マウントは、角度偏向(ドリフト)が小さく、優れた温度再現性(シフト)を示す。

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2015/01/LFWJ0115_pp_p38.pdf