フィルタスタックが、波長シフトなく広角入射光を透過

ジェイソン・ケック

光学系で入射角に対する色の変化の問題を回避するために、薄膜コーティングしたフィルタ素子を様々なフィルタガラスのスタックで構成したフィルタで置き換えることができる。

広角イメージングシステムには、克服すべき問題がたくさんある。画面内対象物の形状歪は、重要な問題であり、これは「魚眼レンズ」的な見え方として認識されており、ソフトウエアで修正されることがある。とは言え、レンズ歪だけが問題ではない。
 彩雲現象、つまり透過光や反射光の色を異なる角度で見た時の変化は自然でも見られる現象であり、精密色仕様の人工光検出システムでも見られるが、ここには多くの問題が生ずる。
 広角カラーセンシングアプリケーションでは一般に、入射角に関わらず波長を検出できなければならない。薄膜コーティングした光学素子の透過による彩雲現象は、周辺物体から来る光の透過スペクトルをひずませるのでそこでは問題となる。
 帯域外の光を阻止しながら薄膜コーティングの透過帯域における光透過を最大化することが、誘電体フィルタのようなコーティングした光学コンポーネントの要件となる。ところが、波長の遷移は一般に、相対的に狭い円錐角内でしか維持されない。角度が5°以上になると、そのようなフィルタは彩雲現象の影響を受けやすくなり、色の変化、つまり「ブルーシフト」として観察される。フィルタに入射する光の角度が増すにつれて、光が伝播する個々の薄膜スタック層が多くなり、光学フィルタスタックの見かけ上の全厚が変わり、当初狙った設計パフォーマンスに影響が出てくる。このため、そのようなフィルタは明るい照明の広角イメージングアプリケーションには適していないことになる。また、そのようなアプリケーションでは、全入射光の波長に一貫性があることが強く求められている。
 より複雑な広角イメージングソリューションの一つでは、カメラクラスタ、つまりポリカメラを使用する。これは昆虫の複眼のように、カメラが様々な方向に向いており、結果として得られた多数の画像をソフトウエアで一つの画像に組み立てる。個々のカメラに入射する光は狭い円錐角しか満たさないが、そのようなシステムは結果的に複雑になり、高価格になることは明らかである。
 米レイナード社(Reynard)のエンジニアは、このような問題に単一の光学デバイスで対処してきた。デバイスは、2つあるいはそれを超える数のフィルタガラス層を組み合わせてスタック構成にしたシステムである。このColorLockフィルタスタックによって、入射角の増加にともなう波長シフトが無くなり、特定のシステム要件に適合するようにカスタマイズできる(図1)。
 これらのフィルタの層の正確な組成と厚さはソフトウエアを使って決める。ソフトウエアは、フィルタ要件の最適値を推定するメリット関数を定め、これによってフィルタスタックを設計し、バンドパス、ショートパス、ロングパス、ユーザ指定の機能が決まる。入射角は、透過波長の変化に関わらず、50°までが可能である。一方、同じ条件を持つように従来のコーティングしたフィルタを増やそうとすると、短波長側に大きくシフトすることになる。

図1

図1 薄膜誘電体フィルタは、入射角が0°から45°に変わると、急激な色の変化を示す(左)。一方、ColorLock広角フィルタスタックは、そのような色の変化は全く見せない(右)。(資料提供:レイナード社)

広角フィルタスタックの用途

このタイプのフィルタには多くのアプリケーションがある。デジタルイメージング分野では、広帯域でスペクトルエネルギー読み取りに使う色度計は、ディスプレイ機器のプロファイルや較正に使用され、ディスプレイエッジのピクセルカラーや強度がディスプレイ中央のピクセルのパフォーマンスと合致しているかどうかを検証する。

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2015/01/LFWJ0115_ft_p36.pdf