アップコンバージョンイメージャでIRガスセンシングを改善

アナ−レナ・ザールベルク、チョンシャン・リ、ラセ・ホグステット、ペーター・ティ
デマンド−レヒンテベルク、イェッペ・ザイデリン・ダム

非線形アップコンバージョン検出器は、ショットノイズリミットに近いパフォーマンスを示し、大気圧での痕跡程度のガス計測で従来の極低温検出器にひけをとらないどころか、さらにイメージング情報も与えてくれる。

レーザ技術は、過去数10年、燃焼診断に広く適用されてきた。高い時間分解能、空間分解能、種選択性を持つ非侵襲的計測によって、火炎温度および、火炎前面に極めて短時間にしか存在しない微量な中間体種の濃度可視化が可能になっている。
 コヒレント、非線形レーザ技術は特に低濃度分子の高感度検出に適している。したがって、高出力パルスレーザや高感度検出器が、コヒレントレーザ技術には不可欠な要素である。スウェーデンのルンド大(Lund University)とデンマーク工科大(DTU Fotonik)の研究チームは、赤外(IR)縮退四光波混合(DFWM)と新しい高感度IR検出器を組み合わせたアプリケーションを開発した。これは、中赤外光を近赤外波長にアップコンバージョンして、これらの波長を検知できる、より感度の高い検出器を利用する。この新しい検出器は、化学種アセチレンの検出感度を、例えば500倍以上に高め、中赤外域における燃焼診断でサブppm(100万分の1)検出限界を可能にする。このアップコンバージョン検出原理は、ガス種濃度の画像情報を提供することで従来の検出方式の機能を拡張する。

燃焼気体の計測

今日の有力なエネルギー源は、交通と発電の両方において、燃料の燃焼である。風力や太陽エネルギーなどの再生可能エネルギーが最近開発されているが、燃焼の重要性はは当分変わらない。バイオマスや他の再生可能なCO2ニュートラルな燃料の燃焼の利用に向かって進歩しているとは言え、エンジンやガスタービンを種々の燃料に適用するプロセスは複雑である。バイオマスは一般に、塩素(Cl)、カリウム(K)、硫黄(S)など燃焼中に有害な汚染物質に変わる種々の物質を含んでいる。既存の燃焼機関の効率を改善するために、また新しい燃料やエンジンを最適化して汚染物質の排出を減らすために、燃焼中に起こる反応を詳細に理解することが重要である。
 ここ数十年、燃焼研究用のレーザ診断の発展によって、燃焼プロセスの理解は一段と深まった。燃焼にとって重要な多くの分子種、例えば水(H2O)、二酸化炭素(CO2)、メタン(CH4)、アセチレン(C2H2)、塩化メチル(CH3Cl)、硫化カルボニル(OCS)、硫化水素(H2S)などは従来の紫外(UV)、可視光レーザでは調べることができない(これらのレーザは、上の種に対するスペクトル遷移が欠如している)。これらの分子種は、2〜4μmの中赤外スペクトル域で強い分子振動遷移を持っている。
 とは言え、燃焼気体向けの中赤外分光計は、この領域で利用できる検出器の感度が低いことが限界になっている。また、燃焼炎内の高温領域におけるIR放射からの大きなバックグラウンドノイズも制限要因になっている。
 今日利用できる最良のIR検出器は、極低温冷却光起電アンチモン化インジウム(InSb)検出器だ。これは、ノイズ抑制のために液体窒素で冷却する必要がある。これらの検出器は、例え燃焼炎から離して置いたとしても、室温で全ての対象物から来るバックグラウンドIR光が検出信号対ノイズ比(SNR)を厳しく制限する。

コヒレントレーザ技術

コヒレント非線形レーザ技術では、信号はレーザのようなビームとして生成され、炎からかなり離れた位置で検出できるので、背景放射が大幅に抑制される。IR-DFWMは、高感度コヒレントレーザ技術である。これは、燃焼状況における高感度、非侵襲計測では高い可能性を持っている。
 IR-DFWMでは、測定体積において3つの高出力レーザビームが交差する(1)。分子がレーザ照射を吸収すると、ビームの2つの交差領域で形成された干渉縞が、調べている分子の励起状態と基底状態で交互に構成されたグレーティングを生成する。第3のビーム、つまりプローブビームは、このグレーティングから散乱されて検出器に向かう。吸収が起こる波長は、どの種が計測体積に散在しているかを示す、また信号ビームの強度は種の濃度基準として使用される。
 中赤外信号フォトンを検出するためには、極低温InSb検出器が一般に使われる。しかし、室温で動作するアップコンバージョンをベースにした検出器は検出感度を大幅に改善し、さらにイメージング機能も加えてくれる。

アップコンバージョン

アップコンバージョン検出器の中核原理は、低エネルギー中赤外領域からの信号フォトンをより高いエネルギーの可視光または近赤外領域に変換することである。このプロセスは、非線形結晶で起こり、基本的に2つのフォトンのエネルギー加算からなり、これによってより高いエネルギーの新しいフォトンが生成される。このエネルギー加算は、周波数加算に対応している。しかし、和周波(SFG)が可能であるのは、関与するフォトンの運動が位相整合を介して保存される場合だけである。
 フォトンの運動は、伝搬方向と透過する媒体の屈折率に依存する。このため、アップコンバージョン検出器は、伝搬方向と入力信号波長の両方に対して感度がある。フォトンの運動が保存されるとき、そのプロセスは位相整合となっており、その領域は詰まるところ、結晶を通して新たな波長で整然と累積信号出力を形成することになる。われわれの実験では、周期分極反転ニオブ酸リチウム(PPLN)結晶を用いている。位相整合という制約は、燃焼解析では利点となる。受け入れられる帯域が数ナノメートル(nm)に制限され、ほとんどの熱背景がブロックされるからである。アップコンバージョン検出器は、レーザキャビティ内部に非線形結晶を置いた高共鳴系を利用することで非常に効率的になっている(図1)。この構成で、変換量子効率20%のインコヒレント像のアップコンバージョンを報告した(2)。

図1

図1 中赤外アップコンバージョン検出スキーム実験セットアップ。

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2015/01/LFWJ0115_ft_p20.pdf