凹型回析格子とCMOS SPADを使った低価格ラマン分光計

ラマン分光計の必須コンポーネントは、入射光を波長に応じて空間的に分離する波長セレクタ要素(フィルタまたはモノクロメータ)である。カナダのマクマスター大学(McMaster University)
の研究チームは、小型化と蛍光抑制に焦点を絞り、凹型回析格子とCMOSベースの時間ゲート単一光子アバランシェダイオード(TG-SPAD)検出器を利用することによって、ポータブルなインライン水質監視アプリケーション向けの低価格ラマン分光計を開発した(1)。

凹型回折格子による小型化

モノクロメータベースの分光計は、通常、波長分離に平面回折格子と複数のミラー・レンズ系を使用している。凹型回析格子は光の分離と集束の両方を実行するだけでなく、光路長を短縮し、システムの設置面積を小型化する。しかし、小型化は解像度と両立しなければならない。
 ホログラフィー技術を使って、そうした回折格子を、38.6mm の曲率半径をもつ平凹レンズ上に紫外レーザで980nmの格子定数をもつ回折格子を形成することによって組み立てた。その表面に2.5nmのクロムと20nmの金をスパッタコーティングし、表面の反射率を高めた。
 この実験セットアップでは、532nmの固体レーザ源(最終的な低価格構成ではより安いレーザダイオードに置き換える予定)からの光をダイクロイックミラーを通して試料上に集光させる。次に、ターゲットからの反射信号を集め、光ファイバへと送る。ファイバの他端は凹型回折格子の曲率半径で形成された仮想ローランド円上に位置する(図1)。このセットアップでは、短波長成分(反ストークスラマンとレーリー)はダイクロイックミラーを通って透過するが、長波長成分(ストークス散乱と蛍光)は反射され、ファイバ内を通って回折格子に結合される。

図1

図1 試料から反射されたストークスラマン散乱と蛍光信号は、低価格ラマンセットアップの凹型回析格子に入力され(左)、時間ゲートCMOSベース単一光子アバランシェダイオード(SPAD)検出器(右)で分析される。この検出器は試料に依存する特定の検出ウィンドウで構成されている。

CMOS SPADによるコスト削減

ラマン測定用に、単一の時間ゲートSPADピクセルを3軸並進ステージに設置し、520から600nmのスペクトルウィンドウでスペクトルデータを取得するために4mm範囲を粗い(10μm)または微細(1μm)な増分で走査する。このスペクトルクトルウィンドウはほぼすべての化学および生物試料のラマンシフト範囲500cm−1から2000cm−1に対応する。
 時間ゲートSPAD検出器は非常に狭いゲートウィンドウでターンオンされ、このウィンドウと合致する光子だけを検出する。3つのオンチップパルス発生器を使って3nsから250psのSPADの高速ゲーティングを達成する。異なる検出ウィンドウの下でのローダミンBのスペクトルを分析し、3nsのウィンドウでは、より狭い検出ウィンドウでは得られない高い蛍光ピークが観測されることが明らかになった。バックグラウンド蛍光を全信号スペクトルから除去することで、ローダミンBのラマンピークを容易に識別できた。

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2014/11/WN1-_LFWJ2014_11-2.pdf