スーパーレンズの新展開がサブ波長顕微鏡を改善

ジェフ・ヘクト

メタマテリアルは、光学分解能の従来の限界を克服できるが、それは高い損失、共鳴依存性、被写体深度の限界など別の課題を引き起こす。

サブ波長顕微鏡は、初期の風変わりなコンセプトから大きく進歩した。回折限界はまだ従来のバルクオプティクスの基準であるが、分解能はいくつかの方法で波長の半分以下にできる。メタマテリアルと特殊な測定機器は、透過、反射あるいは放出された光を直接記録することで真の超分解能を達成することができる。あるいは、蛍光、非線形性もしくは他の技術を用いる特別なプロセスで、機能的な超分解能が達成可能である(1)。後者は「むしろ信号処理に近い。画像を取得し、それを改善しようとする」とカナダのトロント大学(University of Toronto)のジョージ・エレフトヘリアデス氏(George
Eleftheriades)は言う。
 これまで、最も実用的な技術は機能的なものであり、例えばSTED(誘導放出抑制)顕微鏡。これは、ドイツのマックスプランク研究所(Max Planck Institute for Biophysical Chemistry)
のステファン・ヘル氏(Stefan Hell)が生物物理化学向けに開発した(2)。STEDにより、蛍光斑点のサブ波長解像度が達成できる、これはそれを囲む蛍光色素分子を脱励起することによって可能になる。その主要なアプリケーションは、他の機能的超分解能イメージングと同様に、生物医学にある。例えば、2014年6月、独ピコクワント社(PicoQuant)はSTEDを同社の時間分解MicroTime 200共焦点顕微鏡に付加し、解像度を優に100nm以下に改善した。
 走査型近接場光学顕微鏡(SNOM)は、小開口を近接場に交差して動かすことで真の超分解能を実現するが、多くのアプリケーションには時間がかかりすぎる。メタマテリアルデバイス、例えば英インペリアルカレッジ・ロンドン(Imperial College London)のサー・ジョン・ペンドリィ氏(Sir John Pendry)が考案したスーパーレンズでは、遙かに大きな面積を一度に観察できる(3)。その優位性により、また真の超解像度の柔軟性により、スーパーレンズの進歩は速いが、直面している大きな課題はまだ存在する、それには有限帯域幅、深さ方向の分解能、特殊材料必要性が含まれる。

スーパーレンズとエバネセント波

スーパーレンズのコンセプトは、誘電率と透磁率の両方がある波長で負となるメタマテリアルを基盤にしている。そのためメタマテリアルは屈折率が負になり、サブ波長像生成に必要な情報を含んでいるエバネセント波を捉えることができる。これらの情報は、従来のオプティクスでは捉えられない。図1に示したように、スーパーレンズは入射光を後方に曲げて結像面をその内部に作り、もう1つを反対側に作る。
 最もよく知られているエバネセント波は、全反射が起こる面から漏れ出る波である。それらは表面に近接して検出できるが、表面から離れると飛躍的に減衰する、つまりエネルギーを遠くに運べない。ペンドリィ氏のスーパーレンズは、表面近傍の波に焦点を合わせることでサブ波長分解能が達成できる。負屈折率材料は「実際にエバネセント波を増幅し、古典的なイメージングシステムではアクセスできないような細部を高分解能で復元する」とエレフトヘリアデスィ氏は書いている(4)。
 負屈折率メタマテリアルスラブはスーパーレンズとして使える。これは、元の周波数に対して負の周波数で時間分解波を生成し、超解像度画像を実現する、と米デューク大学(Duke University)のステファン・ラルーシュ氏(Stephane Larouche)は言う。負屈折率は、エバネセント波を分散すると言うよりもスネルの法則を無効にする。メタマテリアルは、広い範囲にわたりサブ波長分解能を持つ、これは一度にたったの一点にしか対応しないSNOMとは異なっている。
 スーパーレンズには欠点がある。特に可視波長で負の誘電率を持つ金属膜に対しては、減衰は高くなりがちである。メタマテリアルの特性は共鳴に依存するので、超解像度イメージングに不可欠の負の屈折率は、限られた波長帯域にしか存在しない。スーパーレンズも近視野に限られており、3Dで焦点を合わせることはできない。

図1

図1 屈折率 -1のスーパーレンズは入射光を後方に曲げ、結像面をメタマテリアル内部に、さらにもう1つの結像面を材料の反対側に作る、これにより超解像度が得られる(出典ウィキペディア)

広帯域スーパー波長イメージング

2012年、独RWTHアーヘン工科大学(RWTH Aachen University)のトマス・タオプナー氏(Thomas Taubner)とその同僚は、グラフェンから可変帯域スーパーレンズの作製することを提案した。グラフェン層はプラズモンをサポートするとともにガイドでき、メタマテリアルでの利用を好適にする。グラフェンに適用される様々なゲート電圧、電界、あるいは化学ドーピングは、その伝導性を変えるので、グラフェンの特性を赤外およびテラヘルツ周波数で連続的にチューニングできる(5)。
 グラフェンにおけるイメージングは、共鳴が強くないので、真のスーパーレンズ効果よりも弱いが、タオプナーの研究によると、グラフェンシートならエバネセント波を強化してサブ波長イメージングを実現する。RWTHのチームは、2つのグラフェン層で1/7波(7/λ)程度の解像度が達成可能であると予測しており、また多層にするとλ/10程度は達成可能であると見ている。最重要点は、グラフェンレンズが中赤外からテラヘルツ帯までで回折限界以下に集光できると予測していることである。タオプナー氏のチームは、このコンセプトを半導体ヘテロ構造の2次元「伝導性シートレンズ」に一般化できると言う。グラフェン多周波数スーパーレンズで実験した結果はまだ公表されていない。

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2014/11/feature4-_LFWJ2014_11-10.pdf