産業用レーザの経験を経て変わる理科学用超短パルスレーザ

アラン・アシュミード、スティーブ・ブッチャー、マルコ・アリゴーニ

産業用レーザ分野の専門技術を活用することで、超短パルスレーザの簡素化、信頼性向上、データの取得コスト及びデータスループットの改善を生み出した。

歴史的に、理科学用超短パルスレーザを製造する企業はほぼ例外なく最先端のパフォーマンス(高ピークパワー、短パルス幅など)を狙っており、時には先進的であるが信頼性に乏しいデザインを利用してきた。一方、産業用レーザの設計はコストを意識したものであり、運用の簡素化や信頼性がことのほか重要であり、スループット、パーツあたりのコスト、稼働率、ランニングコストが重要なパフォーマンス指標となる。
 これらの違いが、理科学用レーザと産業用レーザのデザイン思想に大きな差を生み出した。理科学用レーザにとっても生産性とランニングコスト(つまり、データの取得コスト)が非常に重要であることが認識され始めているので、産業界の核となるコンセプトの一部を応用することで今では、最先端のパフォーマンスと産業グレードの信頼性、稼働時間、生産性を提供する理科学用レーザが生み出されている。

簡素化と性能のトレードオフ

これまで超短パルスレーザのイノベーションの流れは、一方向のみだった。つまり理科学用製品から産業用製品という方向である。15〜20年前と異なり、自分たちの実験用途に合わせて、わざわざ特注レーザを設計し作製しようとする理科学分野のユーザはほとんどいない。とは言え、市販のレーザを理科学用途に使用するには、ますます厳しくなる要求仕様と設計上の信頼性との間で妥協点を見つけざるを得なかった。つまり、科学者や研究者たちが、以前から避けられない事として我慢してきた妥協だ。
 レーザ業界は、長期サービス契約、迅速対応のフィールドサービス、スペアパーツの在庫の充実、交換レーザの先行手配など、カスタマーフレンドリーなサービスを提供してきた。しかし、修理コストへの保証や修理期間の短縮だけでは十分でない。(直接・間接)コストが増大し、研究が複雑化する中で、研究者たちは簡単かつ迅速に修理できるものよりも、全く壊れないレーザを求めるようになった。
 こうした要求に応えるために、レーザメーカーは産業用レーザの知見と経験の恩恵を受けた理科学用レーザの開発に取り組むようになる。両方の領域間のノウハウの流れは最終的には双方向になり、理科学用レーザにおけるいわば「産業」革命に行き着く。われわれは今、とりわけ最先端の性能と、しっかりした産業用の信頼性を兼ね備えた次世代の理科学用レーザの開発を目指している。現在の実例は、超短パルス発振器と超短パルス増幅器に見ることができる。
 発振器では、これまでの大きなトレードオフは最短パルス幅と運用の簡素化にあった。最先端のフェムト秒実験ではより優れた時間分解能で、さらなる短パルス化が求められている。暗黙の経験則では、「パルス幅が短くなればなるほど、レーザの操作にますます手間がかかる」。しかし今では、シールドされた発振器からサブ8フェムト秒(fs)パルスが出るレーザによってこの経験則は、変わりつつある。
 増幅器では、従来のトレードオフはピークパワーと運用の簡素化の間にあった。短パルス化と高パルスエネルギー化、あるいはそのどちらかを達成するには、常にオペレータが頻繁に調整しなければならなかった。対照的に、産業用のデザインを取り込んだ、より新しい増幅器ではシールドされたストレッチャ/コンプレッサユニットだけでなく、シールドされた発振器も採用しており、例えばパルス幅35fsあるいはそれ以下で、6mJ/パルスが可能である。超短パルス増幅器におけるストレッチャ/コンプレッサユニットは最も繊細な部分で、これまでは空気の揺らぎや温度変化、ミスアライメントに対して非常に敏感で、最終的なパフォーマンスに影響していた。

統計学により改善されたレーザ

レーザの信頼性とハンズフリー操作を改善する鍵は、レーザが最適性能からドリフトする、突然性能障害が起こる、あるいは寿命に対して劣化が早すぎると言った理由の全てを完璧に理解することである。このような理解を得るには、R&Dやプロトタイプ段階での、環境的にストレスの多い条件下で多数のコンポーネントや完成品のレーザを試験する必要があり、故障解析に続いて改良設計を繰り返すことになる。これはまた、多数のプロトタイプ製品を使用している顧客の現場での性能分析を必要とする。実際の現場での経験に代わるものは存在しないからである。
 ハイエンド理科学レーザのメーカーが直面する課題の1つは、出荷数量が少ないことである。OEM産業用レーザでは数100ユニットを使うかも知れないが、一般的な研究グループは数年に一度、1つのレーザシステムを発注するに過ぎない。現場での数が相対的に少ないと、理科学用レーザでは有意の故障や性能の統計は得難い。この問題への当社のアプローチは、多くの産業用レーザのインストールベースから過去のデータを解析することである。

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2014/11/feature2-_LFWJ2014_11-8.pdf