デジタル化するレーザ制御
レーザダイオードが1970年代に商業化可能レベルになって後、初のダイオードレーザが開発され、多くのアプリケーションで採用された。それ以来、ダイオードレーザのアプリケーションの幅は、途切れることなく拡大を続け、レーザダイオードは材料加工、バイオメディカル、あるいはプロセス制御など様々な用途で使われている。
ここでは、狭線幅可変ダイオードレーザと、その制御エレクトロニクスに焦点を当てる。この特殊タイプのダイオードレーザは、冷却原子およびイオン、量子情報、高精度分光学の領域で、高精度光源として主要な役割を果たしている。このような光源は、原子の内部構造の研究、基本的な不変量の高精度計測で不可欠の手段となっている。原子時計も別の重要分野であり、その高い光周波数と狭線幅遷移により、既存のセシウム基準よりも遙かに高精度の時間計測が可能になる(1)。
狭線幅可変ダイオードレーザ
これらのアプリケーションの多くは、何らかの方法で原子遷移の励起を利用する。フォトンの波長が関連する原子レベルのエネルギー差に一致するとき、原子がフォトンを吸収する。もう1つ別の重要なパラメータは、レーザの線幅だ。これは、原子遷移の線幅よりも狭くなければならない。とは言え、自走ダイオードレーザの線幅は一般に数100GHzである。ECDLセットアップ(外部共振ダイオードレーザ)では、周波数選択素子(グレーティング)によってレーザの線幅は100kHz以下になっており、一定の範囲でレーザ周波数を可変(チューニング)できる。これによってレーザの周波数は、原子遷移と高精度に一致させられる。今日のECDLは190nmから3000nmの波長をカバーし、直接に、あるいは二次高調波発生(SHG)、四次高調波発生(FHG)により出力する。
ECDLの光学機械特性は、過去数年にわたり継続的に改善が進んでいる。例えば、独トプティカ社の「プロ」シリーズ・ダイオードレーザは、特許デザインと最新の製造技術によって、広いチューニング範囲と狭線幅をともに実現しており、振動や環境条件の変化に対する安定性も卓越している。
指先でレーザ制御
新しい世代のレーザコントローラは、今ではレーザの傑出したオプトメカニカル特性を補完するものとなっている。新しいDLCプロで(図1)、タッチディスプレイと改善されたノイズレベルを持つデジタル制御コンセプトがラボに入っている。これは最新のルック&フィール(外観)と、デジタル世界で追加された自由度を統合している。追加された自由度とは、コンピュータ、ネットワークとの親和性、重要システムパラメータの蓄積、デジタル実験制御に容易に統合できることなどを指している。
従来の触感的なボタンで「ブラインド」操作ができることに加えて、DLCプロは静電容量性マルチタッチスクリーンも備えている。全ての関連するレーザパラメータ、例えばダイオード電流、スキャン振幅やスキャンオフセットなどは、簡単な直観的タッチジェスチャーで変えられる。
DLCプロは、レーザダイオード用には電流と温度の調整器、ECDLグレーティングの位置決め用にはピエゾ駆動回路を持っている。FPGAベースのメインユニットがスキャン信号を発してモードホップフリーチューニング、レーザ周波数のロックイン変調を実現している。
外部機器からの信号、例えばルビジウムガスセルからのスペクトル信号を直接処理することで、この装置は追加のオシロスコープに取って代わることさえできる。
制御エレクトロニクスは、最も頻度の高い作業にも革命をもたらす。レーザ周波数を安定させて外部のリファレンス、多くは分光信号に合わせる。この目的のためにデバイスはデジタルロックイン増幅器、2つのデジタル比例・積分・微分コントローラ(PID)を備えている。これらを用いてDLCプロは、円で囲んで強調したスペクトラム(図2)の適切なロックインポイントを直接見つけることができる(例えば、サイド、頂点)。ユーザは、タッチ&ジェスチャで直観的にレーザ周波数を、それらの対象の1つに調整して合わせる。これらの円の1つを叩くことで見たいポイントを選ぶ。もう一度クリックするとレーザの周波数が安定し始める。スキャンは自動的に完了し、レーザは進んでこの点にロックされる。
全ての機能は、配信も含めてリモート制御とPCソフトウエアを介して使用することもできる。これにより、実際の実験が数千kmかなたで行われても、USBかイーサネットでレーザを操作することができる。
この新しいデジタルコンセプトに対する最も主張したいことは、ノイズとドリフト値などの技術的特徴がアナログのレーザコントローラと比べて非常に優れていることである。この新しいコンセプトにより、電流ノイズ、したがってレーザ周波数の周波数ノイズ密度が大幅に改善されている。DLCプロと組み合わせることでDLプロは、その光学機械的な恩恵を十二分に受けて、不安定なレーザの線幅が著しく減少する。図3は、1200nmでのDLプロの自己へテロダイン計測の結果を示しており、DLCプロによって制御されることで線幅はわずか5kHzとなった。さらにレーザ周波数の長期安定性も著しく改善されている。これは本来なら、環境条件の変化にともなう温度、ピエゾ、電流コントローラの影響を受けるものである。
「スローライト」とライダへの応用
特に、レーザを1個以上使用する複雑な実験では、個々のレーザのパフォーマンスと安定性が極めて重要になる。これらのアプリケーションは、この新しいデジタルコントローラの優れた技術的特性の恩恵を受けている。レーザの線幅をHzあるいは光原子時計のようにサブHzレンジに固定するような極めて厳しい実験でも同様である(2)。ここでは、レーザは長期にわたり高信頼に機能する必要がある。これらのアプリケーションでは新しい低雑音エレクトロニクスが非常に有利に働き、これらのレーザを安定させながら、低ドリフトであるので、クラス最高の長期安定性が得られる。
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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2014/10/fea5_LFWJ201409-9.pdf