豊かな歴史が引き続き成果を生む中国のSIOM

ルシン・リー(李儒新)

設立50周年を迎える上海光学精密機械研究所は、ハイパワーレーザ、強磁場物理学、量子光学の分野で先駆的役割を果たしてきた。

1964年5月に設立された中国の上海光学精密機械研究所(SIOM)は、中国におけるレーザ科学および技術の最も重要な研究センターとして広く認められている。SIOMは、中国科学院(CAS)の約100の研究機関の1つで、その起源は北京と長春のCAS研究所のレーザ研究グループにある。この研究グループは、1961年に中国のルビーレーザ発振器を初めて実証した。
 SIOMは包括的な研究所となっている。主要研究分野には、ハイパワーレーザ技術、強磁場レーザ物理学、情報光学、量子光学、固体レーザ技術とそのアプリケーション、レーザ向けの材料およびオプトエレクトロニクスが含まれる。ここでは、当研究所の50周年を記念して、レーザ技術開発と物理学研究の最近の前進に焦点を当てたい。

核融合研究

SIOMは、数十年にわたりハイパワーレーザ技術と工学の研究開発に注力してきた。ハイパワーレーザ技術とレーザ核融合実験施設の展開における初期の成果に加えて、SIOMがここ数年で開発したのは、中国初のマルチキロジュールレーザファシリティ、神光(SG:神光は、中国語で「魔法の光」という意味)-IIファシリティだ。SG-IIレーザファシリティには、2バンドルにまとめた8本のレーザビーム(図1)と多機能ビーム(9番目のビーム)が含まれる。レーザビーム間の時間同期は10ps RMSとなっている。
 このファシリティでは、ファイバ発振器、ファイバ増幅器、ハイパフォーマンス集積導波路素子がシードユニットで使われている。異なるパルス間のタイミングジッタ(10psレベル)は、独自の短パルストリガー技術によって効率よく制御される。シングルピクセル空間光変調器を開発してレーザビームの近接場強度をアクティブ制御しているので、任意空間分布の達成が容易になっている。さらに、アクティブ波面コントロールシステムは、9番目のビームで設計、最適化、統合できる。主要コンポーネントとしては、9ビームそれぞれについて、デフォーマブルミラー、ハートマン波面センサが含まれる。コンピュータ制御を採用してレーザ収差を修正しているので、優れたフォーカス性能が達成できる。
 SG-IIレーザファシリティは、10年以上にわたり安定的に運用されており、近い将来に20kJクラスレーザファシリティにアップグレードする予定になっている。このファシリティは、高エネルギー密度物理学研究の国際的利用施設になっている。ここで行われた最も面白い実験の1つは実験室天文物理学に関連するもので、ループトップX線源や太陽フレアの再結合流出のモデリングなどであった(1)。

図1

図1 8ビームのSG-IIレーザファシリティは2000年に完成。ビーム開口部は240mm、総出力エネルギーは1053nm/1nsで6KJ、
351nm/1nsで3KJ。SG-II 9番目のビームは、プローブおよび高圧衝撃波ドライバーとして2005年に建設。その出力は、350mmビーム開口で5.2KJ/パルスに達する。

超高強度フェムト秒レーザ

SIOMは、チャープパルス増幅(CPA)機構を用いて2007年に中国初のペタワット(PW)フェムト秒レーザファシリティを開発した。このレーザシステムは先頃、100mm径Ti:サファイア増幅器(図2)(2)をベースにして2PWにアップグレードした。これは、われわれが知る限りでは過去最高のピークパワーを達成している。新開発のハイコントラスト広帯域フロントエンドにより、26fs長レーザの信号対雑音比(SNR)も改善された。
 横方向の寄生発振の抑制は、10PWクラスの大型開口CPA増幅器では真剣に取り組むべき技術的なボトルネックと見なされている。他の選択肢としては、光パラメトリックチャープパルス増幅器(OPCPA)がフォトルミネセンス効果なしで、一段と高いエネルギー増幅をサポートできる。三ホウ酸リチウム(LBO)は魅力的な非線形結晶であり、800nm付近で高効率、広帯域OPCPAをサポートできる。10PWを超えるピークパワーのフェムト秒レーザシステムは、Ti:サファイアベースのCPAチェーンとLBOベースのOPCPAブースターアンプを組み合わせることで開発できる。SIOMは先頃、ハイブリッドTi:サファイア-CPAとLBO-OPCPAシステムを実装した(3)、これはスペクトラル帯域80nm(FWHM)で増幅パルスエネルギー28.68Jを生成可能である。パルス圧縮後、このレーザシステムのピークパワーは0.61PW、パルス幅33.8fsになる。

図2

図2  2PWフェムト秒レーザファシリティ用の100mm径Ti:サファイアマルチパス増幅器。ここでは横方向の寄生発振をアクティブおよびパッシブ機構で抑制することに成功した。

強磁場レーザ物理学

レーザ航跡場加速器(LWFA)は今では、従来の高周波加速器と比べて遙かに小さな規模でマルチギガeV(GeV)の電子ビームを生成できる。第一段のトンネルイオン化誘導インジェクションをベースにして、ほぼGeVの準単一エネルギー電子ビーム(QMEB)を持つオールオプティカル・カスケードLWFAがSIOMで初めて実現された(4)。ピークエネルギー〜0.8GeVのコリメートされたQMEBは加速勾配187GV/mで得られる。
 段階的なLWFAスキームの重要な問題は、第2段への電子のシード処理フェーズをコントロールすることであり、SIOMは最近2段LWFAに向けてこれを実証した。第2段への電子のシード処理フェーズを最適化することにより、3% RMSエネルギー広がりで0.5GeVを超える電子ビームが2mmの短い加速距離で生成された。電子ビームのピークエネルギーは、第2加速段を5mmに伸ばすことで1GeVを超えた(5)。

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2014/07/011661042a14e72e9ab39f80c0e32fe1.pdf