レーザダイオード、可視光領域のほぼ全域に対応

ジョン・ウォレス

緑色、青色、赤色光を照射するレーザダイオードは単体で、または複数を組み合わせることによって、多様な用途に対して使用されている。ファイバ結合や波長安定化といった機能強化が加えられる場合が多い。

レーザダイオード(LD)は、世界で圧倒的に最も多く使用される種類のレーザで、光ファイバ通信や量産市場の分野で膨大な数が使用されている。可視光領域(一般的には400〜700nmとされるが、人間の目は780nmまでの近赤外域を認識でき、強度が十分に高ければそれ以上も認識可能)で動作するレーザダイオードが、コンピュータのマウス、CD、DVD、ブルーレイの読み取り・記録装置、ローエンドのポインタといった一般的なデバイスにおいて使用されている。可視光LDは、科学や法医学などの分野を対象とするハイエンドの光源としても利用することができる。
 最初に汎用用途に使われ出したのは赤色発光のLDで、1980年代に広く普及するようになった。代表的な例はCDプレーヤーである。今日の赤色発光LDは一般的に、AlGaInP(アルミニウムガリウムインジウムリン)をベースとし、可視光領域の端から最短で633nmのHeNe(ヘリウムネオン)レーザ線までの波長のものが提供されている。
 GaN(窒化ガリウムアルミニウム)ベースのLDは、21世紀に入る頃に市場に登場し始め、LDで生成可能な色の範囲を大きく拡大した。これらのLDは、UV(紫外線)から500nm以上までの波長での照射が可能である。今日では、紫、青、または緑色光を照射するGaNベースの可視光LDを購入することができる。現時点では適切な半導体構造がないために、黄色や橙色で発光するLDは商用提供されていない。
 小さなウィンドウ付きのCAN型パッケージに密封されているか、マルチエミッタバーとして構成されていることの多い可視光LDは、さまざまな構成で販売されている。ベアのLDや、複数のLDをバー状に配置した製品のほか、CAN型パッケージに収容される形で、シングルモードまたはマルチモードファイバのピグテール付きで、波長の安定化などが可能な堅牢なコンポーネントを構成するレーザモジュールとして、またはフォトニクスシステム全体の構成要素として、LDが提供されている。標準的なエッジ発光LDは、楕円錐状の拡散光を生成するため、直交方向で異なる形状に光線を拡大するコリメート光学部品が通常は必要になる。
 可視光LDの製品や用途の数はとてつもなく多い。そのため本稿で紹介するのは、市場において絶えることなく選択肢を拡大し続ける製品のほんの一部にすぎない。

赤と緑と青の組み合わせ

赤、緑、青(RGB)で発光するLDを使用する最も顕著な利点の1つは、それらのレーザを組み合わせて、白色を含む、人間の目が認識可能な任意の色の光を生成でき、コンパクトで色域の広いレーザプロジェクターが実現できることである。
 米パワーテクノロジー社(Power Technology)は、開発と商用化が行われる最新のLD波長である緑色を含む、UVからIR(赤外線)までの範囲の波長をもつLDとLDモジュールを製造している。同社で最大出力を誇る可視光LDは、1.6Wのマルチモード青色LDで、435〜455nmの範囲の波長で提供されている。これに続く出力を持つ1.5Wの赤色発光LDは、663〜677nmの範囲で提供されている(同社はこれよりも低出力のシングルモード可視光LDも提供している)。最長波長の緑色LDは、520nmで50mWを照射し、シングルモードである。
 同社のLDモジュールは、すべてに丸い形状のコリメート光線を生成する光学部品が搭載されており、温度安定化、スペックル低減、長いコヒーレンス長(30m)といった、多様な機能を備える複数のバージョンが提供されている。スペックルを低減するバージョンには可動ディフューザが搭載されており、スペックルコントラストを1〜10 msで2〜3%にまで低減することができる。これは、干渉法、リソグラフィ、プロジェクションなどの用途に適した機能である。
 レーザプロジェクションは、パワーテクノロジー社がかなり力を入れている分野である。同社は本年のフォトニクスウェスト(2月1〜6日開催)で、プロジェクションレーザ「iLLUMINA」を発表した。同社のセールスおよびエンジニアリング担当副社長を務めるウォルター・バージェス氏(Walter Burgess)によると、広い色域を実現するために特に選択された赤、緑、青のレーザ光源を搭載するという
(図1)。「光源は一部半導体レーザをベースとしている。具体的には、GaNベースのLDでスペクトルの青色成分を生成し、AlGaInPベースのLDで赤色成分をカバーしている」と同氏は述べた。
 このプロジェクターの現行版は、小さな画面サイズをターゲットとしているが、この次世代のiLLUMINAプロジェクターによって、まもなくより大きな画面に対応する予定だとバージェス氏は述べている。キセノンランプ搭載プロジェクターと比較した場合の利点としては、画面の輝度が高く、色域が広く、運用および保守コストが低く、動作条件が安全であることが挙げられる(キセノンランプは、有害なUV光線を生成し、1000℃を超える温度に達する)。

図1

図1 赤色発光LDと青色発光LDを搭載するRGBレーザプロジェクター「iLLUMINA」を用いて構成されたホームシアター。従来のプロジェクターよりも色域が広いこの製品は、映画館向けに規模拡大される予定である。(提供:パワーテクノロジー社)

ファイバ結合で高出力を実現

高出力のLDとLDバーで知られる米ディラス・ダイオード・レーザ社(Dilas Diode Laser)は、多様な種類の青色および赤色発光LDを製造している。同社の副社長兼ゼネラルマネージャーを務めるスティーブ・パターソン氏(Steve Patterson)によると、シングルエミッタやバーの形状の赤色発光LD(635〜689nm)や、ファイバコア径が100μm以上のファイバ結合パッケージなどを提供しているという。このような赤色レーザの応用分野としては、シネマプロジェクション、光線力学療法(PDT)、固体レーザやアルカリ蒸気レーザの励起などがある。
 「赤色では、ディラス社で開発された定評のあるT-Bar(Tailored Bar)のコンセプトが採用されている」とパターソン氏は述べている。「638nmで50Wの偏光を、開口数(NA:Numerical Aperture)が0.22の400μmのファイバに結合するモジュールが製造されている。偏光合成を使用して、出力をさらに大きくしたり輝度を高くしたりして、200μmのファイバに結合することができる。得られたレーザ光源のビームパラメータ積(BPP:Beam-Parameter Product)を大きくすることによって、さらに出力を大きくすることができる」(パターソン氏)。
 同社の青色LDは、200〜400μmまたはそれ以上のコア径にファイバ結合され、波長は約450nmから405nmである。出力レベルは標準で10、25、40Wで、用途によっては200W以上にまで増加することができる。
 「青色のスペクトル範囲では、シングルエミッタを採用し、サイドバイサイドで結合することによって、高いファイバ結合出力を実現している。このコンセプトに基づき、10Wと25Wの光線源が最近市場に投入された。このようなパッケージ型シングルエミッタ用にディラス社が開発したモジュール式合成のコンセプトにより、ファイバコアのサイズによっては出力を数百ワットにまで増加することができる」とパターソン氏は述べた。

多数の色を調整出力

多くの科学や産業の応用分野において、LDの光を外付けの電子部品や光学部品によって個々のニーズに適合するように制御することが求められる。独トプティカ・フォトニクス社(Toptica Photonics)の社長を務めるヴィルヘルム・ケンダース氏(Wilhelm Kaenders)は、「当社ではレーザダイオードそのものも提供しているが、『レーザダイオード』を『ダイオードレーザ』に転換することを目的として掲げている。つまり、光電子半導体サブコンポーネントを、電子的に実現された光学性能が成功の鍵を握るレーザツールへと転換する。コヒーレンスの追加や破壊、スペクトルの安定化、波長のアジリティの実現、ビーム品質の改善、レーザダイオードだけでは達成できない波長の達成によって、このツールを実現する」と述べる。

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2014/07/268ca854712ee6e1d15a0cbdaf612a66.pdf