架橋のアイデアで高速フォトクロミズムを実現 ─ リアルタイムホログラムへの応用も
フォトクロミック分子は調光レンズをはじめ、光メモリや光スイッチ、構造変化を利用した光メカニカル材料といった応用が研究されてきた。さらに反応の高速化が進んできたことから、蛍光顕微鏡、リアルタイムホログラフィなど様々な分野での応用研究が進んでいる。
フォトクロミズムとは、分子が光の作用によって異性体の間を行き来する現象である。変化は可逆的で、特定の波長の光を吸収して構造および吸収スペクトルが変わることによって見た目の色が変化する(図1)。別の波長の光を当てることによって元の異性体に戻るP型フォトクロミック分子と、熱反応により戻るT型フォトクロミック分子に大別できる。P型は室温では、光を照射するまで元に戻らないため、光メモリへの応用が研究されている。一方、T型は室温でも戻る時間が比較的速く、サングラスなどの調光ガラスや各種製品向けの特殊色素として実用化されている。また光プラスチックモーターや光スイッチといった運動エネルギーへの変換などでも盛んに研究が進められている。
フォトクロミズムについて初めての研究報告があるのは19世紀後半だ。日本で注目されるのは、1960年の林太郎氏、前田候子氏によるヘキサアリールビイミダゾール(HABI)におけるフォトクロミズムの発見である。さらに1988年の入江正浩氏によるジアリールエテンのフォトクロミズムの最初の報告および、その後に続く単結晶のフォトクロミズムの発見も特筆される。
2か所の架橋にインスピレーション
青山学院大学 理工学部 化学・生命科学科 教授の阿部二朗氏はHABIを研究する中で、2005年に独自のアイデアにより高速のフォトクロミック分子を開発。現在は様々な色および数百ナノ秒から数百ミリ秒までの幅広い戻り時間の分子を合成している。HABIは紫外線を照射することによって2つのイミダゾリルラジカルに解離する(図2)。ラジカルは不安定なため重合反応を引き起こすことから、フォトレジストの材料として利用されてきた。ただ一度反応すると戻らないため、繰り返し用途には使えないとして、レジスト以外の研究はほとんど行われてこなかった。
阿部氏はX線構造解析のためにHABIを結晶化した際、結晶中においてはフォトクロミズムに伴う発色・消色反応が迅速に行われたことから「2つのイミダゾリルラジカルを空間的に近接させればよいというヒントを得た」という。さらに、分子内に2つのHABI部位を持つフォトクロミック分子を発見したことから、2つのイミダゾリルラジカルを架橋すれば、ラジカル解離後に散逸することなく、周辺分子と反応を起こす前にすぐ元に戻ると考えた。そうして2005年に誕生したのが、室温における戻り時間が180msという高速のナフタレン架橋型イミダゾール二量体である。さらに2008年には第2世代といえる [2.2]パラシクロファン架橋型イミダゾール二量体の合成に成功(図3)。これは第1世代よりもさらに、解離場所に近い部分で架橋したものだ。
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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2014/03/IntroLab-LFWJ1403.pdf