CVDダイヤモンドIRオプティクスでEUVリソグラフィが可能になる

アンドリュー・ベネット、ユージン・アノイキン、ベノ・ブロリク

EUVリソグラフィにおいてプラズマベース光源向けの赤外透過ウインドウは、過酷な光学的、物理的な環境に直面しなければならない。高IR透過、大きな力、不活性性によりCVDダイヤモンドはこの役割では群を抜いている。

40年以上、光リソグラフィ業界がより強力でエネルギー効率のよいコンピュータチップに向けて前進してきた背景には有名なムーアの法則があった。小型化を続けるトランジスタを製造する主要アプローチの1つは、光リソグラフィの絶えざる短波長化に乗ずることである。最新の変化は、193nmもしくは248nm DUV光からわずか13.5nm極紫外(EUV)である(1)。この光を効率的に生成する方法は限られている。最先端にあるのは炭酸ガス(CO2)レーザでポンプするスズベースのレーザ生成プラズマ(LPP)である。
 基本的な工学的課題の多くは解決ずみであるが、このプラズマは所望の波長では効率が低い。加えて、一旦発振するとシステム損失なしに操作することが難しい。このため、ウエハ処理レートを上げるためにプラズマに十分なパワーを与えることが課題になっている。システムへの平均出力IR励起パワーは一般的には20kWを越えなければならない。パルス幅10nsでパルスエネルギーは最高1J、これは従来のレーザアプリケーションでは滅多に要求されなかったレベルである。
 適切な平均パワー出力を持つCO2レーザで使えるものがあるが、これらは所望のパルス形状が出せるように変える必要があるが、そうすると効率低下につながる。実際的には、LPP EUVシステムには、2つまたはそれ以上のハイパワー出力を多重することが求められている。そのようなレーザパワーの利用で課題となっていることは、光学部品で従来の材料ソリューションが全く不十分である、あるいは寿命が短いことである。加えて、プラズマ周辺の環境に夥しいデブリが生じ、これが従来の材料の性能をさらに制限する。

ダイヤモンドの特性

ダイヤモンドは優れた特性を持つことが以前から知られている。これは、極めて強く結合した軽い炭素原子で構成する対称的な立方格子から得られる結果である。機械的なアプリケーションでは、主にその抜群の硬さが歴史的に利用されてきた。しかし、そのセンシング、熱あるいは半導体特性が活用できる領域でもダイヤモンドは利用されてきた。1978年という昔から、ダイヤモンドは光学部品に利用されていた。例えば、ダイヤモンドは波長透過性が広く(図1)機械特性が優れていることから、パイオニア・ヴィーナス・オービタ宇宙船でIR分光計のウインドウとして利用された(2)。しかし、天然ダイヤモンドからは一般に光学部品に必要なサイズが得られない、また工学的ソリューションに必要な均一な品質が得られない。
 LPP EUVアプリケーション向けのダイヤモンドの有用性を調べるには、ハイパワービームラインで使用されている光学部品の主要な仕様をリストアップするのがよい。①低吸収係数、②高破壊強度、③高い熱伝導性、④低い熱膨張係数(CTE)。表では、ダイヤモンドの一部の特性と、通常使われるIR光学材料セレン化亜鉛(ZnS)の特性とを比較している。
 低い吸収特性は、光コンポーネントの加熱を最小化する上で極めて重要であり、同様にシステム全体で光損失を最小化する上でも重要である。ダイヤモンドはバンドギャップが5.45eVと広い。これはダイヤモンドの短波長カットオフが230nm付近であることを意味する。また、結合の対称性により、材料的にはマイクロ波領域までおしなべて透明である。結果として、ダイヤモンドは広い波長範囲で優れた透過特性を持ち、これにはEUVシステム強化に使える重要波長の多くが含まれている(3)。もちろん、多結晶ダイヤモンドが使われることに留意すべきである。多くの光学材料では、光学素子の多結晶の特性のために利用が制限される。しかし、ダイヤモンドの立方構造は、膜の多様な結晶配向のパフォーマンスへの影響を最小化する。
 ダイヤモンドの2番目の重要な特性は、その高い破壊強度である。光学部品を大量の異なる圧力の仕切りとして使うとき、この点が非常に重要になる。支障なく圧力保持ができるように設計された典型的なダイヤモンドウインドウは、ZnSでできた同等のウインドウよりも4倍以上薄くできる。相対的に高いこの破壊強度によってシステムの総吸収が少なくなることは明らかであり、競合材料に対してダイヤモンドウインドウのわずかに高い吸収係数を和らげることになる(4)。
 このシステムの次なる重要パラメータは熱伝導性である。ウインドウで吸収されたパワーは全て迅速にクーリングシステムに移してウインドウのピーク温度を最小限に抑えなければならない。熱レンズ効果によるパワーロス、あるいは光学部品の破損につながるからである。この熱はバルクウインドウ材料からだけでなく、コーティングからも来る。

図1

図1 光学グレードのダイヤモンドの透過スペクトルを3種類の厚さで示した。

表1

表1 ダイヤモンドとセレン化亜鉛の物理特性

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2014/02/FT5-LFWJ1401.pdf