紫外域に入り込む酸化亜鉛

デイビッド J. ロジャース、フィリップ・ボーブ、エリック V. サンダナ、フレクテ・ホセイニ・テヘラニ、リアン・マクリントク、マニイェ・ラゼギ

酸化亜鉛(ZnO)とマグネシウム(Mg)合金における最近のブレイクスルーによって、(Al)GaNベースの深紫外エミッタ・ディテクタで、格子と効率の問題を抑制した代替が可能になる見通しである。

酸化亜鉛(ZnO)は優れた多機能半導体材料で、直接ワイドバンドギャップ(Eg〜3.4eV)、可視光全域にわたる基本的に高い透過性、ドーピングによって半絶縁性から半金属まで調整できる抵抗性がある(1)。また、ZnOは半導体の中では最も圧電応答の高いものの1つであり、相対的に熱電性能指数(FOM)が高い。さらに、生体適合性があると判断されており、米国食品医薬品局(FDA)はZnOの人体消費(ビタミン剤などの製品)を認可している。
 これらの特徴により、ZnOは多数の産業アプリケーションに使われてきた。最近のナノマーケッツ社 (Nanomarkets)の調査では、ZnOベースのオプトエレクトロニクス市場は、2010年にすでに5億ドルを超えており、2017年には23億ドルを超えると予測されている。その時点では、同市場の65%超が新しいアプリケーションで占められるようになる。大部分は太陽電池(PV)、ディスプレイ、発光ダイオード(LEDs)、センサ(ガス、UV光、生物学)的となる見込みだ。
 太陽光発電(PV)では、ZnOは現在、透明電極としてインジウムスズ酸化物(ITO)に取って代わろうとしている。これは最近、アルミ添加ZnOで伝導性が改善され、併せて加工、コスト、毒性でも優位性があるためである(2)。
 ディスプレイ用途では、ZnOベースの透明薄膜トランジスタによって可能になった非常に優れた電子移動度および電流ON/OFF比によって、アクティブ有機LED(OLED)と液晶(LC)ベースのディスプレイ・スクリーンの両方で、アモルファスシリコン選別電界効果トランジスタ(FET)を置き換える可能性が出てきている。

ZnOの利点

UVエミッタやディテクタのアプリケーションに向けたZnOの新たな可能性は、長年の協調的で有益なR&Dの成果であり、2012年には累積文献数は7000を越えた(図1)。初期においては、研究は主として結晶構造と基本的な物理・光学特性に向けられていた。1990年代早期の文献数増加の引き金になったのは恐らく、オプトエレクトロニクスデバイスにおける窒化ガリウム(GaN)の技術的、商業的大成功である。
 ZnOとGaNの関連づけができたのは、これらが同じウルツ鉱結晶構造を持つ極めて似通った材料であること、格子定数・バンドギャップ、高い凝集エネルギー・融点が類似的であるためだ(表1)。しかし、重要な違いはいくつかある。特に、ZnOは励起子結合エネルギーが遙かに高いため(60meV)、潜在的にLEDやレーザダイオード用途には非常に優れた材料であるが、GaNは21meV(室温での熱エネルギーは約25meV)である。このことから、より高輝度でロバストな励起子ベースZnOエミッタが期待できる。
 さらにZnOはほぼ全ての希酸や希アルカリ(デバイス加工が非常に簡素化できる)でウェットエッチングができるが、GaNではフッ化水素酸(HF)もしくはプラズマエッチングが必要になる。また、酸化亜鉛は比較的豊富(Gaと違い)にあるので、ZnOのコストは低い。最後に、高品質ZnO膜は不整合基板上(ZnOは特に適合性があるため)に比較的容易に成長でき、バルクZnO基板はGaN基板よりも入手が容易である。
 2000年以降、ZnO関連発表が再度上向いたことは、いくつかの重要な研究成果に関連する。これには、550Kを越える高温での誘導励起発光の実証、p 型ドーピング、重要なナノ材料としてZnOが登場してきたことなどが含まれる(図2)。2010年に発行されたトムソン・ロイター市場調査は、カーボンナノチューブよりもナノ構造ZnOに特化した文献が多いという記録を示している。これは主としてZnOの多機能性によるものであり、また多様な技術(大面積、ローコスト化学成長を含む)でナノ構造が簡単に造れること、また得られるナノ構造タイプが極めて多いことによるものである。

図1

図1 「ZnO」抜粋、タイトル、キーワードをwww.scopus.comデータベースで検索した結果、年間の出版件数/年。

図2

図2 自己形成、垂直配向ZnOナノ構造アレイでコーティングしたシリコンウエハの対向2面を走査型電子顕微鏡(SEM)像で示した。このナノ構造はパルスレーザ蒸着で成長。

表1

表1 ZnOとGaNの特性を抜粋して比較

LEDとレーザ

ZnOベースのLEDの潜在的に可能であるが、その商用化を阻むのは、固有のn 型ドーピングと十分なアクセプタの取り込み・活性化を同時に抑制する問題である。元来のドナー補償は、通常酸素欠乏ZnO(O空乏とZn割込)固有の欠陥と、意図しない不純物混合(特に水素)に関連している。
 1999年以来、p 型ドーピングについては多くの報告がある(3)。これらの成果は、幅広い成長技術、基板、アクセプタ添加アプローチを利用してきた。Ⅰ族、Ⅳ族、Ⅴ族要素、共添加、不純物・欠陥複合体などのアプローチが、それぞれ用いられた。報告された中で最も一般的なドーパントは、窒素(N)、ヒ素(As)、リン(P)、アンチモン(Sb)だ。オキシダント豊富な成長により、生来のアクセプタ欠陥ドーピング(O空乏とZn割込)が目標となっていた。
 青色と近UV ZnOホモ接合LEDの実証が多くあり、最先端のパフォーマンス(30mAで70μW)は1990年代半ばのGaNベースLEDのパフォーマンスに匹敵する(4)。対処すべき問題としては、n 型とp 型キャリア濃度の不均衡、相対的に低いp 型移動性、電気接触不良がある。
 光励起ZnOベース材料およびデバイスの低いしきい値、高利得UV発振については多くの報告があり、これらには室温UVフォトニック結晶発振、自己形成レーザキャビティからのランダム発振が含まれる(5)。さらに、パタン化ZnOベースマイクロキャビティは、低しきい値表面発光ポラリトンレーザとしての利用が有望であることが示されている。さらに最近では、電気励起ZnOレーザの報告も出ている。ただし、比較的低いドーピングレベルがパフォーマンスの制限要因となっている。

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2014/02/FT4-LFWJ1401.pdf