遠隔分光用途ハイパースペクトラル能動センシングとイメージング

ニルス・ヘンプラ、ジョン・ニコラス、グレイム・マルコム

新しいレーザベースのハイパースペクトラルイメージング技術は、微量の脅威物質を離れた位置から検出できる。アプリケーションは、防衛、セキュリティから石油およびガス産業に広がる。

赤外レーザとディテクタの進歩が、様々な市場で幅広いセンシングアプリケーションを可能にしたことは極めて重要な意味を持つ。光技術による非接触の検出、超高感度、また幅広い種類の検出が可能となっている。これが可能になるのは、全ての物質が、その特定分子と結合構造に関連した固有の分光識別特性を持っているためである。
 ハイパースペクトラルイメージングとは、リモートセンシング技術を意味し、この技術のユーザは離れた位置から様々な物質を特定し視覚化する高分解能分光法を利用することができる。とは言え、関心対象が観察者からかなり(数十メートル)離れていると、高分解能分光やセンシングは難しくなる。背景スペクトラルが交錯する動的環境で微量の混合ガス、液体、あるいは固体を検出しようとする場合、特に顕著になる。
 多くのハイインパクトアプリケーションは、このような課題に対処できる技術から受ける恩恵は大きい。石油やガス産業にとっては、離れた位置からのリモートセンシングは石油井口、精油所、貯蔵施設付近からの微量の漏れを検出し、作業員の安全性や環境保護を確保するための強力なツールとなる。同時に重要な点は、離れた位置からの検出やイメージングは防衛やセキュリティ分野では極めて重要なツールとなることだ。化学兵器(CWA)や爆発物などの脅威物質を安全な距離から特定することができるからだ。
 こうしたアプリケーションに対処できる技術を考えるとき、使える選択肢は限られている。最も一般的に利用されるソリューションとしては、フーリエ変換型赤外(FTIR)分光法、ラマン分光法、あるいはサーマルイメージング(熱画像化)がある。残念ながら、これらの技術には限界があり、新興の遠隔検出市場にはあまり適していない。
 FTIRは、高い信号対雑音比(SNR)とスペクトラル分解能で強力なハイパースペクトラルイメージングツールとなった。しかし、FTIRシステムは複雑になりがちであり、生成した干渉パタンのスペクトラル情報を収集するために集中的なデータ処理が必要になることから、リアルタイムイメージングは実用的なアプリケーションとはならない。結果的に、遠隔検出用に開発されたFTIR機器はサイズが大きくなる傾向があり、多くのアプリケーションにとって法外な価格になりがちである。
 サーマルイメージャ(熱探知カメラ)は、特定の遠隔アプリケーションで使うには、より実用的なソリューションと言える。ローコストであり、リアルタイム動作が可能、コンパクトで使いやすいと言う点で、FTIRの欠点を克服している。しかし、このソリューションは受動照射に依存して温度変化を検出するために、絶対感度に限界があり、サーマルイメージャは環境条件の変動(例えば、温度、曇天・好天時の日光、雨)の影響を受けやすくなっている。さらに、サーマルイメージャは、選択可能な波長が限られており、このためにターゲット試料の種類を区別できない、あるいは定量分析ができない。これは脅威検出ソリューションにとっては致命的である。
 ラマン分光は、固体や液体の複雑な分光識別特性を検出できるのでアプリケーションの幅は広い。しかし、ラマンシグナルは非常に弱く、不純物や試料そのものからの蛍光によって覆い隠されることがよくある。さらに、照射に使うレーザ光源は一般にアイセーフではないので、ラマンは実世界の状況では、特に離れた位置からの遠隔検出にはあまり適していない。
 こうした限界を克服するためにMスクエアレーザー社(M Suqared Lasers)は、アクティブ・ハイパースペクトラルイメージング技術を開発した。このアプローチは、広い連続波選択性があり、定量
分析ができ、外的要因の影響を受けず、比較的ローコストでコンパクトである。

国防に向けたイノベーション

Mスクエアレーザー社は、英国国防省の国防科学技術研究所(Dstl)から提案を受け、軍民両方の厳しい環境での遠隔検出とイメージング要求を満たすソリューション開発を支援することになった。最初の課題は、CWAの液体堆積物を外観で検出、特定することだった。
 第一段階は、信頼できる実用的なソリューションにとって最も重要な、基盤となるプラットフォーム技術の設計だった。先ず、アラインメントやメンテナンスを不要とするオプトメカニックマウンティング技術(InvarianTという)を開発した。ステンレス鋼クラムシェルハウジングと組み合わせると、このシステムは極めて過酷な環境に耐えることができる。
 同時に、一連のコンパクトで超低雑音駆動エレクトロニクス(ICE-BLOC)を設計し、イーサネットで制御できるようにした。ICE-BLOCは、システムを集めてセンサネットワークとすることができ、世界中のどこからでも1箇所で遠隔制御できる。InvarianTとICE-BLOCは、Mスクエアレーザー社の全製品の基本的な構成要素となった。

進化する光パラメトリック発振器

光源には重要な要件がたくさんある。アクティブ照明は、離れた位置から所望の感度で少量物を検出するために必須であった。多種類の検出と区別には広いチューナビリティ(可変性)が求められた。リアルタイムイメージングは素早い情報取得を可能にするものであり、また可搬形状により現場配置が可能になった。
 IRで利用できるオプションは限られていた。選択肢は、量子カスケードレーザ(QCL)と光パラメトリック発振器(OPO)かであった。QCLはコンパクト形状であるが、可変性は限られており、室温での出力は相対的に低いため、あまり魅力がない。OPOは高い平均出力とピーク出力、極めて広い可変性を併せ持つが、概して複雑であった。これに対して、セント・アンドルーズ大学は、新しいキャビティ内励起OPO(ICOPO)を開発した(1)。決定的な点は、ICOPOが非線形結晶をポンプ共振器内に入れて高イントラキャビティ領域にアクセスできるようにしたことである。これによって主励起レーザの消費電力、コンポーネント数、フットプリントが減る(図1)。
 Mスクエアレーザー社はICOPO概念を進化させ、それを新しい製品FireflyIRとして設計した。Fireflyは、平均出力>500mW、波長可変範囲1.4〜4.5μmの性能をもち、関心対象のほとんどの種類の吸収特性にアクセスできる。この300mWを上回る高いピークパワーによって、このシステムはリモートセンシングアプリケーションに十分に適用できる。
 この新しい光源技術を利用して、レーザをアクティブ・ハイパースペクトラルイメージングシステムに変えるための撮像モジュールが開発された。この構造では、後方散乱吸収分光計は遠隔現場のスペクトラルデータを提供する。ICOPOからの短パルスが、関心対象と相互作用する。特定の波長で標的対象が光を吸収すると、反射戻り光は変わっている。2つのガルバノミラーと組み合わせた広い波長可変性によって関心範囲を走査し、ハイパースペクトラルイメージングキューブをピクセル毎に構築していく。
 オンボードデータ処理アルゴリズムは駆動エレクトロニクスによって、ICOPOの広い出力範囲にスペクトラルフィンガープリントを持つ物質のリアルタイム、ハイパースペクトラルリモートイメージングが可能になる。小型、一体型(靴箱サイズ)、低消費電力であるので、このイメージングシステムは持ち運びが容易であり、バッテリー電源で動作可能となっている。

図1

図1 セント・アンドルーズ大学の成果に基づいて、Mスクエアレーザー社は2軸スキャナを持つイントラキャビティ励起OPOを開発した。非線形結晶はポンプ共振器内に置かれていて、高イントラキャビティ領域にアクセスできるようになっている。

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2014/02/FT2-LFWJ1401.pdf