LEDで植物の成長促進や機能性作物の生産を実現 ─ 植物工場の産業確立を目指す

LEDを光源とする植物工場では、植物の成長スピードや成分などのコントロールが可能である。また単位面積当たりの収穫率が高く、どこにでも設置が可能であることから、従来の農業に一石を投じる可能性がある。

天候に左右されずに安全な野菜を計画的に供給することは、食料生産における大きな目標の一つである。現在中心となっている露地栽培や温室栽培では難しいが、植物工場であればこの目標を実現できる可能性がある。日本における植物工場の研究は1980年代に始まり、企業により繰り返し実用化の取り組みがなされてきた。2009年には農水省と経産省による植物工場の補助金事業により一気に設置数が増加し、最近は家電メーカーが相次いで参入している。だが人工光による栽培は、コストや品質の面でうまくいっているとは言えないのが実情だと、玉川大学 農学部 生命化学科の教授で学術研究所生物機能開発研究センター 主任の渡博之氏は言う。そこで渡 氏が取り組んでいるのが、LEDによる完全閉鎖型の植物工場システムの実証である。
 植物工場とは閉鎖空間または半閉鎖空間で、水や空気、光、栄養などを制御することにより、計画的に植物を生産する施設のことだ。水耕栽培を中心に、一部に人工土壌なども使われる。光や室温、養分、CO2濃度、水耕液の導電率やpH、溶存酸素量、液温などを監視・制御し、大型施設では収穫なども自動化されている。
 植物工場は太陽光利用型と完全人工光型の2つに分けられる。太陽光利用型は、基本的に太陽光を用いて補助的に人工光を利用する。換気が必要なことにより細菌や害虫の侵入を完全に防ぐことができないため、農薬が必要になる。一方、完全人工光型は閉鎖空間となるため、無農薬栽培が可能である。また雑菌数が少ないので、野菜は洗う必要がないほどきれいで長持ちする。人工光の場合は栽培棚を重ねることが可能なため、より効率的な土地利用が可能だ。光量が比較的少なくてもよいレタスやハーブなどの葉菜類に向く。いっぽうイチゴやトマトをはじめとする果菜類や穀類は現在の技術では人工光のみの栽培は難しいとされる。
 とくに光源にLEDを使用する場合は、波長を選択することができる。これにより植物の生理のコントロールが可能になる。例えば赤は成長促進や甘みを増やす、青は抗酸化作用を持つポリフェノールを増やしたり歯ごたえを強くする、ビタミンを増加させるといった具合だ。医療用など特定の機能を持った野菜の生育もより効率的に行えるようになる。こういったコントロールが可能な光源はLEDだけである。

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図1 LED照明閉鎖型植物工場の研究を行っている玉川大学「Future Sci Tech Lab」の外観

図2

図2 植物工場の栽培室と玉川大学 農学部生命化学科 教授の渡邉博之氏。

植物工場に適したLEDを開発

LED照明は、明るさをアップするために大電流で長時間連続使用すると寿命が短くなってしまう。これは発熱量の増加によってLEDチップが劣化することによる。また一般用照明の寿命は3割光量が落ちた時と定義されているが、植物では3割落ちると生育状態が変わってしまう。そこで渡 氏は昭和電工アルミ販売と協力して、高出力でもチップを劣化させず長時間使用できるLEDの開発に取り組んだ。その結果、LEDチップを樹脂基板でなく直接アルミ基板に取り付けて冷却する「ダイレクト水冷式ハイパワーLEDパネル」の開発に成功した(図3)。これは水冷を前提としたものの、思いのほか放熱効率がよく、空冷でも40℃以下と実用に十分であることが分かった。そこで「改良型ダイレクト冷却式ハイパワーLEDパネル」を開発。同社の試験によると、10数年から20年は持つだろうという。これにより消費電力も蛍光灯と比べて45%削減した。

図3

図3 植物に必要な光量を長期にわたって維持するダイレクト水冷式ハイパワー LEDパネル

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2014/02/IntroLab-LFWJ1401.pdf