ブラウンノイズを10分の1に低減する結晶コーティング

超高感度干渉計と超安定レーザ光源は、共振器ミラーが優れた光学的および機械的性能をもつか否かによって決まる。ここ10年間に、高反射率非晶質多層コーティングの機械的減衰は2分の1に低減されたにすぎない。しかし、ごく最近になって、オーストリアのウィーン大学とクリスタライン・ミラー・ソリューションズ社(Crystalline Mirror Solutions)の研究者たちはJILA(the joint institute of the University of Colorado at Boulder and the National Institute of Standards and Technology)の協力を得て、直接接着させた単結晶多層コーティング、いわゆる「結晶コーティング」を実証した。これは本来的に低い機械的損失と高い光学的品質をもち、最良の従来式誘電体多層コーティングの10分の1の機械的減衰に相当する熱雑音レベルを提供する(1)。
 結晶コーティングは、改善された機械的性能に加えて、優れた光学的性質も示す。実際に、このようなエンドミラーを使ったファブリ・ペロー共振器のフィネス値は15万に達した。

熱雑音の最小化

現在、高精度光干渉計の最大の障害は共振器コーティングのブラウン運動である。最良の二酸化ケイ素/ タンタル(SiO2/Ta2O5)多層膜でさえ、高屈折率の非晶質薄膜のタンタル層中の内部損失によって過剰の機械的減衰を起こす。これは、一般的に「コーティング熱雑音」と呼ばれているもの、すなわち、熱駆動の機械的モードによるミラー面内の変位ゆらぎの原因になる。これらのゆらぎをコヒーレントに相殺するために、干渉計共振器長を伸ばし、光学モードサイズを増大し、ミラー設計を改良すれば、性能を向上させることはできる。しかしながら、これらの次善策はコーティングまたはシステム設計のさらなる複雑化と、振動感度(特に長い固体スペーサ共振器)の増大を招きかねない。
 研究者たちは、共振器オプトメカニクス実験用のヒ化ガリウムアルミニウム(AlGaAs)ベースヘテロ構造の機械的運動を解析し、これらの材料が非常に高いQ 値を持ち、それゆえ最小の機械的散逸を実現し、優れた低雑音コーティングとして機能しうることを明らかにした。しかし彼らは、2つの主要な製造上の挑戦に取り組まねばならなかった。すなわち、(1)通常、非晶質構造上の単結晶膜の成長を妨げる格子不整合制約の問題を解決し、(2)高性能共振器性能に要求される曲面上に、通常は平坦であるエピタキシャル薄膜を適用する方法を見つけ出すことである。
 研究チームは、分子ビームエピタクシー(MBE)によってGaAs 基板上に高品質エピタキシャルなブラッグミラー(膜のAl 含有量で調整された高および低屈折率層を持つ標準的な4分の1波長設計)を成長させることから開始した。堆積されたエピ層は、約1064nmを中心する低透過阻止帯を生成するように設計されている。このエピタキシャル層は、小形ディスク形状において、リソグラフィ、選択ウェットエッチング、化学機械的基板除去によって真性GaAs成長ウエハから除去される。

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2014/02/0012wn01.pdf