光アンテナは光を一点に集め、ビームを方向付ける

ジェフ・ヘクト

光アンテナは、高周波と同様に、サブ波長スケールでエネルギーを集め、加熱、分光学的プロービング、光検出などの幅広いアプリケーション向けに吸収を強化できる。

エレクトロニクスでは無線アンテナが重要な役割を果たした。送信器で電気信号を電波に変換し、受信器で電波を電気信号に戻す。現在、フォトニックアプリケーションではアンテナは、ナノメートルスケールに縮小しつつある。
 光アンテナは、無線アンテナと同じ電磁理論の原理に基づいている。振動する電荷が、アンテナ構造と振動周波数に基づいたパタンで電磁波をまとめて放射する。受信アンテナは入射波を吸収してそれを熱や振動電荷に変換する。しかし、原理は同じであるが、光アンテナの周波数は数十万倍高く、動作は重要な点で無線アンテナとは違っている。
 これまで、ほとんどの光アンテナの動作は原理実証に集中していた、とスイス、チューリッヒ工科大学のパラシュ・バラトワジ( Palash Bharadwaj)氏は言う。その結果は期待できるものであったが、技術的アプリケーションは遅れていた。正確に10nm 以内で波長スケールのコンポーネントを作製しなければならなかったからだ(1)。

光アンテナの基本

電磁理論はシンプルに波長が基準となる。半世紀以上前、リチャード・ファインマン(Richard Feynman)は、アメリカ物理学会で「微細化には大いに可能性がある」と話した時、ナノスケールのアンテナを頭に描いていた。ファインマンは、100 〜1000nm の回路から小さなアンテナアレイが立つかどうかを考えていた。「例えば、アンテナ全体から光を発することが可能だろうか、ちょうど一連のアンテナから無線を放射してヨーロッパにラジオ番組を提供するようなことが、光で可能だろうか。非常に高い強度で一定の方向に光を発射すると考えても同じことだ」と同氏は言っていた(2)。
 しかし、ファインマンは、光周波数に対する材料の応答が、無線に対する応答と著しく違うことを認識していなかった。導体内の電流は、無線アンテナに必要なギガヘルツ(GHz)レートで簡単に変化させることはできるが、その動作は光波に必要な数100テラヘルツ(THz)にはできない。光アンテナ内の振動電荷は、非常に高速で動く表面プラズモンであるが、光周波数では伝導性が低い。表面プラズモンは、無線アンテナよりも遙かに高い電子移動度を必要とする。したがって、光アンテナとして使えるものはほとんどなく、よく知られているものは銀と金である。
 重要な点は、サブ波長アンテナの光励起は光波よりも遙かに小さな表面プラズモンを生成するということだ、図1ではボウタイアンテナで示した。「それはすばらしいことだ、なぜならフォトン、可視光の波長と、本当のナノスケール材料とのサイズ的ミスマッチを補完できるからだ」とローレンスバークリー研究所分子ファウンドリ(カリフォルニア州バークリー)のディレクター、ジェイムズ・シャック(James Schuck)氏は言う。光アンテナは、ビーム操作や指向性を含むアプリケーションで探求されている。

図1

図1 光は、光「ボウタイ」アンテナを照射し、表面プラズモンを励起する。表面プラズモンは、アンテナの2つのポール間の「フィードギャップ」においてピーク電界を生成する。このギャップは、光の波長よりも遙かに小さな領域。

分光、加熱、高調波発生

多くの重要な潜在的アプリケーションは、光アンテナにエネルギーを集中させるものとなっている。「調べたいものに近づけて、レーザを尖った金、銀チップに照射してみなさい、チップ先端の強化された電界が強いラマン応答を起こす」とバラトワジ氏は言う。そのチップは従来のアンテナのようには見えないかも知れないが、それは伝搬する光エネルギーをサブ波長域に集中させるので、数10nm の分解能でカーボンナノチューブに欠陥をマップすることができる。その同じ技術が、分光バイオアッセイ(生物検定法)の感度を向上させることができる。
 可視光は特に貴重なプローブである。なぜなら、それは化学結合や分子構造についての情報を集めるからだ、とシャック氏は言う。「構造を理解したいなら、最も簡単な方法は光フォトンでプローブすることだ」。ナノアンテナによって光は10nm の分解能を達成できるが、これはダイポール型アンテナを二等分した「フィードギャップ」のサイズである。ギャップにはアンテナ全体に吸収されたエネルギーが集中されている(3)。図2 では、カンパニーレ(鐘楼)タイプのアンテナにどのようにエネルギーが集中されるかを示しているかを挿入図に示した。
 そのようなギャップに集中している光は、高調波発生に必要な高い電界強度を作り出す。韓国KAIST の研究者は、そのアプローチを使ってピークパワー100kW の10fs パルスを集中して100 倍にし、1013W/km2を達成した。これにより、そのギャップを狙ったアルゴンジェットで、47nm 第17 高調波を発生させた(4)。これは、コンパクトな光源からでも高調波の発生が可能になることを示している。
 ナノアンテナは、光エネルギーを集中させて小さな領域を熱することもできる。米国のライス大学、ナオミ・ハラス(Naomi Halas)の研究グループは、水中の金ナノ粒子に共振波長を照射した。その粒子は周囲の水を気化させるほどの大量の熱を吸収し、ナノ粒子は蒸気泡の中に取り残された(5)。こうすると全部の液体を加熱して沸騰させる必要がなくなる。これは、ナノ粒子を吸収したガン細胞の破壊のような臨床応用につながる。

図2

図2 より精巧なダイポールアンテナが、ボウタイと同じように中央のフィードギャップにパワーを集中している。このカンパニーレ型アンテナは、光エネルギーを10nmゾーンに集中させ、スタンフォードでプローブ計測した。

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2014/02/0036pf.pdf