ランダムレーザで良好な発振を実現 ─ 球状のサブマイクロ粒子が成功のカギ

製作が簡便で広い応用の可能性を秘めるランダムレーザ。液中レーザ溶融法という新たな手法による機能性サブマイクロ粒子の存在が、低しきい値で良好なレーザ発振を可能にした。

ランダムレーザの特徴は明確な共振器構造をもたないことである。通常のレーザは2枚の向かい合わせたミラーを共振器としてレーザ発振を起こすが、ランダムレーザでは微粒子による多重散乱の干渉効果を利用する。作製は固体や液体中へ微粒子を分散、または散乱体を分散させた溶液を塗布および乾燥させるといった方法もあり、低コストでの製造が見込まれる。得られる発光は全方向に出る、複数波長の発振が起こるがピークそれぞれはコヒーレント、形状やサイズが自由といった特徴がある。発振ピークのS/N比が小さい、発振しきい値が大きいといった課題はあるものの、「フォトニック結晶等の精密に設計・作製される共振器構造が必要ない分野(面発光デバイスや光電反応、触媒反応、IDタグ等)では、ランダム構造を基としたデバイスに置き換わる余地があると考えている」(北海道大学 電子科学研究所 光システム物理研究分野 准教授の藤原英樹氏)。

越崎直人氏と、藤原英樹氏

左から北海道大学の機能性サブマイクロ粒子の作製手法を開発した越崎直人氏と、サブマイクロ粒子を使って提案していたランダムレーザ発振特性の制御方法を実証した藤原英樹氏

ランダムレーザの発見

ランダムレーザの発見は、米ブラウン大学のNabil M. Lawandy氏によるNature での1994年の報告が発端であった。同氏らが色素溶液中にナノ粒子を分散させてレーザを照射した結果、自然放出スペクトルの狭線化と、励起光強度に対する発光強度の非線形な振る舞いを観測している。その後、さまざまな媒質、散乱体、利得を用いたランダムレーザが報告されている。

液中レーザ溶融法を開発

藤原氏は塗布式で作製したランダムレーザの発振に成功した(1)が、それに欠かせなかったのが、サブマイクロサイズの球状ZnO 微粒子である。数値計算を基に実証実験を行いたいと考えたが、その当時、粒子の揃ったサブマイクロ領域の高屈折率球状粒子の入手が困難であった。そこで北海道大学大学院工学研究院 量子理工学部門プラズマ理工学分野プラズマ物理工学研究室 教授の越崎直人氏の開発した手法を用いて、共同研究者の九州大学先導物質科学研究所 融合材料部門 助教の辻剛志氏がZnO 球状粒子の作製を行い、これを用いることで初めて実証が可能になった。
 越崎氏がサブマイクロ粒子の作製法を開発したきっかけは、液中レーザアブレーションの実験だ。媒質中に材料を分散させ、集光したレーザを照射してホウ素のナノ粒子を作る研究をしていたところ、酸化物が生成したのだという。エネルギーが高すぎるのが原因かもしれないと考え、レーザのエネルギーを少し下げていった。すると高温高圧下でしかできないはずの炭化ホウ素粒子がきれいな球状で生成したという(2)。さらに集光もやめたところ多量の粒子が発生し、新しい手法すなわち液中レーザ溶融法として確立された(図1)。「室温、大気圧下において液体中でレーザ光を当てるだけで高温度炭化反応が起こるということは画期的でした」と越崎氏は当時の驚きを語る。

図1

図1 液中レーザアブレーション法と液中レーザ溶融法の違い

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2014/02/lfwj1309_P16.pdf