ヘッドマウント・ディスプレイは有用な道具か、それとも目新しいニッチか

ゲイル・オーバートン

グーグル・グラスのような市販の頭部装着ディスプレイに対する最初の反応は好反応だったが、このような製品がただちに勢いづくか、あるいは3D 技術と酷似して、消費者が偏愛するだけのものにゆっくりと進んでいくかは、時間が経たなければ分からない。

グーグルのプロジェクトグラスから出たグーグル・グラスのような頭部装着ディスプレイは、今まさにコンシューマに届くようになりつつある。最初のGoogle Explorer Editions(1500 ドル)が製造工程から放たれて、選ばれた視聴者に試用提供される。最初の反応は肯定的ではあったが、このような「拡張現実」( AR )機器の将来は不確かであると思われる。恐らく、3D 技術が映画やスマートデバイスでわずかに普及したのと酷似するだろう(1)。
 2013年4月、市場調査会社IHS iSuppli(El Segundo, CA)は、2012〜2016年の間に約1000万のスマート眼鏡(=頭部装着ディスプレイ)が出荷されると予測している(図1)(2)。同社によると、最初の売上高は開発者への販売によるものであるが、グーグル・グラス製品が一般に入手可能になるために2014年には売上は250%増になる。
 しかしグーグルだけが、このようなフォトニック集約電子機器の確かな未来に賭けているのではない。米Vuzix社のM100 スマートグラスは500ドル以下、米国エプソンのMoverio BT-100 ディスプレイは宅内ビデオ鑑賞用に設計されている。また、米Innovega 社のiOpticの拡張現実コンタクトレンズは数年先(2015年)ではあるが、装着者の目に直接情報を投影することで頭部装着機器のサイズを縮小しようとしている。米Kopin 社が開発したハンズフリーGolden-iは、多言語認識、ジェスチャインタフェース、オンデマンド暗視、赤外線熱感知、顔認識、GPS、受動健康管理などの機能がある。英国Ikanos Consulting社が出しているGolden-i Police Proアプリケーションなら、この技術を実際に長寿命にするだろう(3)。

図1

図1 グーグルに後押しされ、2012 〜2016 年の間に約1000 万のスマート眼鏡、頭部装着ディスプレイが出荷されると予測(IHS iSuppli 提供)。

図2

図2 Google Glassは現在、ベータ試験者向けに限定リリースしている(Google提供図)

用語体系

商用の新しい頭部装着ディスプレイの選択肢および非独自仕様の技術的特徴に踏み込む前に、用語について留意するのが有用である。特に、頭部装着ディスプレイ(HWD)製品は、次のような名称にもなっている。ヘッドマウントディスプレイ(HMD)、ヘッドアップディスプレイもしくはヘッズアップディスプレイ(HUD)、オーグメンティド・リアリティ(AR)機器またはオーグメンティド(拡張現実)・ディスプレイ、スマート眼鏡、デジタル眼鏡、アイグラスディスプレイ、ウエアラブルコンピュータ。このように名付けられた技術に違いがあるだろうか。
 「ヘッズアップディスプレイ(HUD)が、パイロットが他のナビゲーション機器を補強するために軍や航空での利用を目的とした機器であることは、一般認識になっている」とジャニック・ローランド氏は言う。同氏は、光学・生物医療工学教授で、ロチェスタ大学光学研究所内光学設計& 工学R.E. ホプキンスセンタ長および計画中の自由形状光学(Freeform Optics) NSF センタ長である。ローランド氏は、約23年にわたり頭部装着ディスプレイデバイス技術開発に取り組んでいる。一部は、業界のプレイヤである、米国のNVISやリビジョンミリタリと提携している。さらに同氏は、HWD 技術の継続的な進歩に取り組んでいる。最近では、米Optical Research Associates(ORA は現在シノプシス社の子会社と提携して、ステレオ歪フリー画像のリアルタイムワーピング(瞬間移動)への道や同社のHWD プロトタイプのワイヤレスバージョンの研究をしている(4)〜(6)。
 「HWDは、よりコンシューマに関わる、スポーツアプリケーションのための機器であり、頭部に装着した機器を使って、例えばインターネットサーフィン、時間のチェック、生体情報モニタリング、予定時間のアラートなど、ユーザの環境を補完するコンピュータのように機能する」とローランド氏は付け加えている。「拡張現実(AR)デバイスは、HWD製品のより未来的な名称である。HWDは、ユーザの視覚領野に簡単かつシームレスに情報を統合するための製品だ。現在、グーグルはAR HWD商品化への道を進んでいる。他の業界大手の多くも同じ道を歩んでいる」(7)。
 多くのコンシューマ機器が、軍や防衛用途ではないとしても、まだ「ヘッズアップディスプレイ」と呼ばれている点は注意を要する。このパーソナルディスプレイ技術が初期の普及期を過ぎるにともない、名称の混乱は落ち着いてくるだろう。軍用HUD 機器は独自の性格があるので、次の議論は主にコンシューマ用HWD アプリケーション関連とする。

ア・デイ・イン・ザ・ライフ

外に出てバスに乗り仕事に行く時、スマートフォン、さらにはスマート眼鏡を忘れたくないと思うようになるだろう。それらを素早く身につけると直ちに視野に通知文が見え、オーディオメッセージが午前9 時のテレコンファランスを思い起こさせる。バスに座っている間、少し時間があると、HWDFacebookアプリを呼び出し、何が起きているかを知る。これには、目や音声キューを使って眼鏡の中のポスティング(投稿)をスクロールする。次の角のスターバックスで長文が目についたからだ。おもしろい猫のビデオを再生し、Twitter アプリを立ち上げて、そのおもしろさを皆に教えてやる。これには、スマートフォンにタイプ入力してYouTubeビデオリンクをツイートする。どうにかして隣に座っている人に話しかけ、HWDを使って写真を撮り、顔認識ソフトウエアを使って(言葉による許可が望ましい)Facebookの友達に加える(8)。今日の昼食では、健康によいことをするためにジムに向かう。スマートグラスは、現在の体重、呼吸数、その眼鏡と相互接続しているヘルスモニタにプログラム入力したその他の生体に関わる重要事項をディスプレイに表示する。
 ここでのシナリオは仮定であり、コンシューマをターゲットにしたスマート眼鏡のいずれかがやろうとしていることの代表例であるが、カナダのレコン・インスツルメンツ社は2010年後半に、スポーツファン向けに初めてのコンシューマHUDを発売した。正確なGPSと高度計はスキーファンを、例えば1m の精度でガイドしてくれる。MOD Live HUDが、速度、垂直滑降、ジャンプの滞空時間を表示する。びしょ濡れのコースマップは不要になる。任意のRecon Readyゴーグルに挿入することでMOD Live は、装着者に84°の遮るものがない視界を与えてくれる。プリズムオプティクスが、あたかも5フィートの距離から14インチのスクリーンを見ているようにマイクロディスプレイデータを映し出してくれる。2013 年5月Google I/O開発会議で発表された次世代Recon Jet は幅広い一般視聴者をターゲットにしており、現実の活動追跡、ビデオストリーミング、ウエブとスマートフォン接続、Facebook統合機能を持ち、より高速に小型になるものと期待されている。

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2014/02/0034pa.pdf