臨床応用に進むOCT

ジュン・チャン、チョンピン・チェン

長いコヒーレンス長のVCSEL、純粋な電流チューニング無動掃引光源など、新たに開発された波長掃引光源により、高解像度、高速、長期的視野に立つOCTイメージングが実現されつつある。

光干渉断層撮影(OCT)は、多くの臨床応用で有用な非侵襲ツールとなっている。OCTの多くの技術的進歩のなかで、最近の新しいOCT光源では長いコヒーレンス長、広い掃引幅、極めて高いスキャニングレートを持つものが特にすばらしい。また、ドップラーOCT、位相感応OCT、マルチモードイメージングで大きな前進が見られる。

波長掃引光源

前例のないコヒーレンス長が得られることからMEMS 波長可変面発光レーザ(VCSEL)が最近強い注目を浴びるようになっている。このMEMSVCSELが最初に実証されたのは1990年代半ばのことだった。2009年、米国のプリビウム・リサーチ(Praevium Research)、ソーラボ、アドバンスト・オプティカル・マイクロシステムズ(AOMicro)、マサチューセッツ工科大学(MIT)は、波長掃引型OCT(SS-OCT)応用に向けたMEMS-VCSEL開発で学際的な研究を開始した。
 SS-OCT 用MEMS-VCSEL の利点はデバイス構造から得られる。1310nmVCSELの3D断面図を図1に示した(図1)。マイクロスケールの短キャビティにより150nm を超えるフリースペクトラルレンジ(FSR)が得られ、この範囲でモードホップのない連続シングルモードチューニングが可能になる。これにより、1m を超えるダイナミックなコヒーレンス長が得られる。さらに、ミラーの質量が小さいので、1MHz を超える軸スキャンレートを可能とする非常に高いMEMSミラー機械的共振が実現する。このデバイスは、1060nmと1310nmの両方で実証されている。
 MEMS-VCSEL に加えて、バーニア同調分布ブラッグ反射(VT-DBR )構造をベースにした電流制御波長可変レーザが最近米インサイト・フォトニック・ソリューションズ(Insight Photonic Solutions)によって開発された。この光源は、40nm 以上のコヒーレンス長を可能にする単一縦モードを特徴としている。このタイプの1550nmレーザ、
1310nm レーザの両方ともOCT 用途でローコスト、ハイパフォーマンスの掃引光源として使える。
 それに対して、フーリエドメインモードロッキング(FDML )掃引光源は、非常に長いレーザキャビティをベースにして擬定常状態で動作するレーザであり、利得媒体としての2 つの半導体光増幅器(SOA)と掃引をバッファすることによって得られる5.2MHz までの高速スキャンレートを組み合わせることで広い掃引幅(200nm まで)を可能としている(2)(3)

図1

図1 1310nm MEMS-VCSELの立体模型。デバイスは、エピタキシャルハーフVCSEL(GaAs/AlxOy DBRとInGaAs活性層を含む)と、誘電体浮島ミラー構造とを組み合わせたもの。この構造では、トップミラーから光励起する。波長のチューニングは、集積された静電アクチュエータで行う(1)。

フーリエドメイン・ドップラーOCT

フーリエドメインOCT(FD-OCT)と、レーザ誘起ドップラー周波数シフトを原理として利用する位相分解法とを組み合わせ、速度フロー情報が得られるようにしたものがフーリエドメイン・ドップラーOCT で、それにより高速で高感度の3Dドップラーイメージングが可能になった。
 並外れて高い空間分解能と速度感度によりフーリエドメイン・ドップラーOCTは様々な臨床応用に適用されている。例えば、フレーム間スキームドップラーOCTは大脳皮質の大脳血行動態を画像化できる(4)。また、損傷を受けていない頭蓋骨を持つマウスの大脳皮質最大輝度投影(MIP)微小血管と、薄化した頭蓋骨を持つラットの大脳皮質MIP微小血管のドップラーOCT正面画像を比較することもできる(図2)。
 ドップラーOCT の別の重要アプリケーションは、光血管造影図を造って人の網膜と脈絡膜微小血管網を描き出す機能だ(5)。蛍光眼底血管造影法やインドシアニングリーン血管造影法など、蛍光色素を利用しなければならない従来の血管造影法と比べると、光血管造影図はラベルフリーであり、3Dイメージングという点で優れている。

位相敏感FD-OCT

高感度位相計測は、ナノメートル、サブナノメートルの変位検出のための重要技術である。フーリエドメイン・位相敏感OCTは、優れた位相安定性、高感度、高速イメージングで位相の定量的測定を行う。この技術では、計測セットアップでリファレンスとサンプルアーム間の光路差(OPD)から生ずる干渉縞のフーリエ変換によって複雑な深さ分解プロファイルの位相情報が抽出される。OPD の波長の半分が2 πラジアン位相シフトするので、ナノメートルあるいはサブナノメートル分解能で、OPD の超高精度計測は、干渉縞の高感度位相計測により達成できる。
 2 π曖昧性という固有障壁が、スペクトラルドメインの位相回復のような位相接続法プロセスによって正されるなら、位相敏感OCT システムはピコメートルレンジの感度で広範囲の変位を計測できる(6)。位相敏感FD-OCT法は最近、光熱イメージングや光音響信号の取得に応用されるようになっている。光熱イメージング実験では、悪性腫瘍マーカー(ナノシェル)の組込構造および分子標的イメージングが、胸部組織で実証されている。また、第2の実験では、SS-OCT 波長掃引の位相時間の漸次的変化から光音響信号を抽出し、オールオプティカル非接触OCT、雑音限界に近い位相敏感検波の光音響イメージングが実現可能になる。

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2014/02/201307_0036feature05.pdf