黄砂や大気汚染物質の挙動解明に取り組む ─ 地球と宇宙から大気を観測

レーザの応用の一つとして、レーザが発明された直後から活用されてきたライダ。とくに高層大気の成り立ちや対流圏における大気汚染を中心に研究が進んできた。観測と化学輸送モデルの両面の精度向上により、大気の挙動解明が進められている。

ライダ(LIDAR:light detection and ranging )とはレーザを使ったレーダである。空気中に浮遊する分子やエアロゾル、各種粒子による散乱、吸収などを利用して、各物質の判別やその濃度、さらには風速、気温など様々なデータを計測できる。1960年にレーザが発明されたすぐ後の1963 年にはライダによる高層大気の観測が行われている。以前からサーチライトなど光学的手法による大気の研究はあったものの、レーザは直進性、また単色性という特徴から大いに注目された。実験室では非線形効果の利用も含む様々な手法が検討された。そのうち実際に使われているのは、分子によるレイリー散乱やラマン散乱、エアロゾルによるミー散乱、また光吸収、国立環境研究所環境計測研究センター遠隔計測研究室室長の杉本伸夫氏が近年取り組む蛍光などに限られる。対象としては高層大気と大気汚染の2つが主流である。大気汚染はばい煙や硫酸塩などが対象となる。一方高層大気では、成層圏のエアロゾルやオゾン層、中間圏の金属蒸気層などが測定されている。なお日本でも初期のころからライダの研究は盛んで、同分野への貢献も少なくない。

環境研での歴史

国立環境研究所(当時は国立公害研究所)は1974 年に設立され、まもなくライダグループもスタート。様々なライダー手法の開発と大気観測を行ってきた。現在、地上からのライダのネットワークによる大気の観測と人工衛星に搭載されたライダによる地球大気の観測が主要な研究テーマである。
 人工衛星については2006 年に打ち上げられたNASA の衛星搭載ライダ「CALIPSO 」のデータを利用した研究を行っている。また2016 年に打ち上げ予定であるJAXAと欧州宇宙機関(ESA)が共同で開発中の大気放射観測衛星「EarthCARE」では、JAXAの委託研究として、搭載されるライダの解析アルゴリズムの開発を行っている。
 地上でのライダ計測は、かつては固定式であれば天気の良い日にハッチを開けて観察、また車に搭載した移動式ライダで道端の排気ガスや工場の煙などを調べていた。だが環境問題への関心の高まりから、継続的なモニタリングへの必要性を感じるようになってきたという。そこで1996年に継続した測定を開始。「当初はエアロゾル分布の季節変化などの統計的な解析が中心だったが、連続観測をすると黄砂などのイベントが捉えられることが見えてきた」(杉本氏)。そこで2001年から、つくば、長崎、北京の3地点で黄砂のライダネットワークによる連続観測を開始。現在東アジアの20 か所で計測をしている。ライダは主にミー散乱による散乱光を利用し、波長は532、1064nm、出力は各20mJ、パルス繰返し数が
10Hz。高さは0~24kmを検出し、分解能は6mで、15分間隔でデータを取得する(図1)。両波長で後方散乱強度、532nmで偏光解消度を計測する。

図1

図1 黄砂などの常時定点観測を行うライダ

(もっと読む場合は出典元へ)
出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2014/02/201307_0018Introlabo.pdf