水平視差型ホログラフィや超多眼に取り組む ─ 負担なく自然な立体動画の実現へ

より自然で生体に負担がかからず鮮明な立体映像は、テレビや医療用途などをはじめさまざまな応用が期待できる重要な研究テーマである。究極の映像である電子ホログラフィやホログラフィに迫るリアルさをもつ多眼式など、各種の手法が研究されている。

立体視には研究中のものから実用化されたものまでさまざまな方式がある。一番身近なものがメガネをかける3D映画や3Dテレビだろう。また携帯電話機やゲーム機、一部のテレビは、裸眼で立体像を見ることができる。一方でホログラフィは、対象から出てきた光を正確に記録・再生する手法だ。通常の2次元の映像や写真は、物体から出てくる光の強度しか記録できない。そのため奥行き情報が失われており、立体像を見ることはできない。だがホログラフィは光の強度と位相を、物体からの光と参照光による干渉縞として記録する。そしてできた像に参照光と同じ光を当てると、物体からの光が位相情報、つまり奥行きまでを含めて再生される。通常の写真などでは光線を記録・再生するが、ホログラフィは波面を記録・再生する点でも「理想的な3D映像」と言われる。
 そもそも「人が立体感を感じる生理的な仕組みは4つある」と東京農工大学の高木康博氏は言う。第1に、左目と右目が対象を見る時に内側に回転する「輻輳」、第2に左と右の目で見え方がずれる「両眼視差」、第3に対象にピントを合わせる「調節」、そして移動することで見え方が変わっていく「運動視差」である。メガネをかける方式の映画やテレビなどは、絵を複数用意して両眼視差を利用して擬似的な立体感を得るものがほとんどである。これらの方式では、ピントは常に映像が再生される面に合わせられ、輻輳との矛盾が生じる。この矛盾が立体視の疲労を作り出す原因の一つと言われる。一方ホログラフィは立体の像を奥行きも含めて完全に再生するため、これらの4つの生理的機能をすべて満たす。人への負担を考える上でも理想的だといえる。
 ホログラフィの原理は、1948 年にガボールによって電子顕微鏡の像を改善する過程で発見された。その後ホログラフィに必要な、干渉性の高い光源であるレーザ、高解像度の記録材料、各種の光学系の考案によって実用化が進み、1971年にガボールはノーベル物理学賞を受賞している。
 ホログラムは写真を記録媒体として始まったが、動画の再生を見据えた電子ホログラフィの研究も進んでいる。画像の再生には、音響光学変調器(AOM:acoust optical modulator)や液晶パネル、MEMS のミラーデバイスなどの空間光変調器が研究されている。究極の映像といえるホログラフィの動画を実現するにあたっては、大量のデータを扱うとともに高精細化および大サイズ化が課題となる。可視光の波長が0.4 ~ 0.8μm であることから素子には1μm 程度の画素ピッチが必要と考えられているが、現状では写真式よりも解像度は劣る。情報通信研究機構(NICT)ではピッチが4.8μmのスーパーハイビジョン(7680×4320)の液晶画面を横に3つ並べ、視域角15°、画面サイズ1.7インチでの表示に成功している。ただ微細なピッチを持った大型のディスプレイを製造するのは、実用化の面ではハードルが高いのも事実だ。

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2013/05/201305_0018Introlabo.pdf