2μmツリウム添加ファイバレーザでピークパワー10kW達成

シービン・チャン

ツリウム高濃度添加ケイ酸塩ガラスファイバを使用して、1.9〜2.1μm動作波長の単一周波数ファイバレーザ、Qスイッチファイバレーザ、自動起動パッシブモードロックファイバレーザを開発することができる。ピークパワーは10kW。

ツリウム(Tm)添加ファイバレーザのスロープ効率はストークスリミットを超えることができ、Tmイオン間のいわゆる交差緩和エネルギー転移により、3F43H6転移の量子効率が約200%となる。ロッド・イン・チューブ法で製造した当社のTm3+高濃度添加(3〜7wt%)ケイ酸塩ガラスファイバを使うと、68.2%の高いスロープ効率、単位長あたりの利得が>2dB/㎝となるレーザ利得ファイバが得られる。これを用いて当社はQスイッチファイバレーザおよびモードロックファイバレーザを実証した。これは、Tm添加ケイ酸塩ファイバベースとしたもので、動作波長1.9〜2.1μm、ピークパワー10kWを達成した。
 シングルモードファイバからの高いピークパワーと高いビーム品質を持つ2μmファイバレーザの一般的な用途の1つは、非線形光変換による中赤外(mid-IR)周波数生成のための励起光源である。その他の新しいアプリケーションとしては、中赤外スーパーコンティニウム生成がある。

Tm3+高濃度添加ケイ酸塩ファイバ

1μmおよび1.55μm光源と比べると、2μm レーザ光源の方が中赤外生成用の励起光源として有利である。理由はいくつかあって、まず2μmでは量子欠陥が低いので、中赤外波長生成で量子効率が高くなる。次に、中赤外生成に使用する非線形結晶の多くは、2μmよりも短波長の励起波長ではトランスペアレントではなく、吸収が遙かに高い。3番目に、非線形結晶の中には短波長で分散が高くなりすぎるものがあり、非線形パラメトリック過程に向けた位相整合ができない。最後に、2μmファイバはコアサイズが大きく、非線形閾値が高いので、ハイパワー2μmファイバレーザが実現可能になり、結果的にハイパワーの中赤外出力が得られる。
 これまで、多くの異なるガラスホスト材料を利用して2μmレーザ動作向けにTm3+ 添加光ファイバを作製してきた。シリカ(石英)、ゲルマニウム酸塩テルライトベースのノンシリカガラスファイバなどだ(1)〜(3)。よく知られているように、シリカファイバへの希土類添加濃度には限界がある、これはガラス固有の網目構造による。添加濃度を高めるために様々なアプローチが開発されてきた。Al2O3, B2O3, P2O5など酸素との共添加、ナノパーティクル技術を用いるものなどがある。シリカガラスへの最高添加レベルは、約2wt% が限界となっている。Tm3+添加濃度に限界があるため、Tm3+ 添加シリカファイバレーザの量子効率にも限界がある。
 幸い、多成分ノンシリカガラスでは網目構造があまり確定的ではないため、Tm3+ イオンの添加濃度を高くすることができる、つまり相対的に短いアクティブファイバで高い励起吸収が得られる。したがって、高濃度ドープのTm3+ システムでは1 回の交差緩和プロセスを2倍に利用することができる。アドバリュー・フォトニクス社(AdValue Photonics)は、Tm3+高濃度ドープ(約3 〜7wt%)の多成分ケイ酸塩ガラスとファイバを製造する独自の技術を開発した。ガラス網目構造の主要部は二酸化ケイ素(SiO2)であり、これは標準シリカガラスファイバと同じ材料であるので、ドープファイバは機械的強度が改善され、他の多成分ガラスファイバと比べるとシリカファイバとの親和性が向上するため、アクティブファイバと標準パッシブシリカファイバとの融着接続がより強固になる。
 シングルモードとラージ・モード・エリア(LMA)ダブルクラッドケイ酸塩ガラスファイバのいずれもロッド・イン・チューブファイバ線引技術を用いて製造する。これらアクティブファイバの内部クラッドは、周囲にNA0.6の外部クラッドケイ酸塩ガラス層を持ち、マルチモード励起レーザビームを内部クラッド域に閉じ込める。外部クラッドにより、標準的なポリマベースのダブルクラッドシリカファイバよりもパワー耐性が高くなっている。
 通常、低屈折率のケイ酸塩ロッドを内部クラッドに挿入してクラッドの励起光吸収を高めている。同じ製法で、Tm3+高濃度ドープ偏波保持ケイ酸塩ガラスファイバも製造している。これは、68%以上のスロープ効率のクラッドポンプレーザ動作をターゲットにしている(図1)。

図1

図1 Tm3+添加ケイ酸塩ガラスファイバのASE(a)によって、クラッドポンプの2μm Tm3+添加ケイ酸塩ガラスファイバレーザ(20−㎝長、18μmコア径ファイバ)で798nm ポンプ光吸収に応じた出力(b)を持つレーザの作製が可能になる。

Qスイッチ単一周波数ツリウムファイバレーザ

2011年、アドバリュー・フォトニクス社は、波長2μm近傍で初のオールファイバQ スイッチ単一周波数レーザを実証した。これは、応力誘導複屈折を用いた短キャビティファイバレーザ偏光変調をベースにしている(4)〜(6)。Qスイッチモードの単一周波数レーザ動作は、内製のファイバベーススキャニングファブリベロ干渉計を用いて確認した。また、スペクトル線幅は計測によりフーリエトランスフォームリミットとなっていた。

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2013/05/201305_0032feature03.pdf