レーザ分光でエンジンオイル消費を計測

ステファン・セルマイヤ、エドゥアルド・アロンソ、ウルリッヒ・ベッスル、クリスチャン・メンハード、ラインハルト・ケルンベルガー、ハインツ・バチェル

波長可変UVレーザをベースにした分光微量成分分析により、排出SO2を利用して燃焼機関のエンジンオイル消費分析を行う試作システムが可能となった。

排ガス規制や環境保護規制がますます厳しくなっているので、開発エンジニアには新車設計の際に、規制と新エンジンとの両立が求められている。エンジニアは、自動車の排ガスと燃料消費を可能な限り減らしながら、高信頼、メンテナンスの容易性、エンジンの耐久性も保証しなければならない。様々な動作ポイントでエンジンオイル消費を正確に知ることは、こうした目的を達成するために不可欠の手段となる。
 車のパフォーマンスに決定的な影響を与えるパラメータの中で、ピストンリングの数と位置、シリンダー壁のタイプと表面品質が最も重要である。これらのパラメータを最適化するために、エンジンオイル消費を把握しておくことが極めて重要になる。
 エンジンオイル消費を計測する最も一般的な方法は重量測定である。この測定法では、エンジンを規定量のエンジンオイルで満たし、一定の回転速度で何時間も稼働する。すると、エンジンオイルは少なくなり、劣化する。このやり方は非常に時間もかかりコストもかかり、しかも動的測定は全くできない。
 エンジンオイル消費の90%以上は、内筒壁からのオイル皮膜の蒸発とそれに続く排ガス排出によって起こる。したがって、エンジンオイル消費を分析する最近のアプローチはすべて排ガス内のエンジンオイル痕跡検出にフォーカスしている。これは非常に難しい分析作業になる。と言うのは、計測濃度が極めて低く、混合物質が非常に複雑だからである。
 ミュンヘン工科大学はBMWグループ、イノラスレーザ社(InnoLas Laser)と共同で、エンジンオイルの消費を迅速、正確、高信頼に計測できる方法を開発した。この方法では、エンジンオイルの指標として硫黄を利用する。排ガスには微量の硫黄が検出されるからだ。この種のエンジンオイル消費分析は、サルファフリー(または、低硫黄)燃料が採用されたことで可能になっている。
 問題は、硫黄が異なる多種の化合物に取り込まれていることである。検出を効果的に行うには、硫黄含有エンジンオイルの成分すべてが、容易に検出可能な二酸化硫黄(SO2)に変換されなければならない。これまでにSO2検出法(1)はいくつかあったが、いずれも硫黄に対して必要となるppb(10億分の1)レンジの感度は得られなかった。
 研究チームが開発した新しい方法は、1)小さな気体放電セル内で硫黄含有分子をSO2 に変換、2)特殊レーザ誘起蛍光法でSO2を検出( SO2 のレーザ分光法を活用)( 2 )、3 )コンパクトな新開発波長可変UVレーザの採用である。
 この方法により、硫黄含有排ガスを完全に熱分解することでSO2を生成し、分子中の硫黄を極めて高感度(<20ppb)、高速(<2s)、高信頼に検出することが可能になった(図1)。小型質量分析計もしくはキャビティリングダウン吸収セルを用いると、他のエンジン固有の物質や微量物質も計測できるので、この新しい方法の応用範囲は大きく広がる。

図1

図1 パルス、可変UV レーザペースの試作機により、SO2の高感度(<20ppb)、高速(<2s)検出が可能になる。H2S 実験により、放電セル内で硫黄含有物質のSO2への完全変換達成が証明された(ミュンヘン工科大学提供)。

硫黄酸化と検出

排ガス中の硫黄を完全酸化してSO2とすることがこの方法の重要なステップとなる。従来の方法では、高温炉を用いて硫黄を熱酸化する。新しい方法では、酸化は非熱プラズマにより行う。この方法の優位性は、多環芳香族炭化水素(PAH)においては特に明らかである。PAHは、熱的に完全酸化することは難しく、不可能だからだ。しかし、ここで行った放電では、低放電であっても完全分解される。
 計測の妨げになる多くの化合物が排ガスの中に高濃度で存在するので、SO2の高感度検出は難しい。レーザ誘起蛍光法を測定原理に用い、可変UVレーザで混合気体を励起する。異なる2波長間でレーザを高速スイッチングすることで高感度が得られ、排ガス(より正確には、蛍光挙動)内に存在するほぼ全ての他の物質に無反応となる計測が行える。窒素酸化物との残留交差感度—窒素酸化物は、SO2と同じ波長で吸収し、蛍光を発する—は、両方の物質の蛍光寿命が大きく異なることを利用して抑圧することができる。
 最後に、この放電セルの設計と、放電から蛍光セルまでのガスフロー管理によって悪影響を除去できる。悪影響とは、まずガスフローシステム内に微量物質を堆積し次に再放出することから来るメモリー効果であり、これによって測定結果が歪められる。試作機のセットアップは図2に示した。

図2

図2 計測器のセットアップと計測原理。試料ガスはアクティブポンプでガス試料線内に導入。第2 ノズルを経てこのガスの少量が放電セルに入り、酸化され、さらに蛍光セルに入る。そこでレーザ励起で蛍光を誘起し、光電子増倍管(ミュンヘン工科大学提供)で検出。挿入図: OPOベースレーザ分光システム試作機を用いて、BMWグループの試験場において製造条件下で計測を行う( BMW グループ提供)

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2013/05/201305_0024feature01.pdf