2012年フォトニクスイノベーション20選

ジョン・ウォレス

本誌シニアエディターのジョン・ウォレスが、フォトニクス関連最大の話題を紹介する。本稿では、Laser Focus World 誌が2012年に取り上げた、最も興味深い技術的進歩20項目を選定した。

多くの場合において、テクノロジの世界に客観的に「最高」であるものは存在しない。マイクロソフトのWindows、アップルのOS X、Linux(iOSやアンドロイドについては言うまでもない)などは、すべてが独自のファン層を抱えているが、フォトニクスの世界では、光学設計エンジニアとレーザ科学者では、興味の対象は異なる可能性が高い。2012年の技術総括となる本稿では、Laser Focus World誌においてこの1年間に取り上げた(本誌が扱うすべての分野を対象とする)特に興味深い項目を上位20項目という形式で紹介する。以下の項目は1人のエディターの独断で選定したものであり、読者にはぜひ、今年発行の12冊を振り返り、それぞれのお気に入りの話題を読み返していただきたいと思う。

見えないものの可視化

ToF(Time of flight:飛行時間式)カメラ:通常は、鏡を利用することなく、曲がり角の向こうを見ることはできない。しかし、米マサチューセッツ工科大学(Massachusetts Institute of Technology、マサチューセッツ州ケンブリッジ)の科学者らは、ストリークカメラを利用し、照明に超高速レーザパルスを採用することでこれを可能にした(図1)。ToF装置と膨大な数値演算によって、隠された物体の3D画像が再構成される(Laser Focus World2012年6月号“Time-of-flight camera sees around corners”(http://bit.ly/KRPzry)。日本語版8 月号「曲がり角の向こうを見ることができる飛行時間式カメラ」参照)。
 人工網膜:イメージング技術は、ビデオカメラのインプラント(埋め込み)という形で人間の目の内部に応用されつつある(Laser Focus World 2012年7月号“PV retinal prosthesis has high pixel density”(http://bit.ly/MBDOIi)。日本語版9月号「高画素密度の光起電力網膜プロテーゼ」)参照)。外部へのワイヤレス接続を利用してコンピューティングを行い、網膜に取り付けられた光起電力アレイが網膜神経細胞を直接シミュレーションして視力を実現する。
 単一光子検出器:高速超伝導ナノワイヤ単一光子検出技術の進歩は目覚ましく、新しい形状や応用分野が今でも発見されている。例えば、曲折した金のナノワイヤは光学的なナノアンテナとして機能し、TM偏光に対して47%の効率で光子を検出する(Laser Focus World 2012年1月号“ Optical nano-antennae boost speed and efficiency of singlephoton detectors ”( http://bit.ly/xXSXHn)参照)。
 緑色レーザダイオード:レーザ技術において最も期待される目標の1 つが、堅牢な緑色レーザダイオードの開発である。「緑色」とは、3 原色(赤緑青)のレーザプロジェクタでの使用に最適な530〜535nmの範囲の波長を生成することを意味する。住友電工とソニーの先端マテリアル研究所(厚木市)の研究者らは、532nm において100mW を超える出力で発振可能なレーザダイオードを発表した。最大で536.6nmの波長での発振(出力値は非公表)が確認されている(Laser Focus World 2012年8月号“Green laser diode emits at 536nm”(http://bit.ly/NcSbOR)。日本語版10/11 月号「536nm で発振する緑色レーザダイオード」)参照)。
 青色レーザダイオード:レーザダイオードは2012 年、別の分野においても大きな進歩があった。窒化ガリウムをベースとする青色発光レーザダイオードは現在、米カプテイン・マーナン・ラボ社(Kapteyn-Murnane Laboratories:KMLabs)の研究者らによって、チタンをドープしたサファイア(Ti: サファイア)を使用する超高速レーザの直接ポンピングに使用されている。Ti: サファイアレーザの励起にはこれまで、周波数2 倍化ネジウムドープレーザといった、より高価で複雑な光源が使用されていた(Laser Focus World 2012年9月“Pumping of Ti:sapphire moves to the blue”(http://bit.ly/P4 8 thv)。日本語版10/11 月号「青色へと向かうTi: サファイアポンピング」)参照)。
 光パラメトリック発振器:米スタンフォード大学で開発された光パラメトリック発振器はスペクトル出力範囲が非常に広く、2.6〜6.1μmと1オクターブを超えるため、広帯域アプリケーション向けにチューニングを必要としない。同発振器は、周波数コム分光法に理想的なデバイスとなる可能性を秘めている(図2、Laser Focus World 2012年7月号“Broadband OPO spans the mid-IR, no tuning needed”( http://bit.ly/NoIPhK)。日本語版9月号「チューニングなしで中赤外をカバーする広帯域OPO」)参照)。

図1

図1 散乱した超高速パルス反射がストリークカメラによって検出され、解析されることによって、隠された物体(マネキン)が明らかにされる(a)。ソフトウェアアルゴリズムによってデータがストリーク画像(b)から抽出され、マネキンの3D画像が再構成される(c)。(提供:MIT メディアラボ)

図2

図2 周波数コム分光法で使用される広帯域OPO 周波数コム源は、1度に複数の種類の分子を検出することができる。ここでは、大気中の二酸化炭素の同位体が共振器内分光器によって検出されている。(提供:スタンフォード大学K・ボドピャノフ氏)

(もっと読む場合は出典元へ)
出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2013/03/201303_0039feature02.pdf