ガイガーモードAPD 技術へと拡張されたシリコン光電子増倍管

クリストフ・ビッテ、フィリップ・ベラード

シリコン光電子増倍管、「並列に相互接続されたガイガーモード・アバランシェフォトダイオード(APD)アレイ」は共通アノードをもつ複数のマイクロセル構造の利用によって広いダイナミックレンジと直線性を実現し、同一時間フレーム内の複数光子の検出と計数を可能にした。

近年、陽電子放射断層撮影法(PET)、高エネルギー物理学、放射線検出などの用途ならびに分析機器において、光電子増倍管(PMT)の置き換えとなるシリコン光電子増倍管(SiPM)とその能
力に関する多数の論文と記事が発表された(1)、(2)。これらのSiPMは基本的に絶縁破壊電圧以上の電圧範囲で動作させる並列の相互接続アバランシェフォトダイオード(APD)アレイである。この動作モードは、いわゆる「ガイガーモード」であり、絶縁破壊電圧を超える印加電圧は、通常、過電圧と呼ばれる。
 共通アノードを持つ複数のマイクロセル構造の実装を通して、開発者たちは、単一光子計数検出器のダイナミックレンジの大きな増加と、それゆえ同一時間フレーム内の複数光子の検出と計数を可能にする広いアクティブエリア上の直線性とを実現した。SiPM の主要な性能パラメータは高い光子検出効率、低い暗雑音、低いクロストークとアフターパルス、高速タイミング分解能である。

性能測定基準

ほぼすべての検出器で最も重要な性能パラメータは光子検出効率(PDE)、すなわち入射光子が検出器の出力ステージで検出可能な電流(またはパルス)を発生させる確率である。SiPM では、
PDEは基本的に3 つのパラメータからなる。それらは、光子が1 つのマイクロセル内に光電子を発生させる確率である量子効率(QE)、光電子が衝突イオン化を通して電子なだれを引き起こし、アノードで測定可能な電流を発生させるアバランシェ確率( Pa )、そして単一SiPMピクセル上の活性マイクロセル領域と複数マイクロセル間の「デッドスペース」も含む全マイクロセル領域の比である幾何学的効率または充填率(FF)である。これらのパラメータは方程式PDE=QE×Pa×FF によって関係づけられる。
 FFは主に、シリコン材料内のp-n 接合表面によって決まる幾何学的パラメータであるが、PaとQEは選択された材料のタイプ(「pオンn」または「nオンp」)と構造の詳細によって定義される。
 SiPMにおいては、PDEとダイナミックレンジとの間に直接的なトレードオフが存在する。与えられた検出器領域上のマイクロセルの数が増大すると、それに比例してマイクロセル間のデッドスペースのパーセンテージが増加し、その結果、幾何学的効率と全PDE が減少する。このトレードオフは個々のアプリケーション要件に基づいて考察されなければならない。
 エクセリタス社(Excelitas)製のC30742SiPMチップは「pオンn」構造とさまざまなチップサイズにおける標準50×50μmマイクロセル設計をベースとする。その全PDEは510nm(ピーク波長)で約34%、スペクトル帯域幅は絶縁破壊電圧よりも5V高い電圧で300〜950nmの範囲にある。この設計アプローチは、標準的な相補型金属酸化物半導体(CMOS)製造工程を使う他のSiPM設計とはかなり異なり、深い拡散空乏層領域の形成を許容することによって、結果的に、より低い静電容量と長波長でかなり高い感度とSN 比をもつPDE曲線を生じた(図1)。過電圧が比較的高い値なので、全PDEを最大化する飽和に近いPa でのダイオード動作が可能である。
 PDEの値は、クロストークや暗計数率といった他のパラメータを犠牲にして設計トレードオフ効果を回避する慎重なシリコンチップレイアウトを通して幾何学的効率を改善することにより、次の製品世代においてさらに増大させることができる(ピークで40% 以上)。もう1 つのアプローチは、より複雑な反射防止膜を使うもので、500nm 以上で数パーセントの損失犠牲があるが、400nm以下での量子効率が10〜20%改善されるだろう。
 暗雑音または暗計数率はSiPMのもう1つの重要なパラメータである。「暗計数」は入射光子によって生成されるものではなく、シリコン構造内の(熱)キャリアによって生成される出力パルスを指す。暗計数率は、伝統的な真空管式PMTを主に使ったアプリケーションでは、SiPMの最大の性能制限因子になる。シリコンベース製品の物理的性質により、SiPMの1領域あたりの暗計数率は真空管に比べて数桁高くなり、そのため固体製品による単純な直接置き換えを困難にする。より高い平均雑音フロアは一般に測定データから取り去ることができるが、暗計数率の統計的変動(平均暗計数率の平方根として定義されるポアソン統計分布で与えられる)は取り去ることができず、従ってSiPMの最小検出可能信号を制限する。
 われわれ独自の低雑音APD技術に基づいて、新しいエクセリタス製のC30742SiPM構造は、室温において1平方ミリメートルあたり200kcps の非常に低い暗計数率を提供する(図2)。この性能
は、線形領域で動作させた低雑音APDのよく知られた特徴である、低いk 因子または電子正孔イオン化比を持つ検出器の設計によって達成された。
 SiPM 性能に関係する他の重要因子はクロストークとアフターパルスであり、どちらもより高い過電圧でのデバイス動作と直線性を阻む。クロストークは主に、活性化マイクロセルのシリコン構造によって放出された光子、または電子によって引き起こされ、これが隣接マイクロセル内で別のなだれを引き起こす。この効果は単一画素APDにおいては隣接セルがないため観察されないが、それがセンサの直線性とダイナミックレンジを損なうことがないように、SiPM上で慎重にコントロールしなければならない。
 (光)クロストークを避ける最も効率的な方法は、SiPMチップ上のマイクロセル間に垂直またはv形トレンチの光子吸収構造を組み込んだ、光子吸収トレンチの設計である。われわれは検出器の光クロストークを最小化するために、各マイクロセルの4側面上にv形トレンチを設けた。
 アフターパルスは、SiPM構造内に捕獲された電子が、出力ステージで入射光子によって生成される真のパルスと区別がつかない2次なだれを引き起こす同様な効果である。シリコンの純度とSiPM構造とクエンチング抵抗器の幾何学または寸法がアフターパルスを最小化するキー設計要因であるため、われわれはエクセリタスのSiPM設計にポリシリコンドーピングによる1MΩの大形クエンチング抵抗器を採用して、その再充電中のマイクロセルの再放電を抑制した。

図1

図1 動作電圧でのPDE対波長がC30742シリコン光電子増倍管(SiPM)に対して示されている。

図2

図2 動作電圧での平方ミリメートルあたりの暗計数率対温度の関係が、破壊電圧よりも5V高い公称電圧で動作するC30742 SiPMに対してグラフ化されている。

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2013/01/201301_0020feature01.pdf