高画素密度の光起電力網膜プロテーゼ

たとえ加齢に伴う黄斑変性症や網膜色素変性症によって眼の光受容体が失われたとしても、内部網膜ニューロンの大部分は長い年月にわたって生存し続けることが多い。視覚に障害がある人の視力回復法としては、光遺伝子治療に加えて、外部カメラと網膜ニューロンを刺激するために移植された有線電極アレイがある。しかし、必要とされる部品はかさばり、画素密度は低く、伝送された画像は眼で自然に走査することができない。
 画素密度は、独レティナ・インプラントAG社製のように、感光性画素の利用によって大いに改善された。しかし、ここでもまた、外部給電がデバイスを非常にかさばるものにし、移植と保守を困難にした。
 これらの欠点の解決に向けて、米スタンフォード大学とカリフォルニア大学サンタクルス校の研究チームは、近赤外(NIR)パルス光が照射された時に網膜の神経節細胞に信号を送る内部網膜ニューロンを刺激するために、ワイヤレスで光起電力駆動型の網膜下フォトダイオードアレイを開発した(1)。この方式は、複雑なエレクトロニクスや配線を使わずに、画像知覚と眼球運動との自然なリンクを保持する。

NIRゴーグル投影

網膜プロテーゼ(人工装具)は、基本的に画像を取得する小型ビデオカメラから成り、取得された画像は外部コンピュータによって処理され、NIR(880〜915nm)パルス照明を使って眼の近くのゴーグル投影システムによって眼に投影される。この画像は網膜上に焦点が合わせられ、網膜下のフォトダイオードアレイが光起電力デバイスと同様に光をパルス光電流に変換して各画素位置の神経を刺激する(図1)。
 環境光は光起電力効果でニューロンを刺激するにはあまりにも暗すぎるので(少なくともその1000 倍は必要)、NIR レーザ画像投影システムがフォトダイオードアレイを駆動する強いパルス照明を作り出す。光によって誘起された温度上昇は、ここで使用された905nm波長の場合、平均放射照度を5.2mW/mm2以下に抑えることによって、眼の生理学的安全性規制の範囲内(1℃以下)になる。

図1

図1 ラットの眼の網膜下に移植された光起電力網膜プロテーゼアレイが示されている。高倍率の写真はアレイ自身とインプラントの1つの画素を示す。(資料提供:スタンフォード大学)

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2012/09/201209_0014wn02.pdf