レンズを持たない携帯型のオンチップ顕微鏡

アロン・グリーンバウム、ウザイル・シコラ、アイドガン・オズカン

携帯型のオンチップホログラフィック顕微鏡は、マルチハイト(複数の高さでの画像取得が可能)でレンズレスの画像処理によって、高密度で多様な生物が混在するサンプルの画像を取得する。

明視野顕微鏡は、生体臨床医学を含む様々な分野で広く使用されている。しかし、光学顕微鏡には、視野(FOV:field of view)が限定されるという基本的な制約があるため、対象とする希少な微視的特徴(異常細胞や寄生生物の特徴など)の検出は、労力を要する、退屈で比較的コストのかかる作業となる。また、これらの顕微鏡にはサイズがやや大きいという制約もあり、現場での使用には適していない。

デジタルインラインホログラフィ

レンズレスのオンチップホログラフィック画像処理手法は、このような制約に対処することを目的としたもので、コンパクトかつ軽量で、費用対効果の高い設計を採用して、サイズの大きなサンプル領域に対する高解像度画像を提供することができる(1)〜(4)。レンズレスのホログラフィック顕微鏡の1つを例にとると、その基本的な動作原理は、発光ダイオード(LED)を照明に使用する、部分的にコヒーレントなデジタルインラインホログラフィに基づいている(図1)。マルチモード光ファイバに突合わせ結合された各LEDは、約0.1mm という効果的な開口サイズで標本を照明する。この照明構造によって、イメージセンサーのすぐ近くに配置された標本に当てられる光が十分にコヒーレントで、多様な生物が散在する対象範囲が、バックグラウンド(つまり、散乱していない)光と確実に干渉できるようになっている。
 その結果得られる干渉パターンには、例えばCMOS センサーアレイを使用してサンプリングされたインラインホログラムという形態で、対象物の位相情報が符号化される。これと同じホログラム記録構造も、ユニットフリンジ拡大を適用することにより、空間分解能を損なうことなく比較的大きな帯域幅を持つ対象物に対応することができる。一方、センサーアレイ側のピクセルサイズは、サブミクロンレベルにまで空間分解能を向上させる場合の課題となる。
 このサンプリング時の制約を緩和するために、われわれはLED アレイを使用した。各LEDを個別にオン/オフすることによって、センサー面にある対象物のレンズレスのインラインホログラムをシフトすることができる。ピクセル超解像技術に基づいて、ピクセルサイズがかなり小さいインラインホログラムを合成し、例えば30mm2という、分解能が同等の一般的な明視野顕微鏡のFOVよりも100倍以上大きなFOV全体にわたって、サブミクロンの空間分解能を実現することができる(1)、(2)、(5)。概念実証として、部分的にコヒーレントなインラインホログラフィをベースとする、レンズレスのオンチップホログラフィック顕微鏡を、例えばマラリア原虫の画像取得に適用し、チップ上でサイトメトリを行い、水生の寄生生物を高いスループットで検出した(1)、(6)、(7)。

図1

図1 (a)マルチハイトの位相回復処理では、異なる高さで取得した複数の超解像ホログラムの間で伝播を繰り返すことによって、密度が高くコンフルエントな状態のサンプルの画像取得が可能である。結果として得られる複素場が対物面へと逆伝播され、標本の振幅および位相情報が生成される。(b)レンズレスでマルチハイトのホログラフィック顕微鏡は、重量がわずか122g以下で、約30mm2の視野全体に対してサブミクロンの分解能を実現する。(c)同じ装置の模式図。

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2012/09/201209_0024feature02.pdf