高強度のX線レーザで未知の現象への扉を開く ─ 企業利用やインフラ整備も進行中

X線自由電子レーザSACLAの共用利用が今年3月に開始された。5カ月の第1期間が終了した現在、あらたな光学現象の観察などの成果が得られるとともに、隣接する放射光施設との共同利用やスーパーコンピュータ京との接続といったインフラのさらなる整備も進行中である。

X線自由電子レーザ(XFEL:X-ray freeelectron laser)は、電子を真空中で取り出して加速し、磁場で曲げることによってX線を発生させ、それを多く重ね合わせることにより高輝度でコヒーレントなレーザ光を作り出す装置である。
 自由電子レーザ(FEL)は1970年に考案された。さらに1984年に光共振器の役割を果たすものとして、電子による自己増幅を利用するSASE(selfamplified spontaneous emission)方式が提案された。磁場の間隔および電子ビームの強さを調整することによってどの波長でも発生させることが可能であるため、X線領域のレーザとして検討が始まった。
 XFEL には短波長まで幅広いレーザ光を発生するほかにも、フェムト秒レベル(100fs 以下)のパルス光が発生可能で、輝度は高輝度放射光源であるSPring-8の10億倍となるといった特徴を持つ。つまり原子スケールの空間分解能と、化学反応なども撮影できる時間分解能、そして桁違いの強度を兼ね備えたレーザと言える。
 こういった特長から世界で建設が進められている。2009年に稼働を開始したのが米スタンフォード大学SLAC国立加速器研究所のLCLS(linac coherent light source)である。続いて2011年に理化学研究所 播磨研究所のSACLA(SPring-8 angstrom compact free electron laser)が発振した。さらに2016年にはヨーロッパのXFELが稼働予定である。

理化学研究所 播磨研究所 所長の石川哲也氏

理化学研究所 播磨研究所 所長の石川哲也氏

SACLAの概要

XFELは基本的に、電子を取り出す電子銃、電子を加速する加速管、磁石のN極とS極を交互に並べて電子を蛇行させて放射光を発生させるアンジュレータからなる。SACLA(図1)は日本独自のアイデアと企業の技術で各装置を小型化することにより全長約700mとなっている。LCLSの約4km、European XFELの約3.3km と比べて大幅に小型化とそれにともなう低コスト化を実現している。なおSACLA の建設コストは約390 億円である。「小型化による産業界のメリットは非常に大きいと考えている。本施設の稼働に成功したことで、より多くの人にXFEL を利用してもらうためのステップを一段上がったと言える」(理化学研究所 播磨研究所 所長の石川哲也氏)。
 SACLAのパラメータは、波長は0.063~0.28nmで、パルス幅は10fs、設計上の繰り返し周波数は60Hzだが現在10Hz で稼働している。ビームサイズはアンジュレータ(図2)を出た時点で約200μm径であり、そのあと非球面全反射ミラーによって縦横ともに約1μm径に圧縮される(図3)。この時点でエネルギー強度は1017W/cm2におよぶ。

図1

図1 SACLAの構成。右上がSPring-8との相互利用実験施設。

図2

図2 電子銃の外観

図3

図3 ビームサイズの評価

(もっと読む場合は出典元へ)
出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2012/09/201209_0018Introlabo.pdf