パルスファイバレーザのパワーを増大する高飽和エネルギーYbファイバ

ミッシェル・ベガン、ベルトラン・モラッセ

高飽和エネルギーイッテルビウム(Yb)ドープガラスマトリックスを利用した40W、2mJのパルスファイバレーザは、従来のYbドープファイバの長所を維持しながら限界の多くを解決する。

産業、医学、ソーラーなどの市場では、新材料加工用の高エネルギー、高ピークパワーのパルスレーザが必要になった。この新しいチャンスに応じて市況も変化し、より低価格、より革新的、より費用効率が高い技術を求めてレーザメーカーに対する圧力を強めた。最近数年間に、ファイバレーザはそういった要求に対して大きな将来性を示し、固体レーザと炭酸ガス(CO2)レーザからマーケットシェアを徐々に奪いつつある。
 約1μm波長帯の材料加工用パルスファイバレーザは一般にYbドープシリカガラスを利用している。しかし、高エネルギーのパルスファイバレーザ設計は、従来型のYbドープ光ファイバでは乗り越えがたい多くの課題を突きつけた。幸いなことに、高飽和エネルギーガラスマトリックスから作製された新しいYbドープファイバベースの高エネルギーパルスファイバレーザは従来型のYbドープファイバに関する多くの限界を解消し、同時に新たな長所を付け加えた。

光ファイバの考察

シリカベースの光ファイバは、従来の気体または結晶ベースのレーザに比べて優れたビーム品質、大きな熱散逸、高パワー操作、ロバスト性をもつため、特に利得媒質として好まれている。
 1μm窓におけるレーザ発振では、Ybドープファイバが、高い効率、高いドーピング濃度、広いポンプ吸収バンドにより使用されている。さらに、ダブルクラッド光ファイバ(DCOF)構造は、DCOFファイバクラッドに結合された低輝度で高出力のポンプダイオードから大量の出力を可能にし、高いビーム品質をもつ小さなコア内で高いパワーレべルに増幅される高輝度信号を可能にする。Yb DCOFの0.9〜1.0μmの吸収バンドで光を放射する、低価格で高輝度のファイバ結合半導体ポンプダイオードの入手可能性がファイバレーザの利用をよりいっそう魅力的にしている。
 性能とコスト要求に見合った最良の利得ファイバを選択することは高エネルギー、高ピークパワーのパルスファイバレーザ設計における最重要課題である。DCOFファイバは相互作用長が長いので、誘導ラマン散乱(SRS)や自己位相変調(SPM)などの非線形効果が発生しやすく、それらの適切な管理が必要になる(1)。主発振器電力増幅器(MOPA)配置では、半導体シードレーザは狭い波長線幅によるモードを含み、誘導ブリルアン散乱(SBS)を増幅過程で発生する可能性があるので、信頼できるシステム動作を得るにはそれを十分に抑制しなくてはならない。
 それゆえ、これらの非線形効果を軽減するために、アクティブファイバの選択が重要にある。下記のような特性と対応する属性を持つ利得ファイバが望ましい。それらは、低いパルス変形と高い非線形効果閾値をもたらす高い飽和エネルギー、より高い非線形効果閾値とより短いファイバ長を可能にする高いポンプ吸収、ポンプパワー経費と熱管理問題を低減する高い効率、光黒化効果による劣化を抑制する安定な長期出力、高いビーム品質の出力などである。
 これらのパラメータを一望すれば、いくつかのトレードオフが不可避であることが見えてくるだろう。例えば高い飽和エネルギーは、通常ビーム品質に有害なより大きなコア径を必要とする。高い吸収は大きなコア径またはYb濃度の増加によって達成することができるが、後者は一般に増大した光黒化効果を伴う。

従来型のYbドープファイバ

高パルスエネルギー(>50μJ)では、パルスひずみが望ましい出力パルス波形を厳しく制約し、非線形効果の閾値低下をもたらす不必要な高いピークパワーを発生する。非線形効果はシードダイオード信号の様々なパルス成形スキームを通して低減できることは周知の事実である。しかしながら、任意のパルス波形はシードダイオードレベルによって容易に生成できるが、高出力エネルギーで増幅する際にそれを保存することは非常に困難である。

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2012/08/201208_0032feature04.pdf