遷移金属酸化物が有機太陽電池の変換効率を向上

マーク・T.グライナー、リリー・チャイ、ルー・チェンホン

有機太陽電池分野では、高い電力変換効率を目指してさまざまな取り組みが行われてきた。こうしたなか、開放電圧と短絡電流、曲線因子を改善するために電極修飾剤として遷移金属酸化物を使用すると、PCEを大幅に向上できることが明らかになった。

有機太陽電池(OPV)は、従来の無機太陽電池より安価に提供できる。さらに、柔軟で曲げることのできる形状であるため、新しい携帯型電力アプリケーションや、ロールツーロール印刷のようなユニークな製造プロセスを実現することも可能だ(図1)。こうした特徴が、再生可能エネルギーを民生用電子機器市場に普及させる道になるかもしれない。
 OPVは、コストや製造の面で無機太陽電池より優れているが、電力変換効率(PCE:power conver sionefficiency)が低いために普及の妨げになっていた。しかし、最近ではOPVの研究が進んでPCEが大幅に向上し、事業として魅力的になりつつある。こうしたOPVの進歩は、高効率OPVを実現するために界面技術が重要であることが認識されたことが大きく影響している。

図1

図1 有機太陽電池は、Konarka社の太陽光パネル「Konarka Power Plastic」のような、曲げることのできる柔軟なプラスチックで製造することができる。(提供: Konarka 社)

有機太陽電池の動作原理

太陽電池は、光の吸収によって移動性の電荷キャリアを発生させ、電荷を2つの電極に集めることによって電圧を生成する。OPVの場合は有機分子が光を吸収する。一般にOPV にはバルクヘテロ接合が用いられている。
 バルクヘテロ接合は、ドナー分子とアクセプタ分子の相が混合してデバイス全体に広がった構造をしている(図2)。このドナー分子とアクセプタ分子が混合した有機相は、2つの電極、アノードとカソードの間に挟まれている。
 光を吸収すると、電子は、正の電荷をもった「正孔」をドナー分子上に残して、ドナー分子の最高被占分子軌道(HOMO:highest occupied molecu larorbital)から、アクセプタ分子の最低空分子軌道(LUMO:lowest unoccupied molecular orbital)に移動する。電子と正孔は、2つの電極に向かって、反対方向に動く。電子はカソード側に集まり、正孔はアノード側に集まる。
 電荷を効率的に集め、高いPCEを実現するには、有機相と電極の界面が重要になる。電荷が界面を超えるとき、電圧降下が生じ、PCE を低下させることがある。また、もし電極が電荷を分離できなければ(電荷が混在していれば)漏れ電流が発生し、PCE を低下させる可能性もある。カソードは電子だけを集め、アノードは正孔だけを集める必要がある。電圧降下と漏れ電流は、電極と有機相の間に適切なバッファ層を挿入することによって、最小限に抑えることができる。
 電極バッファ層の材料として、遷移金属酸化物が非常に優れていることがわかっている。遷移金属酸化物は、界面のエネルギー準位をセルの電圧が最大になるように調節できるほか、漏れ電流を小さくする整流特性をもっている。遷移金属酸化物は、化学的処理によって広い範囲の電子的特性を示すように調整することができ、そのため、非常に広い用途で使用できる。酸化物には、カソードバッファ層に適したものもあれば、アノードバッファ層に適したものもある。

図2

図2 バルクヘテロ接合型有機太陽電池の構造(a)の中では、光の吸収によって、ドナー相とアクセプタ相の中を移動する電子と正孔が発生する(b)。エネルギー準位図(c)の中で、EV は真空準位、EF はフェルミ準位を示す。

電力変換効率

PCE は、入力した太陽光エネルギーに対する出力電力エネルギーの割合として定義され、開放電圧(VOC)、短絡電流(JSC)、曲線因子(FF)の3つのパラメータの積で表される。
 VOCは太陽電池が生成できる最大電圧、JSCは太陽電池が生成できる最大電流、FFは太陽電池が生成できる最大出力を示すパラメータである。
 VOC、JSC、FFの3要素はすべて、電極相と有機相の界面に大きく依存する。そのため、電極相と有機相の界面に金属酸化物のバッファ層を挿入すれば、これらの3要素をOPVの性能が向上するように最適化することができる。

エネルギー準位の調節とVOC

有機太陽電池が実現できるVOC の最大値は、ドナー分子のHOMOとアクセプタ分子のLUMOの差によって決まる。しかし、最大のVOC は、電極相と有機相の界面でエネルギー準位を適切に調節した場合にのみ得ることができる。
 エネルギー準位の調節は、HOMOまたはLUMO準位と電極のフェルミ準位の差を参照して行う。この差をそれぞれΔHOMO、ΔLUMOと示す(図3)。界面での電圧降下をゼロにするためには、HOMO(LUMO)準位はアノード(カソード)のフェルミ準位と完全に等しくすべきである。すなわち、アノードの界面ではΔHOMO がゼロ、カソードの界面ではΔLUMO がゼロでなければならない。
 最近、金属酸化物は、エネルギー準位を広い範囲で調節できることが明らかになった。電極のフェルミ準位が分子のHOMO準位より低いときは、ΔHOMOは最小に達し、電極のフェルミ準位が分子のLUMO準位より高いときは、ΔLUMOは最小に達する。
 電極のフェルミ準位は、仕事関数φによってパラメタライズされる(仕事関数φによって変わる)。仕事関数は、物質から電子を取り出す(または物質に電子を加える)ときのエネルギーの損失(または増加)を表す。

図3

図3 バルクヘテロ接合型太陽電池デバイスのエネルギー準位図には、カソードとアノードの仕事関数、HOMO、LUMO との差(ΔHOMO、ΔLUMO)、開放電圧VOC が示されている。

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2012/08/201208_0028feature03.pdf