レーザパルシング: ナットとボルトとしてはたらくQスイッチングとモード同期

マルコ・アリゴーニ、マグナス・ベントソン、マティアス・シュルツェ

2つの多目的パルシング技術、Qスイッチングとモード同期は、医療画像処理および診断からアト秒科学あるいは工業用の材料加工まで、今日幅広い範囲で使用されている多くの商用パルスレーザの基盤技術である。

現在入手可能なパルスレーザの選択肢は非常に多いが、そのほとんどは2つのパルシング技術、Qスイッチングとモード同期に基づくものであり、それぞれナノ秒またはピコ秒からフェムト秒のパルスを提供する。本記事では、各技術の基礎、出力特性、そしてそれらがサポートする多数のアプリケーションのうちのいくつかについて報告する。

Qスイッチング

Qスイッチングは本質的にはレーザ共振器内に配置された超高速応答シャッタである。低Q状態にすると、それは共振器損失を生み出してレーザ発振を抑制する。高Q状態にすると、実質的に損失がゼロになり、レーザ発振を起こす。
 Qスイッチング過程の主要な段階は、時間の関数として、Qスイッチ状態(共振器損失)、エネルギー蓄積、出力パワーからなる(図1)。各サイクルの開始時に、Qスイッチング素子はレーザ発振を起こさない状態にセットされる。Qスイッチがこのモードを維持する間に、連続的に供給されたポンプエネルギーはレーザ結晶(上位状態寿命が長いと仮定される)内に蓄積される。次に、Qスイッチ状態を切り替えると共振器損失が急速に0 まで下がる。その結果、蓄積されたすべての利得を使って短いパルスが生成される。蓄えられた利得と短いパルス立ち上がり/立ち下り時間との組み合わせによって、数ナノ秒長から最高数百ナノ秒長までの高ピーク出力パルスが発生する。
 最も一般的に使用されているQスイッチデバイスは、電気光学(EO)と音響光学(AO)変調器である。EO変調器では、結晶に電圧を印加して、そこを通過する光の偏光を回転させる。この結晶を2つの交差する偏光子間に挿入すると、光がこのアセンブリを通過できるのは印加電圧が偏光を回転させる時だけになる。EO変調器は一般に低いパルス繰り返し速度(最高数kHz)と高いパルスエネルギー(パルスあたり数mJ)で使用される。
 より高いパルス繰り返し速度(数十kHz以上)と低いパルスエネルギーの場合は、通常AO変調器が適している。AO変調器においては、結晶は高周波(RF)電力が印加されたときにだけ共振器内のビームを一定角度偏向させ、レーザ発振を抑制する。

図1

図1 Qスイッチレーザ共振器における共振器損失、蓄積されたエネルギー、および出力パワーが時間の関数としてプロットされている(下図)。縦の破線はこの過程の1つのサイクルを示し, この間に単一のレーザパルスが発生する。このサイクルは一般に約10μsから1ms 続く。Qスイッチされたパルス発生が上図に描かれている。

モード同期

モード同期は、連続波(CW)レーザ材料でフェムト秒またはピコ秒のパルス幅の出力を生成するための特別な動作条件である。Ti: サファイアなどの広い利得帯域幅を持つレーザ材料は数十nm以上の広帯域の出力を発生させることができる。詳細な試験の結果、この出力は数百、数千、または数万個もの個別の縦モードから成り、各モードは方程式

Nλ=2×共振器長(N は大きな整数)

を満足することが明らかになった。
 ほとんどのレーザにおいて、これらのモードは利得と損失の強度が無秩序であり、互いに相対的にランダムな位相関係を持っている。モード同期させると、すべてのモードの相対的位相が固定される。フーリエ解析によれば、結果としてのモードの重ね合せは光の速度で共振器周辺を進行する超短パルスとして現れる。このパルスが出力ミラーに到達するたびに、レーザがこのパルスの一部を放射する。
 可能な限り短いレーザパルス幅(いわゆる変換限界パルス幅)は最終的に関係するモード数に依存する。パルス幅はレーザのスペクトルバンド幅のフーリエ変換に相当するため、より広いバンド幅はより短いパルス幅を支持し、逆もまた成り立つ。パルス繰り返し速度はレーザ共振器の往復時間で決まる。例えば、2m以下の共振器長と100nmより大きい帯域幅を持つTi:サファイアレーザ発振器では、繰り返し速度は76MHzであり、パルス幅は10fs近くになるだろう。
 CWレーザは、レーザがCW自走方式ではない方式で動作するとき、低い光損失を提供する任意の機構によってモード同期動作を強制される。モード同期は使われ方によって能動と受動の2つのカテゴリーに分類される。能動モード同期は、共振器の往復速度(典型的な商用Ti:サファイア発振器では76MHz台)での、共振器(例えばAO変調器使用)の高速ゲーティングに帰せられる。

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2012/08/201208_0020feature01.pdf