風力エネルギーを後押しする風力タービンライダ

ゲイル・オーバートン

光検出と測距(ライダ)技術の最もエキサイティングな商用アプリケーションの1つは、現在の風力タービンの性能を最適化するために風速と風向を評価することだ。

光検出と測距(ライダ)技術は、大気センシング、地形と農業の評価、3次元(3D)産業マッピングと空間解析などの広範囲に応用されている。しかしながら、ライダの最もエキサイティングな用途の1つは、地球の再生可能エネルギーの将来において重要な役割を果たすと考えられる風力タービンの性能を向上させるために、風速と風向を評価することである。
 多くの商用の風力発電施設(ウインドファーム)は風力タービンライダなしで稼動しているが、科学界は風力エネルギー産業部門において、徐々に勢いを増す、すなわち出力を上げるようなより小型でより低価格、そしてよりロバストなシステムを作り続けている。

エネルギー生産性の向上

ドイツのボンに本部を置く世界風力エネルギー協会(www.wwindea.org)によれば、風力タービンの世界市場は指数関数的成長を続け、2011 年には、全規模が史上最高の42GWに達した。これは世界の総風力エネルギー容量(239GW)または総電力需要の3%に相当する(図1)。
 風力評価データは、地上ライダステーションの設置に最適なウインドファームの場所を予測するために利用されている一方、風力タービンのナセル、スピナー、ブレードなどに搭載されたレーザベ
ースの風速計または風力タービンライダシステムはタービンブレード前方の風速と風向を予測することによって風力エネルギーの生産性を高める。これによるエネルギー増加は普通5%以下であるが、くつかのメーカーは10%またはそれ以上改善できると主張している(1)。
 今日の商用風力タービンドップラーライダシステムはスコットランドのナチュラル・パワー社(Natural Power)からのZephIRのような連続波(CW)システムと、仏アーベント・ライダ・テクノロジー社(Avent Lidar Technology)製のWind Irisや仏キャッチ・ザ・ウィンド社(Catch the Wind:CTW)製のVindicatorOptical Control Systemなどのパルス波システムとがある。

図1

図1 世界的な風力エネルギー生産量は成長を続け、2011 年には約239GW の史上最高記録に達した。(資料提供: 世界風力エネルギー協会)

連続波ライダ

再生可能エネルギー(風力、波、潮汐、バイオマス)のコンサルタントと製造を業務とするナチュラル・パワー社の製品開発・販売ディレクタであるアレックス・ウッドワード氏(Alex Woodward)
は、「風力エネルギーへのライダの応用は1980 年代に開始されたが、当時のシステムは本格的に導入するにはあまりにも大型で、高価であった」と語
っている。「しかし、1990 年代の情報通信ブームを契機に光ファイバと他の部品を利用した新しい世代のライダが登場し、これと同時に風力産業が急成長したことによって、状況は劇的に変化した。最初の全ファイバライダシステムは1990年代後期に実証され、2003年の初めには商用のプロトタイプユニットであるZephIR がタービンに搭載され、ローター面前方の風速検出を実証した」と付け加えた。
 2003年以来、ZephIR シリーズの約600台のライダ配備が商用風力タービン用に、複数の秘密裡の搭載例も含めて委託された。元来英QinetiQ社によって開発されたZephIRを、現在はナチュラル・パワー/ ゼフィア社(NaturalPow er/Zephir Ltd.)がイギリス、ヨーロッパ、カナダ、アジア太平洋エリアに提供し、アメリカ国内には米キャンプベル・サイエンティフィック社(Campbell
Scientific)が独占的に提供している。
 アイセーフな1550nm 近傍帯域のクラス1レーザで動作する、ZephIR CWコヒーレントドップラーライダシステムは約1W の平均パワーレベルでターゲット(この場合、風力タービン前方の空気中の粒子)を照射し、その光の一部が受信器へと後方散乱される。ビーム方向に沿ったターゲットの運動はその光の周波数をドップラー効果によってシフトさせる。ライダシステムに向かう運動は周波数の上昇(「青方偏移」)を発生させ、離れる運動は波長の伸長つまり低周波数の低減(「赤方偏移」)をもたらす。この周波数シフトは、リターン信号をオリジナルビームの一部(参照ビーム)と混合させ、結果として生じる光検出器上の差周波数ビートを検出することで測定される。
 参照ビームまたは局部発振器(LO)は測定過程において重要な役割を果たす。第1に、ビート信号の検出に必要な光を散乱させる空間領域を定義する。第2に、コヒーレントライダシステムが背景光の効果をほとんど受けないですむように他の光源(太陽光など)からの放射を空間的、スペクトル的に遮蔽する。LOも安定な参照周波数を提供して非常に精密な速度決定を可能にするので、結果として、コヒーレントライダシステムによるドップラーシフト測定は本質的にキャリブレーションされた状態になる。最終的に、LOはビート過程によって信号を増幅し、ショット雑音(または量子)限界に近い感度での動作を可能にする。この非常に高い感度のおかげで、自然のエアロゾルによる弱い後方散乱の検出だけを頼りに、シードなしで大気中のコヒーレントシステムを動作させることが可能になる。
 ZephIRライダ(「全ファイバ」システム)はアラインメントの簡素化とロバスト性の向上を目指して自由空間ミラーに代えて光ファイバを使っているが、その性能を理論限界に近づけるには、検出過程はLO ビームからのショット雑音以外の雑音はなしにする必要がある。このレーザはその相対強度雑音(RIN )性能に厳密な要求を課すような大きな振幅雑音を発生してはならない。ビームは往復する間にコヒーレンスを厳密に維持する必要はないが、光ファイバ内の寄生反射間の干渉によって生成される雑音はレーザ線幅に対してより厳しい要求をつきつける。
 風速は、大気中の粒子によるビームの後方散乱が起源であるライダ信号から導かれる。一般に、ダスト、花粉などの有機物質、煤、水滴から成る粒子はドップラー解析に十分な信号を提供し、それらの運動は風の流れに忠実に従っていることが前提条件になる。
 風が検出される範囲は目標距離にビームを集光させることによって定義される。地上動作型のZephIR システムは遠方10mから300mまでの範囲を測定するが、ZephIRの前方に関してはわずか数フィートまでの極めて近い範囲を容易に測定できる。これらは、風力場がタービンに向かって伝搬するように発展している限り、より優れたタービン制御にとって好ましいことである。このような近距離を測定する能力はCWライダシステム固有の特性である。
 標準的なZephIR は単一ビームによる単純な円錐走査法を使って、タービン回転翼の円形360°経路掃引の前後に20ms間隔で測定を実施し、緻密にサンプリングする。しかし、3つの走査ビームを使用して複雑な流れを高速インテロゲーションする用途に対しては、WindScannerなどの改良ZephIR版がデンマークのリソDTU社(RisøDTU)の協力の下で開発された(2)。
 ZephIRライダシステムは、1秒ごとの走査前後に収集した50の照準線によるドップラー読みから連続的な円形走査パターンを生成する(図2)。風力タービンのノーズから水平に開始する時には、風速測定結果はタービン制御系への正確なフィードフォワード入力として役立ち、これによって最適なエネルギー抽出、速度制御、疲労とピーク荷重の軽減のために調整されるべきタービンのヨーイングとその集合的あるいは個別のピッチ制御が可能になる。ウッドワード氏は、「保守が行き届いたタービンの場合、学術機関の予測によれば、エネルギー収量増強は今のところ1%から2%の範囲で比較的小規模である。しかし、CWライダの潜在的により重要な利点はタービン寿命を増大させるメカニカルな荷重の軽減にある」と語っている。

図2

図2 リアルタイムディスプレイは風力タービンナセルに設置されたZephIR ライダによって測定されたドップラーデータと風力モデル出力を示している。生データの極座標プロットはタービンローターのまわりの走査角をパラメータとする照準線(LOS)風速を示す(左;放射軸はLOS風速)。プロットされた分布の幅と構造は走査体積内の空間乱流の情報を提供する。地上誘起乱流は低角領域で観測され、他のタービンからの低レベルの風ジェットとウェークも検出された。極座標プロットのリアルタイム解析(中央)は計算されたLOS 速度(赤色の点)とフィッティングされた風パラメータ(緑色閉曲線)を示す。中心の赤の点はタービンブレードの戻りであり、フィッティング前に自動的にフィルタリングされる。最終的に、参照データと計算された風特性が緑色フィッティング(右)から計算される。(資料提供: ナチュラル・パワー社)

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2012/07/201207_0040pa.pdf