フォトンカウンタの検出効率を高める改良アバランシェフォトダイオード設計

マイク・ホッジス

アバランシェフォトダイオード(APD)ベースのフォトンカウンタは他の光子計数法に比べて多くの利点を持っている。それらは、単一光子検出用にガイガーモードで動作させ、特定の課題に向けて最適化させることができる。

極端に微弱な光信号の検出が必要であるが、従来の検出器では信号と雑音の区別が難しい時、科学者と技術者は決まって単一光子計数を頼りにする。光子計数法は、天体観測ライダー、各種タイプの蛍光顕微鏡法、産業分野の粒度測定技術、新薬の発見、DNA 解析、さらに最近では量子暗号学などの特定用途向け産業、研究、通信技術など、さまざまな分野で見出される。
 これらの用途に特有の要求は多岐にわたり、詳細な解析はこの記事の範囲を越えているが、いずれも非常に高効率で、低雑音の単一光子検出器が必要であるという点で共通している。
 単一光子計数において、特定の光パワーレべルに対応する1 秒あたりの光子数は下記の式で表される。

 N(λ)= 5.03×1015×λ×P

ここで、Pは光出力(W)、λは波長(nm)である。例えば、405nmで1fWの出力は毎秒約2000光子数に相当し、670nmで毎秒100光子の計数率はわずか30aWのパワーレべルに対応する(図1)

図1

図1 単一光子検出器における出力と入射光子数との間の波長依存相関を示した。

光子計数法

それぞれユニークな一組の性質をもつ多数のタイプの単一光子検出器が存在する。光電子増倍管(PMT)は入射光子を内部で電子に変換し、それらの電子を増倍する特殊な真空管である。電子増倍管はダイノードとして知られる一連の2次電極を備え、その各々が入射電子を吸収して追加の電子を放出する、いわゆるアバランシェ効果を発揮する。
 ダイノードに対する電位はそれぞれ一定に維持され、ダイノードからダイノードへと順に高められている。電子はPMTを通ってアノードへと加速され、そこで吸収されて電気パルスの形で出力信号を発生する。一般に、1~3kVの高電圧をPMTに印加する必要がある。
 PMT は単一光子を検出するためにガイガーモードで使用される。しかしながら、非常に高い内部電流の発生により、これ以上の光子観察が不可能になる不感時間が生じるので、各光子イベント後にデバイスを電気的にリセットすることが不可欠である。分光特性の異なる各種カソード材料を検出波長範囲に従って選択できるが、従来型の真空管PMT は一般に比較的短い波長の青色からUVの範囲で最良の感度を示す。光電子増倍管は一般に広い活性面積(数ミリメートル直径)が特徴だが、暗雑音レベルが高く、アフターパルス(光子がまったく検出されないのに、偽の出力パルスが放出される効果)を起こしやすい。
 最近になって、「シリコン光電子増倍管」とも呼ばれているCMOSベースのマルチ画素ガイガーモードシリコンアバランシェフォトダイオード(APD)も開発された。この技術は、従来のCMOS技術による比較的低い製造コスト、低い動作電圧、大きな全アクティブ領域をもつコンパクトな構成、優れたタイミング解像度などの利点をもち、将来有望だ。
 このAPDは応答時間が極めて速く、非常に敏感なフォトダイオードである。垂直p-i-nダイオードと違って、このAPDは内部利得を使った衝撃イオン化によって電子正孔対のなだれを発生させる。そのための必須条件は、電子/正孔イオン化が十分に起きるように十分に高いバイアス電圧を印加して、APDの吸収領域を拡大することである。絶縁破壊電圧よりも低い電圧で動作させると、なだれは半導体中の摩擦損失によって瞬時に消滅する。
 特別に作製されたAPD もまたガイガーモードで使用される。そこでは、なだれが維持されるように、バイアスはAPDの絶縁破壊電圧よりも高く設定され、最高108までの内部利得が達成される。このようなAPDは一般に単一光子アバランシェフォトダイオード(SPAD)と呼ばれる。
 今までのところ、ガイガーモードSPADの暗雑音は汎用APDのそれに比べて数桁低い。このことと汎用APDの長波長領域における低い量子効率とが、単一元素SPADを多くの単一光子計数用途で優位に立たせる。
 高利得でのSPAD のガイガーモード動作は必然的にAPD内の非常に高い電流レベルを引き起こすので、デバイス故障を防ぐには適切な消滅回路を使ってこれを絶えず制御する必要がある。最も単純な形式のクエンチ回路はフォトダイオードと直列に配置された電流制限抵抗器であり、その抵抗値を十分に大きくすれば、なだれを消滅させることができる。しかしながら、そのような回路は一般に回復時間が長いので、有効最大計数率が制限される(1)。
 この理由で、最も入手が容易なSPADモジュールにおいても、なだれの開始を検出し、それから数ナノ秒以内にAPDバイアスを絶縁破壊電圧以下に下げるアクティブクエンチ回路を特徴とする。その結果は、バイアスが事前レベルまで戻され、次の光子イベントの登録が可能になるまでの比較的に短い不感時間(一般に約50ns)である。この方法で、10MHzよりも上の最大計数率が容易に達成される。
 現在入手可能な最良のSPADモジュールは毎秒10カウント以下の暗計数率を示した。これは106以上のダイナミックレンジに相当する。商用のSPADモジュールは、ユーザーがそのSPADによって最適性能を達成できるように、熱電冷却されたガイガーモードAPDと最適化されたアクティブな消滅回路とをコンパクトな形状で構成している。

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2012/07/201207_0032feature04.pdf