通信をはじめ幅広い分野で実用化 ─ VCSEL構造を利用した新たな展開も

VCSELが考案されてから今年で35年。いまや低コスト、低消費電力といった特性により実用化が着々と進んでいる。さらに研究は短距離通信に向けた波長多重化やVCSEL構造を利用した新機能素子など、単なるレーザにとどまらない領域へと広がりつつある。

半導体レーザには、光の発振方向が基板に対して水平のものと垂直のものが存在する。はじめに実現された水平型は、基板のへき開によってできた結晶端面を共振ミラーとする。いっぽう垂直型の主流となっている垂直共振器型面発光レーザ( VCSEL:vertical cavity surface emitting laser)は、半導体プロセスによって活性層の上下に成膜した多層膜ミラーを共振器とする。
 端面出射型の半導体レーザと比べて、VCSELには以下のようなメリットがある。端面出射レーザは素子を分離した時点で初めて発振の検査が可能だが、VCSEL は検査がウェハの状態で行えるため生産性に優れる。また多数を並べたアレイ構造を形成できる。VCSELは活性領域を微小化でき、しきい値電流や消費電力を大幅に下げられる。
 VCSEL は1977年に東京工業大学の伊賀健一氏(現同大学学長)によって発案され、1979年に同氏の研究室でInP基板、GaInAsP活性層において約1Aでの発振が確認された。現在、東京工業大学 精密工学研究所 フォトニクス集積システム研究センターでVCSELの研究を行っている小山二三夫教授は、1985年に伊賀氏の研究室で有機金属化学気相成長法(MOCVD)装置の立ち上げに加わった。厚さおよび水平方向のサイズの大幅な小型化の成功がターニングポイントとなり、同研究グループでは2年後の1987年には6mA でのパルス発振に成功。1988年にはついに室温での連続発振を実現し、この頃から研究者が増えて加速的に面発光レーザの研究が進んだという。また90 年代には短距離通信のニーズの高まりが予測されたため、企業による取り組みも増えた。当時は通信用レーザの400Mbitモジュールが100万円もした時代であり、VCSELであれば大幅にコストを下げられると期待された。

インターコネクトやマウスで実用化

現在のVCSELの応用先の1つがデータセンターやスーパーコンピュータなどのインターコネクトやデータリンクである。東工大のスパコン「TSUBAME2.0」にも光インターコネクトが使われており、消費電力が1.3MW、1Wあたりの計算能力は958.35MFLOPSで、2010年11月のスパコン省エネ性能ランキングで2位を獲得している。
 またVCSELが多く使われているのがコンピュータマウスだ。ピーク時で年間2億個が出荷され、今も多くの数量が製造・販売されている。スマートフォンなどに指紋を読み取るポインティングデバイスとして搭載されている。一方レーザプリンタへの採用も進んでいる。従来はポリゴンミラーのみで転写用レーザを走査していたが、VCSELアレイのマルチビームとポリゴンミラーを組み合わせることによって、従来よりも高速なプリントが可能になった。

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2012/07/201207_0018Introlabo.pdf