魔法を織りはじめたスマートフォトニックテキスタイル

クニグンデ・チェレナック、クーン・ファン・オス、リースベト・ファン・ピーターソン

OLEDのようなオプトエレクトロニクスが、それらを堅く閉じ込めている封止状態から自由になり、衣服の内部やわれわれを取り巻く環境のいたるところに存在し、生活にじかに密着している──そんな世界を想像してみてほしい。

従来の電子回路はコンパクトで高レベルの機能を持つが、加工に使用できる最大基板寸法、基板の剛性や脆弱性といった制限がある。そのような電子回路を衣類などの柔軟性が必要な環境へ完全に一体化させることは不可能だ。その代案としてのスマートテキスタイル(織物)、例えば、有機発光ダイオード(OLED)ベースのテキスタイルはウェアラブルフォトニクス(着用可能なフォトニクス)の進化における新しい一段階である。そしてそれは、いくつかの具体的な一体化への挑戦にもかかわらず、今まで到達できなかった大面積センシングや照明のための表面へ新しい機能を組み込むことに対する意気込みの表れである。
 技術者は個々のデバイスの機能性によってOLED を評価しがちである。基本的なOLED技術研究は、デバイスの性能、製造工程、デバイスアーキテクチャ、材料選択、封止技術などの最適化を目標としている。しかし、製品デザイナーは、より大きなシステムに一体化されたときの「照明体験」や「デザイン美学」の観点でそれらを考察することによって違う方法でOLEDに向き合っている(1)。オランダのフィリップス・リサーチ社(Philips Research)は、われわれのOLED研究の実施方法をデザイン中心の考察を含める方向で再検討する必要がある、と主張する。

OLEDは未来のディスプレイ?

フォトニックテキスタイルは、OLEDが画期的に新しい用途と製品に通じる主要な性能改善をもたらすであろう、将来有望な産業の象徴である。発光する布地を使ったカーテン、家具、衣類などで毎日のテキスタイルを置き換えるといったビジョンは、私たちを取り囲む日常の物体内にインテリジェンスとビジュアル・フィードバックを組み込むことで生気のない物体に生命を与えるであろう。
 最新のフォトニックテキスタイルは、LEDなどの標準部品と導電性糸を織物中に一体化させるか、あるいは織物構造へと直接一体化させることが可能な繊維形状因子(光輝性高分子でコーティングされた繊維、表面または側面発光性繊維、サーモクロミック(熱変色)インクでコーティングされた糸など)を使ってオプトエレクトロニクスデバイスを開発するか、のいずれかをベースにしている(図1、図2a)(2)〜(5)、(8)。フォトニックテキスタイルの創製に向けたOLEDの組み込みは、テキスタイルのユニークな性質(通気性、快適性、低価格)とOLEDの有利な性質(拡散照明、低エネルギー消費)を組み合わせることを望む研究者たちの新しい動向である。
 OLEDの利点は、テキスタイルにしばしば使用されてきたLEDに比して、より広い表面積にわたって均一に光を放射することだ。さらに、デザイナーからの反応によると、OLED の利用で可能になったフォトニックシステムは、追加の光拡散層でテキスタイルを覆わねばならないLEDベース強化テキスタイルに比べて、美学的に喜ばしい(6)、(7)。OLEDベースフォトニックシステムは、他の繊維ベースフォトニックシステム、例えばフォトルミネセンス、サーモクロミック、光学などの繊維を利用した織物に比べて、放射輝度が高い。そして最後に、OLEDは軽量で、フラットな形状を持ち、ポリマシート基板上に組み立てられればフレキシブルにもなる。

図1

図1 LED に結合された側面照明光ファイバはいくつかの興味深い衣服オプションを作り出すことができる。(資料提供:LumiGram )

図2

図2 集積エレクトロルミネセンスパネルを使ったデザイナーガレス・ピューのドレス( a; 資料提供:UK DepartmentforBusiness, Innovationand Skills)と2011年のコンサートでブラック・アイド・ピーズのファーギーが身につけていたOLED 使用衣服( b; 資料提供:スタジオXO )は、美学的には興味深いが、OLED ベースのウェアラブルフォトニクスにおけるいくつかの課題を明瞭に示した。

デザイン上の挑戦

フレキシブルOLEDはテキスタイルディスプレイ向けの完璧な選択肢のように思われるが、解決しなければならない重要な課題が残る。主な課題の1つは、特にフレキシブルなシート基板ベースデバイスにおけるOLEDの寿命である。今のところ、OLEDのために最良のバリアは、ガラス封止層であり、あいにく、これを利用するとテキスタイルへの組み込みに適さない硬いOLEDになる。
 フレキシブルなOLED はまだ市場化されていないが、デザイナーたちは入手可能なOLED デバイスをすでにデモンストレータの衣装へ組み込んで使い始めている。カスタムメードの高級婦人服、例えばパリで最近開催されたコンサート・ツアーでブラック・アイド・ピーズのファーギーが着用していた、体にぴったりフィットしたジャンプスーツ(9)(図2b)におけるOLED の早期採用はテキスタイルOLED が直面する動作的な一体化に向けてのいくつかの課題を露呈した。この衣装はエキサイティングな新しい照明美学を使った心地よいOLED ベース衣服をデザインすることが可能であることを示している。しかし、OLED パネルの硬さは見る目にも明らかであり、このタイプの衣服デザインを制限する要因のまま残っている。
 一般に、今日のOLED技術を使った衣服の織物としての品質は芳しいものではない。これらは日常生活で着用できる衣服ではない。望ましい照明特性と織物の快適さとの間のギャップをさらなる技術開発によって狭める必要がある。

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2012/06/201206_0042pa.pdf