実用市場に鋭く切り込む量子ドットレーザ
量子ドット(QD)レーザは、1982年に荒川泰彦氏が提案してから、30年経過した。この技術を利用した製品は世の中に存在するが、量子井戸レーザの地位を脅かすほどではない。QDレーザの最適市場はどこか。
量子ドットレーザ
QDレーザを製品化している会社は、ドイツのイノルーム社(Innolume)、日本のQDレーザ社の2社のみ。2001年に米国アルバカークに設立されたZIALasersは、2006年にイノルーム社が買収した。
半導体レーザは、現在、量子井戸レーザが主流であり、波長範囲650nm 〜1.1μm ではInGaAs/GaAs、1.3μm 〜1.8μm まではInGaAs/InP がある。この間、1.0μm〜1.3μmがイノルーム社が製品化できるQDレーザの守備範囲となっており、同社のターゲット市場もこの範囲。イノルーム社のQDレーザは、AlGaAsバリア層としたInAs/GaAsで、高出力が特徴。現在提供できる最大出力の製品は400mW、波長やモードによるが効率は40〜60%になるという。
QDレーザの出力は、レイヤあたりのドット密度とスタックできるレイヤの数によって決まるが、2008年に来日した同社CTO のアレクセイ・コーヴィシュ氏(Alexey Kovish)は、同社がコムレーザ(comb-laser)用に開発している製品は「10層積んで75nmの帯域をカバーする」とコメントしていた。今年初めに来日したプロダクトマネージャのアレクセイ・シコーリニク氏( Alexey Shkolnik)は、「段階的にハイパワー設計を行っており、現在スタックできるレイヤは25層」としている(図1)。
QDレーザの層は、単純にスタックしていくと歪が累積するので、歪補償、歪緩和層を入れながら総数を増やしていくが、この点についてイノルーム社は、過去の論文で「InGaAs 層でドットをカバーしてQD歪を抑制する」(1)としている。また、製品アップデートより高出力化が進んでいることは事実であり、同社のQD 作製技術は着実に進化していると考えてよさそうだ。
ラマン増幅用ポンプ光源の可能性
シコーリニク氏の関心事は、言うまでもなく市場にある。
「価格設定の問題があるのでテレコム市場で既存製品と競合しないようにしている。特に要求があれば1.0μmの製品も出せるが、980nm と争うつもりはない。通信波長1.3μm帯で、中国メーカーの製品と争うこともない」(シコーリニク氏)。
これはイノルーム社の市場戦略でもあるが、このようにターゲットを絞ったときに射程に入ってくるアプリケーションの1 つがラマンアンプ用の励起光源である。2011年5月に発表した12xxシリーズは、1350mAで出力350mWであり、1175〜1280nmのどこでも中心波長をカスタマイズできる。
PONシステムの長延化では増幅器が必要になる。ファイバ増幅器を使う場合、1.55μm帯の信号は価格のこなれたEDFAが使えるが、Sバンド(1450〜1490nm)はツリウムドープのファイバ増幅器、1.3μm 帯にはプラセオジウムドープのファイバ増幅器となる。光ファイバ増幅器は、EDFA 以外はほとんど需要がないので価格は高い。半導体光増幅器(SOA)もノイズが大きいなど、問題がある。これらの問題を回避する目的でラマン増幅の検討がされている。
上り信号1310nmの増幅用に、イノルーム社の波長1240nm、出力300mWのQDレーザを使用して実験を行ったのはイギリスの大手通信事業者のBT社だ。商用GPON システムで、上りバースト信号にラマン増幅を適用した初めての実験であると報告されている。この報告では、QD励起レーザは、波長1240nm、動作電流1100mAで300mW超のファイバ出力。レーザは、偏波依存利得(PDG)が2.4dBとなっており、偏波状態が直交する2つの励起光源を偏波多重してPDGを0.8dBに下げたとしている(2)。
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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2012/06/201206_0040feature05.pdf