フォトニクス業界に就職する方法

ゲイル・オーバートン

光学やフォトニクス関連の職に就きたいと考えている学生は、どの教育機関が地理的、学問的、経済的に自分に合っているか、どの教育機関が手っ取り早く業界に入れる提携プログラムを提供しているか、また、技能者を目指すという選択肢の方が妥当ではないかといった点について、じっくりと検討する必要がある。

米ワシントン州を拠点とするSPIE(国際光工学会)が最近実施した年収調査(http://spie.org/salary)によると、光学/フォトニクスを専門とする人々の年収の中央値は8 万米ドルであることを考えれば、光学/フォトニクス業界に将来就職しようと決めた高校卒業者は非常に良い選択をしたといえる。しかし、どのようにすれば実際にフォトニクス関連の職に就くことができるのだろうか?
 光学/フォトニクスの分野で希望する職に就くには、進学する教育機関を知ることが重要だという意見は多い。しかし、米中央フロリダ大学オプティクス・レーザ研究教育センター(CREOL)や仏エコール・ポリテクニーク(École Polytechnique)といった光学/フォトニクス分野における世界最高レベルの教育機関で学位を得なくても、それらほどには有名ではないが、光学/フォトニクス専攻の学部および大学院課程や、需要の高い光学技能者育成プログラムを提供する大学が多数存在する(この分野の高等教育については、24ページの「技能者になるために」を参照のこと)。
 本稿では、世界のいくつかの教育機関における光学/フォトニクス関連の教育課程を紹介するとともに、光学/フォトニクスを専攻し、卒業後の産業界および学術機関における機会に目を向ける、向上心あふれる学生向けに有用な情報を提供する。

世界の教育情報源

ワシントンDCを拠点とするアメリカ光学会(OSA:Optical Society of A merica)のOptics and Photonics Education Directory( www.opticseducation.org)には、米国外の光学/フォトニクス関連の学位取得課程が350 件以上、米国内のものだけでも150件近くが掲載されており、世界中の情報が最も包括的に掲載されているといえるだろう。この情報は、Laser Focus World、Industrial Laser Solutions、BioOptics Worldの読者向けポータルで、教育的情報やフォトニクス教育関連のニュースやブログを提供するWeb サイトOptoIQ(www.optoiq.com)に新しく設けられた「Photonics Education」にも掲載されている。
 光学/フォトニクス関連の教育機関のリストに目を通してみると、米国や欧州では最大規模の光学/フォトニクス課程であっても学生数はわずか200〜300人で、平均で50人程度という事実に驚かされる。例外は中国で、光学専攻の学生を1500 〜2000 人受け入れる機関がいくつか存在する。

米国最高峰

米国内で光学専攻の学生が最も多く在籍するアリゾナ大学(University of Arizona)光科学部(OSC:College of Optical Sciences)には学部生138名、大学院生304名が在籍している。90 のフォトニクス専門講座が受講可能で、セメスターごとに学部生向けに20講座、大学院生向けに36 講座が提供されている。OSC の学位取得課程では2つの通信教育課程も提供されており、学生はビデオやサテライト講座によって課程を履修することができ、また、他の教育機関から6つまたは7つの単位を移行することもできる。
 OSCのキャンパスには、大規模光学装置の製造および設計、量子光学、フォトニクス向けの世界最高水準の施設があり、バイオメディカルオプティクスの分野については医学部と緊密に連携している。SATが1232以上、ACTが26.9以上、GPAが3.7以上の学生はアリゾナ大学の工学部への入学が許可され、1年生または2年生でOSCを専攻することができる(卒業するには2.5GPAを維持する必要がある)。
 OSC学部長で光科学を専門とするトーマス・L.コッホ(Thomas L. Koch)教授は、「本校の学部生は、幾何光学、物理光学、量子光学、数理光学の基礎に関する幅広い教育を受ける」と述べる。「本校の非常に活発な研究プログラムによって、学生らは、基礎的な光物理学から応用光工学やフォトニクスにいたるまでの多様な専門分野にわたって修士課程や博士課程の研究を行うことができる。4年生のほとんどが、学術研究や企業におけるインターンシップの経験が記された履歴書を手に卒業する」(コッホ教授)。
 OSCに在籍する学生の58% を占める居住者の授業料は1セメスターあたり平均5000 米ドルで、41%を占める非居住者(19%は外国人)の授業料は1セメスターあたり1 万3000 米ドルである。幸い、他のすべての公立および私立大学と同様に、この授業料負担を大幅に軽減できる学費援助プログラムや科学系の奨学金が提供されている。
 また、卒業生が就職活動を行う際には、ワークショップや就職説明会/採用イベントを通じて、卒業生のスキルとフォトニクス業界の企業が必要とする職業スキルをマッチングすることを目的とするOSC Industrial Affiliates(IA)プログラムによって手厚い支援を受けることができる(図1)。
 フォトニクス専攻の学生数が多く、強力なIndustrial Affiliatesプログラムを提供するもう1 つの教育機関は、米ロチェスター大学(University of Rochester)である。同大学は、米国で初め
て光学専攻課程を導入した大学でもある。第一次世界大戦後、ほとんどすべての光学専門家が主にドイツに居住していることに気が付いたイーストマン・コダック社(Eastman Kodak)のジョージ・イーストマン氏(George Eastman)らの後援を受けて、1929年に設立されたロチェスター大学の光学研究所(Institute of Optics)には現在、80名の学部生と110名の大学院生が在籍している(図2)。
 学部生の授業料は4 万1800 米ドルだが、同光学研究所の博士課程の学生は全員、授業料が免除される。学資援助によって、学部生であっても授業料の免除と、年間費用の最大3分の2に相当する奨学金を受けられる場合がある。また、多くの教育機関とは異なり、修士号を取得していなくても博士課程に進学することができる。
 「私が30 年間で博士課程を担当した33人の学生のうち、13人が自分で起業したか、あるいは企業のCEO になっている」とロチェスター大学の起業家精神育成を担当する副学長で、多数の専門分野の教授であり、1995 〜1997年にかけては工学および応用科学の学部長を務めていたダンカン・ムーア氏(Duncan Moore)は述べる。「光学研究所は、起業家精神の育成に非常に力を入れており、基礎的な数学や科学の枠を超えて思考することを卒業生に促している。これによって当校の卒業生を、純粋なエンジニアリング分野の職務だけでなく、フォトニクス業界における高いレベルの経営管理やマーケティングの職務に就職させることにも成功している」(ムーア氏)。

図1

図1 アリゾナ大学光科学部(OSC)が年2回開催するIndustrial Affiliates ワークショップにおいて、企業担当者を相手に最近の研究について説明する大学院生のBaijie Guさん(左)(提供: アリゾナ大学)

図2

図2 (a)ロチェスター大学光学研究所の所長を務めるシイチェン・ザン教授(左から2人目)と、同氏が率いるテラヘルツフォトニクス研究チームのメンバー。(b)ロチェスター大学の大学院生であるダスティン・シップさん(Dustin Shipp)がOSA Family Day において、ジャニック・ローランド教授(Jannick Rolland)の研究グループが開発したメガネで投影像を見ている様子(提供:ロチェスター大学)。

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2012/06/201206_0020feature01.pdf