光音響効果を使った生体深部の無標識イメージング

マイク・メイ

レーザ誘起超音波放射は、画像に変換され、器官、細胞、細胞内構造、生化学などの深部組織のメカニズムを標識または色素なしで見えるようにする。

非イオン化レーザは皮膚を透過して表面下の組織と細胞に達する。そこで吸収されたレーザエネルギーは熱に変化し、それが超音波放射を開始する。この超音波は捕獲して画像に変換することができる。この技術、すなわち光音響イメージングは器官、細胞、細胞内構造、生化学などのメカニズムの正確な表示を約束する。しかし、研究者たちがこの技術を広く入手できるようになるには、商業用機器が必要であり、それはまだ途上にある。
 研究者たちは、可能な限り色素も標識も使用せずに、自然な状態のままの生命を観察できるアプローチを望む。米ワシントン大学( Washington University in St. Louis)の著名なジーン・K・
ビーア(Gene K. Beare)教授であり、3次元の光音響顕微鏡法(http://bit.ly/h2EUI5 を見よ)の発明者でもあるリーホン・ワン氏(Lihong Wang)によれば、光音響効果を利用すれば、これに「豊かなコントラスト」が加わる。その鍵は、広範囲の生体物質がレーザエネルギーを吸収することにある。「ほぼすべてがそれを吸収する」と彼は言う。それらの一覧には、酸化ヘモグロビン、デオキシヘモグロビン、メラニン、脂質、DNA、RNAなどが含まれる。それゆえ、ワン氏が指摘するように、「光音響法は色素なしで生体内の細胞核を撮像することができる」。
 同じことが他の汎用撮像技術にあてはまるとは限らない。例えば、多くの分子は蛍光を発しないので、それらを蛍光顕微鏡で観察するには標識化が不可欠である。ワン氏は、「次にわれわれは、その色素が生体内(in vivo )で安全であるか否かを問う必要がある」と指摘する。光音響顕微鏡法を使えば、研究者たちは解剖学的構造とメカニズムを無標識で見ることができる。

顕微鏡法への移行

光音響顕微鏡は、当初、2 次元アプローチとして産業界で利用された。ワン氏は、「彼らは、それを金属などの非生物学的材料の表面を撮像するのに使用した」と言う。「われわれは、深さ分解能を得る目的で音波の到達時間を追加した。これは2D の3D への変換だ」と付け加えた。
 現在、ワン氏の研究チームは生体組織内のより深部へと3 次元光音響顕微鏡法を推し進めている。しかし、より高い深さ分解能を得ようとすると空間分解能が低下する。そして、その逆もまた真である。ワン氏は、「われわれは撮像深度を1mmから7cmに拡張した。その結果、光音響顕微鏡法は標準的な光学顕微鏡法の深度を拡張し、既存のすべての光学顕微鏡技術における光拡散限界を突破した」と語っている。これまでのところ、ワン氏は最高220nmの解像度を表面光分解光音響顕微鏡法で達成した。
 この技術をより多くの研究者が利用できるようにするために、ワン氏はニューヨークのマイクロフォトアコースティックス社(Microphotoacoustics)に対して彼の特許使用を許諾し、協同で商業用光音響顕微鏡を製作した。彼は、また、共焦点と2光子顕微鏡法に光音響法を加えたマルチモード顕微鏡もオリンパス社と協同で研究中だと言う。
 ワン氏は、「われわれはツールを提供する。われわれは生物医学研究や臨床の場で活躍する人たちを歓迎する」と語っている。

システムの設定

これまで、光音響効果を使った生物学研究を望む研究者は、彼ら自身のシステムを構築しなければならなかった。そのようなシステムの構築に必要な部品も次第に手に入りやすくなっている。例えば、独GWU社は光音響法に有用な可変同調光源を作製している。GWU社のギュンター・ヴァルムビア氏(Guinter Warmbier)は、「最も人気が高い製品は周波数逓倍Nd:YAG レーザで励起されたOPO(光パラメトリック発振器)であり、これはまもなく正式にリリースされるだろう」と言う。彼は、「われわれは顧客の研究所用にいくつかの試作品を準備している」と付け加えた。
 波長可変レーザを使えば、ユーザーは掌中の材料が最もよく吸収する波長を見つけることができる。異なる組織と分子はそれぞれ固有のレーザエネルギーを吸収する。
 それにもかかわらず、自製の光音響システムを立ち上げ、稼動させるには専門知識が多少必要だ。カナダのアルバータ大学(University of Alberta)電気・計算機工学部のロジャー・J・ゼンプ(Roger J. Zemp)助教授と彼のシステムを製作したメーカーによると、「その分野の経験が役立つとはいえ、かなりトリッキーだ」と言う。主要な問題はレーザパラメータの設定、集光、音響信号の受信、ハードウェアとソフトウェアの統合走査の開発などを中心に発生する。
 専門知識を持つ人であれば、彼ら自身のシステムを低コストで製造できる。ゼンプ氏は、かつては15 万ドルのレーザシステムを使っていたが、現在は、マイクロチップレーザが光分解光音響顕微鏡に使用することができ、1万ドル未満で手に入るようになった、と言う。彼は、「ファイバレーザはさらに大形化しても、さほど高価にはならない」と付け加えた。結局、彼は、靴箱サイズの機器を期待している。

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2012/05/201205_0042pa.pdf