乱流監視: 安全距離からカラシニコフ銃を見つける方法

グレブ・ヴドヴィン、ミハイル・ロクテヴ、オレグ・ソロヴィエフ

乱流大気を通した撮像は1つの技術だけでは不可能だが、適応光学、システムパラメータの実時間適応、多重化画像処理、実時間処理などを組み合わせると、改善された画像の取得が可能になる。

長距離監視は軍用、安全、航法などへの数多くの応用がある。最近のニュースでは、危険が発生する可能性からは遠い時点で、疑わしい人物が手にしているのがカラシニコフ接近戦用ライフルかそれともボートのオールなのかの識別がとくに重要になった事例がある。
 直感的に言えば、この問題は容易に解決できそうだ。確かに、今日の物理学は口径50cmの望遠鏡が1km の距離にある1mmの蚊を発見できると教えている。しかし、しばしば起こることだが、より大きな物体、例えば、遠距離のりんご、小火器、人の顔などは今でも識別が難しい。
 これらの画像の解像力は乱流により制約される。コルゴモロフ乱流モデルによると、太陽放射は広い面積で吸収され、大規模な熱気流を発生する。この熱気流はいくつかの小さい旋風や渦流として散らばり、この過程は温度差が最終的に一様となり、内部スケールと呼ばれる状態になるまで続く。
 空気中の屈折は温度に依存するため、乱流中の屈折率の不均一に変化する分布は光学的にぼやけたベールとなり、鋭い結像を妨げる。ほとんどの熱交換は地面に近い場所で起こるため、より強い光学的乱流は境界層、つまり地上からわずか数百メートルの高度で観測され、さらに強い乱流は太陽光に直に曝露される領域に生じる。
 乱流を通過する撮像の特性評価は、一般に単一パラメータr0を用いて行われる。このパラメータは乱流条件下でも回折限界に近い結像が得られる最大開口サイズで定義される。天文学の場合、地表からの観測が大気の比較的薄い乱流層を通して行われると、通常のr0は5から50cmまでの値になる。しかし、太陽が明るい水平方向の撮像の場合は、比較的短い1km 程度の観測距離であれば、数ミリメートルのr0が容易に得られる。
 典型的な水平方向の撮像は、一般に開口と物体の両方のサイズがr0に比べるとはるかに大きい(図1)。異なる物体点から放射された光束は乱流の異なる領域を通過し、異なる物体点の位相分布が統計的に相関のないアニソプラナティズムと呼ばれる状態になる(1)。このような場合の歪みは、Lを物体までの距離にすると、r0/Lのオーダをもつ小さいアイソプラナティック角、つまり軸外収差の寄与が一定と見なされる角度の範囲内でしか相関しない。また、アイソプラナティック結像の面積はアイソプラナティックパッチと呼ばれる~r0の寸法になる。
 開口近傍のすべての光束は同一の乱流領域を通過し、この領域から生じる波面歪みはアイソプラナティックと見なすことができる。この状況をさらに複雑にするのは、乱流から生じたすべての波面歪みが開口に到達しないことにある。遠方場のアイソプラナティックパッチは光学系による解像が不可能になり、乱流は幾何学的歪みを引き起こし、さもなければ鮮明な画像にゆがみをもたらす。

図1 

図1 水平方向の乱流を通した撮像は物体の異なる点から放射された光束が乱流の異なる領域を通過し、物体の異なる点に対して統計的に補正されていない位相歪みをもたらす。

収差補正

適応光学(AO)は動的光学収差を補正する第一の技術として選択される。AOはアイソプラナティック収差への直接適用、光学系それ自体への導入、乱流がアイソプラナティックな場合の開口近傍への導入などを用いて行われる。
 AOシステムの制御には位相共役と最適化の2つの方法がある。位相共役による波面測定は明るい点状の光源が必要になる。天文学の場合、このことは実際の恒星または人工的なガイド星を使うことで満足される。残念なことに、水平方向の撮像の場合、このことは物体が観測者にとって光学的に点状の参照物体になるときしか満足されない。参照の問題は選択された物体形状の相関追跡によって解決されるが、正確な探測を行うには、形状サイズはアイソプラナティックパッチよりも小さいことが要求され、また、アイソプラナティックパッチは光学系を用いた解像が必要になる。これは使用可能な手段の制約条件になる。
 代替法としての最適化は画像の品質指標、例えば画像の鮮明度を最大にする波面補正装置の形状を実時間で試行錯誤的に探測して行われる。この方法は特殊な参照をまったく必要としないが、実時間での最適化は非常に高速の波面制御と探測画像の毎秒数万フレームとは限らない非常に高速のレジストレーションとを組み合わせることが必要になる。カメラのフレーム速度はカメラの感度と利用可能な光の制約を受けるため、実時間最適化の適用は多くの場合、非常に明るい光源などが利用できる場合に限られる。
 物体サイズが大きく乱流が強ければ、アイソプラナティック補正の可能な部品の影響力は無視できるほど小さくなり、AOの性能は付加される余分な複雑さを正当化できなくなる。AOの性能は物体の単点から発生する波面だけを補正し、「中心窩(ちゅうしんか)」と呼ばれる結像(中心窩は鮮明な画像を生成する網膜の一部)を実現することで改善される。

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2012/05/201205_0030feature02.pdf