太陽光スペクトルの利用に最適な結晶を育成 ─ 集光装置からエネルギー利用まで包括的に取り組む
太陽光励起固体レーザはエネルギー問題の観点から、注目を集めつつある装置である。地上で太陽光励起レーザを実用化するためには、レーザ結晶の高効率化や集光システムの設計、レーザエネルギーの利用方法などの課題がある。
太陽光励起レーザはその名の通り、ランプや励起用レーザの代わりに太陽光を励起光源とするレーザである。以前から主にYAGを母材とする固体レーザで研究が行われてきた。自然エネルギーを利用してレーザ光を発生させるため、エネルギー利用の面から注目されているレーザだ。またレーザ送電方式による宇宙発電への利用が期待されている素子でもある。その太陽光励起レーザの実用化に向けて、レーザ媒質の創生から、エネルギーの保存・利用方法まで包括的に取り組んでいるのが、理化学研究所 基幹研究所の光グリーンテクノロジー特別研究ユニットだ。
同ユニットリーダーの和田智之氏によると、地上で太陽光励起レーザを実用化するために必要な要素技術は、太陽光の集光、太陽の追尾システム、レーザ本体、そしてレーザエネルギーの利用方法の4つになる。同ユニットではレーザ結晶の開発を中心に据えるとともに、他の要素技術についても理研内や他大学などと協力しながら進めている。たとえば集光については高度な加工技術を研究する理研の大森素形材工学研究室が超高精密大型フレネルレンズの作成を担当している。
レーザ結晶の創生
和田氏は、「本当に太陽光を有効に使うためには、太陽スペクトルにマッチした結晶を一から作ることが理想的だ。とくに強度の高いグリーンの波長帯域を有効に使いたい」(和田氏)という。そうした考えから、同ユニットではバナデート(VO4)について検討をすすめている。バナデート結晶は吸収係数および誘導放出断面積が大きいことや、クロム(Cr)の添加によって紫外から可視領域のエネルギー吸収を大きくできること、また融点が高く太陽光の集光に有利といった特徴がある。
通常、新規の固体レーザ用のレーザ結晶は簡単に作成できるものではない。吸収特性などをあらかじめシミュレーションすることは難しいため、試行錯誤を積み重ねるしかないことや、結晶の育成に時間が掛かるなどがその理由だ。そのため実用化されている母体結晶はそれほど多くはない。
同ユニットは、バナデートの育成に浮遊帯溶融法(floating zone method:FZ法)を採用することによって、レーザ結晶の開発のスピードアップを可能にしている。FZ法は、結晶の材料を粉末にし、棒状に固めて焼結した棒を下端から溶かしてゆき、溶けた部分を下部の種結晶に触れさせながら表面張力で成長させていく方法である。従来は引き上げ法であるチョクラルスキー法(CZ法)が品質が高いとされ、レーザ結晶はFZ法では作成できないと考えられてきた。しかし同ユニットは北海道大学との共同研究により、高品質のレーザ結晶をFZ 法で作成することに成功した。「育成条件に加え、材料の粒径のコントロールや均質化などの下準備、また設備のランプの強度や照射位置の調節などが重要なポイントとなってくる」という。
素早く狙い通りの結晶が作りやすい
FZ法のメリットの一つが、成長速度がCZ法よりも大きいことだ。FZ法では最大で直径8mm 程度の結晶を1 時間当たり20mm程度育成でき、CZ法の約5 倍の速さだという。これによりCZ法よりもトライアンドエラーの回数を増やすことができる。
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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2012/05/201205_0018Introlabo.pdf