ナノ計測の次世代AFM 撮像モードが得られるQI
新しい原子間力顕微鏡(AFM)の定量撮像(QI)モードは、走査時にセットポイントや利得を調整しなくても、その計測技術が難しい試料の画像化を容易にしている。
原子間力顕微鏡(AFM)を今日のユーザの要求に合せようとすると、そこには数多くの難題がある。25年前に開発された当初のAFMの接触撮像モードは、液体中の試料の画像を試料の損傷なしに画像化する能力を得られなかった。さまざまな非接触モードと呼ばれる方法が導入されたが、それらはいまだに、柔らかくて壊れやすく注意深い準備が必要となる試料を、定量的に画像化したい生命科学分野の研究者たちの要求を満足できない。このユーザの要求に対応して、独JPKインスツルメンツ社(JPK Instruments)はAFMの新しい定量撮像(QI)モードを開発した。
QIは開発の当初から設計目標が明確に設定された。つまり、光学顕微鏡を扱うことに慣れていた生命科学者がAFMとその新しい撮像モードを受け入れるには、空気中や液体中のさまざまな環境でも使用でき、迅速かつ直感的に操作できるシステムの設計が必要であった。そのモードは柔軟性と粘性の両方または片方があり、基板にゆるく接触し、鋭い形状/エッジをもつ場合もある「難しい」試料の取り扱いも必要であった。このことは新しいナノ計測モードのプローブがすべての画素と相互作用するときに、その力の極端な精密制御が必要になることを意味している。
新しい撮像モードは定量的データも取得しなければならない。QIモードは機械的、化学的および電気的データを取得する。また、撮像時の実際のフォースカーブ、つまり曲線を描く作用からは最大量のデータポイントが得られる。細胞が付着した領域、つまり単一細胞とその他のもの(表面など)との間の力測定は、生命科学がAFMを使用するときの急速に増大する計測ニーズになっている。
QIの定義
標準のカンチレバーへの置き換えの可能な新しいQIは、すべての画素に作用するチップ‐試料間の力を完全に制御できるフォースカーブにもとづく撮像モードであり、このことは走査時のセットポイントや利得の調整が不要になることを意味している。そのTipSaverと名付けられたチップ動作アルゴリズムは、横方向の力を阻止し、垂直方向の力を制御して、カンチレバーチップと試料との間の非破壊測定を可能にする。
QIはForceWatch技術を組み合わせて、柔軟な試料(ヒドロゲルや生体分子)、粘性のある試料(液体中のナノチューブやウィルス粒子)、鋭いエッジをもつ試料(粉体やMEMS構造)を計測するときの難題を回避可能にしている。要するに、ForceWatchの1組のアルゴリズムはフィードバック信号を厳密に監視し、変化した信号を迅速に調整する。
QIモードは生物学あるいは試料が難しい物理的パラメータをもつ高分子科学や表面科学などの高分解能と力感度の両方を要求する分野の計測に適している。
画像化の前に設定が必要になるのは取得した画素ごとのフォースカーブの結像力とz長のパラメータの2つしかない。いずれのパラメータも容易に取得可能であり、詳細な技術知識を必要としない。また、両者はわれわれのForceWatchと容量センサの技術を用いることで精密に測定できる。画像化前の掃引、振幅設定、位相補正による駆動周波数と電圧の複雑な決定なども不要になる。
QIはフィードバックループがない。したがって、撮像時に設定と最適化を必要とするパラメータがまったくない。位相同期ループ(PLL)や振幅利得制御(AGC)などの付加的フィードバックループを必要としない。フィードバックループがないことで、それぞれの画素は完全に独立したものとなり、不適切な1つの撮像点だけから生じる筋状の欠点は排除される。
QIは試料面(z軸)に垂直な圧電運動が注意深く最適化され、他のすべてのAFM撮像モードと同等の撮像速度が得られる。このz方向の最適化は押込みや接着力の定量的分析のための信頼性のあるフォースカーブと伸縮速度を確保するために必要となる。
生命科学ユーザの最重要ニーズを満足するために、QIはJPK社のAFMと光学顕微鏡法からなるDirectOverlay技術を使用して、高開口数共焦点レーザ走査顕微鏡法(CLSM)を含めたすべての一般的な光学撮像技術との組み合わせを可能にしている。この方法は特殊な光学較正法と重要な計算機プログラムを使用し、試料からのAFMと光学顕微鏡の情報を同時に表示する。試料上の重要な場所は光学位相コントラスト、微分干渉コントラスト(DIC)、可変リリーフコントラスト(VAREL)などのさまざまなコントラスト法を使用して決定する。
さらに、エピ蛍光、共焦点、内部全反射蛍光(TIRF)などの蛍光技術を使用して、特定の分子や生物種の挙動や位置の計測を可能にしている。AMFによる画像化と力測定を光学顕微鏡による撮像と一緒に試料の同一点上で組み合わせることは容易でない。光学画像の取得とAFM画像の記録は個別に行われる。したがって、両者の画像の重ね合せにはAFMのチップ走査の設計が重要であり、容量センサを用いた横方向(x , y)の閉ループ撮像の最適利用が鍵になる。
難しい試料の定量化
QIは撮像時に横方向の力が試料に加わらないので、緩やかに付着した物体や固定化されていない試料(生命科学の用途には多い)の画像化が可能になる。QIによる力の性質を利用すると、表面と強く粘着した背の高い物体の画像化が従来のAMF撮像モードよりも容易になる。このような試料の場合、プローブによる側面から側面へのラスタ走査は損傷を与えることがあり、表面を動かしてしまうこともある。対照的に、フォースカーブによる測定はプローブが上下の垂直方向に動くので、表面は引きずられることがない。
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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2012/05/201205_0022feature01.pdf