健康と環境用途をターゲットにしたQCLベースセンサ

ジョナサン・フー、クレア・グメイヒル

中赤外から遠赤外までの発振波長と高い出力効率をもつ量子カスケードレーザ(QCL)は、環境監視、国防、医療診断などにおける強力な化学センサの心臓部になる。

QCLを使った微量ガス分析と化学センシングは、ほとんどの分子が中赤外領域にユニークな吸収スペクトルをもつため、最近ますます注目を集めている。多数の商用オプションがあるQCLは、高い出力効率ばかりでなく、発振波長が中赤外から遠赤外までの広範囲に及ぶため、中赤外分光における理想的な選択肢の1つになる(1)。
 汎用半導体レーザは伝導バンドと価電子バンド間の電子遷移に基づき、バンドギャップを横切るキャリア再結合の結果として光子を放出する。一方、QCLは多重量子井戸へテロ構造の1つのバンド、一般に伝導バンドの中の量子化されたサブバンド間遷移に基づくため、汎用半導体レーザとは根本的に異なる。
 これまでQCLは、サブバンド間光学遷移を利用するため効率が悪く、発光スペクトルの可同調性と幅が本来的に制限されると考えられてきた。しかし、最近の研究は、QCLの性能を大いに改善するさまざまなヘテロ構造の量子設計が実行可能であることを示した(2)。広範囲に電圧可変なサブバンド間発光が結合量子井戸のシュタルク効果によって実現され、複数のサブバンドからの遷移による広帯域のスペクトルも生成された(3)、(4)。
 米国国立科学財団の健康と環境のための中赤外技術に関する工学研究センター(MIRTHE;www.mirthecenter.org)は環境監視、国防、医療診断などに適したQCL ベース中赤外化学センサを開発した。ここでは、石英強化光音響分光法、ファラデー回転分光法、QCL開光路システム、プリストン大学のワイヤレスセンサネットワークなどを例に、最近の進展を報告する。

石英強化光音響分光法

ガス試料内の音波は、音響変調された音響周波数のレーザ放射をターゲット微量ガス種に吸収させることにより発生させることができる。そのような光音響分光法は、直接光減衰の代わりに、吸収媒質の効果を検出する間接法である。吸収された光だけが光音響分光信号に寄与するため、バックグラウンド吸収や散乱光を含む通常の分光法の欠点がもはや存在しない。
 石英強化光音響分光法(QEPAS)を使う斬新かつ最近おおいに改善されたアプローチは、石英音叉形の鋭く共振する音響トランスデューサ内に音響エネルギーを蓄積する方法である。このQEPAS技術はアンモニア(NH3)、水(H2O)、二酸化炭素(CO2)と一酸化炭素(CO)、亜酸化窒素(N2O)、ホルムアルデヒド(CH2O)などのさまざまな化学種の検出に適用されている(5)。
 QEPAS の1 つの例では、米デイライト・ソリューションズ社(Daylight Solutions)製の高速チューナブル外部共振器型QCLを励起光源として、ブロードで、ほぼ非構造の吸収バンドを持つ分子の検出と定量化が行われた。QCLは1196〜1281cm−1のスペクトル範囲で連続的に同調可能であり、研究対象の分子の吸収スペクトルに適合する(6)。
 QEPAS 技術は極めて高い10,000以上のQ値、高速なスペクトル測定、環境音響雑音に対する耐性、高い感度、広いダイナミックレンジなどの多くのユニークな特性を備えている。微小共振器管が石英音叉の共振周波数と整合する長さに正しく切断されれば、QEPASの感度は1.5〜2倍に増加するであろう。ペンタフルオロエタンに対して13ppbv、酸化窒素に対して15ppbvの測定精度が達成された(7)、(8)。

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2012/04/201204_0036feature04.pdf