炭化水素検出を3μm以上まで拡張したDFBレーザダイオード

ラルス・ヒルデブラント、ラルス・ネーレ

可変同調ダイオードレーザ分光法(TDLS)は単一モード可同調分布帰還型(DFB)レーザダイオードによって炭化水素の検出を3μm以上の波長範囲にまで拡張した。

TDLSはガス組成を詳細に評価する多目的技術である。例えば、構成成分のタイプとそれらの濃度が各ガス種のユニークな吸収特徴を利用することによって高精度で決定される。しかし、TDLSは所定のガスセンシングに適したレーザ光源の入手可能性に強く左右される。これまで、最高約3μmの近赤外(NIR)波長範囲の単一モードDFBレーザダイオードが多数の産業用途において首尾よく利用されてきた。それらの用途における技術関連のガス種は水(H2O)、一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO2)、アンモニア(NH3)などであった。
 最近まで、3μm限界を越えるTDLS用のアプリケーショングレードの単一モードレーザが入手可能ではなかったため、特に、炭化水素検出に関係するセンシング用途は厳しく制限されてきた。多くの炭化水素は、それらの基本吸収バンドが位置する3.0〜3.5μmの中赤外(MIR)波長範囲に強い吸収特徴を持っている(図1)(1)。対応するNIR吸収に比べて数桁大きな線強度をもつこれらの吸収に基づいてTDLSを実行すれば、かつてない精度での炭化水素検出が可能になる。
 最も興味深い炭化水素検出用途の1つは、石油化学産業においてより高いエネルギー効率と汚染物質の低減に導く正確なプロセス制御である。ガスクロマトグラフィなどの現在使われている技術に比べて、MIRにおける炭化水素に対するレーザ分光法の主要な利点は、TDLSを使ったリアルタイム分析の可能性である。ヨーロッパプロジェクトSensHy(www.senshy.eu)における独ナノプラス社(nanoplus)による最近の開発のおかげで、現在は、3.0〜3.5μmのMIR波長範囲で非常に敏感なTDLS炭化水素検出用のアプリケーショングレードの性能を持つDFBレーザが市場に出回るようになった。

図1

図1 選択された炭化水素の3.0〜3.6μmの中赤外領域における吸光度スペクトルを示した。このデータはHITRAN分子データベースから提供された。(P・クルチンスキ(P.Kluczynski)らの論文から引用)

DFBレーザ技術

ナノプラス社は横方向金属グレーティング構造に基づく専用技術を使ってその単一モードDFBレーザダイオードを組み立てた(2)。100nm台サイズのこのグレーティングはエッチングされたリッジ導波路構造の側壁に隣接して高精度電子ビームリソグラフィーを使って形成された(図2)(3)。次いで、このフィードバック構造を金属蒸着によってパターン化することで、DFBレーザデバイスを得た。
 この費用対効果の高いDFBレーザダイオード製造アプローチは10年以上前から使われているが、デバイス層内のエピタキシャル過成長が不要であるため、活性領域近傍のパターニング誘起欠陥によるレーザ性能の劣化を回避することができる。現在、ナノプラス社は最高3.5μm(MIR波長範囲)までの動作波長を持つアプリケーショングレードのDFBレーザダイオードを商品化した。
 TDLS用途における最適動作に向けて、5成分障壁材料に埋め込まれたアクティブなタイプI 量子井戸ベースエピタキシャルプロセスが使われている。さらに、この材料を用いたDFBデバイス処理が高性能向けにカスタマイズされた。すなわち、熱を除去するために高熱伝導率をもつ金層でレーザリッジ導波路を囲み、高い光出力効率を得るために高反射背面金属コーティングを施した(図2挿入図)。
 この長波長DFBデバイスをTDLSセンシングにおける所定の用途に正確に整合させ、続いて内部温度コントローラつきのTOヘッダに搭載した。乾燥窒素雰囲気中でヘッダのハーメチックシールを行い、関心波長領域で透明な標準的なサファイア放射窓でキャップしたアプリケーション対応のパッケージされたDFB レーザデバイスを作製した。

図2

図2 100kVの電子ビームリソグラフィシステムを使って、金属グレーティング構造と厚い金層(挿入図)をもつ横方向に結合されたDFBレーザダイオードが作製された。

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2012/03/201203_0042pa.pdf