多彩な応用へ前進する周波数コム

ジェフ・ヘクト

数十年前に最先端の超高速分光法として誕生したフェムト秒周波数コムは、2005年にジョン・ホールとテオドール・ヘンシュにノーベル賞をもたらした。現在の新しい周波数コムは、天文学からレーザレーダや通信まで多彩な応用が開発されている。

最初の光周波数コムは1970 年代の初めに超短光パルスのパルス列から生成されたが、その帯域幅は限定され、絶対周波数を測定できなかったため、ほとんど注目されなかった。それから20年が経過し、一連の進歩が実現して、周波数コムの帯域はオクターブへ広がり、周波数の精密測定が可能になった。このような計測工学の大きな進歩によって、ジョン・ホールとテオドール・ヘンシュは2005 年のノーベル物理学賞を授与された。
 現在の光周波数コムは可変波長レーザのキャリブレーションやコヒーレントレーザレーダの精度の改善から太陽系外の恒星を周回する地球サイズの惑星の探索まで新しい計測工学の最前線の開拓に使われている。一方で、より小型でロバスト性のある周波数コムが実現すると、高速通信や宇宙用機器を含めて、より広範囲の応用が可能になる。

周波数コムの種類

周波数コムは短い光パルスがフーリエ変換された一連の等間隔の光周波数だ。パルスが短いほど、そこに含まれる周波数の範囲は広くなり、周波数コムの帯域幅は広くなる。フェムト秒周波数コムはオクターブの広がりが得られる。コムの周波数間隔はパルスの繰返し速度に等しい。図1に示すように、コムのそれぞれの歯は連続ビームであり、その出力はスペクトルの全体にわたり変化する。
 最初のオクターブ広がり周波数コムはTi:サファイアレーザを用いて生成され、現在も広く使われている。Ti:サファイアレーザは高い繰返し速度や高いピークおよび平均出力をもつ超短パルスを直接発生する。その雑音はすべての周波数コムのなかで最も低い。しかし、このレーザが大型かつ繊細であり、高価なポンプ用グリーンレーザが必要になる。
 ファイバレーザは固有スペクトル幅が狭いため、Ti:サファイアレーザほどの短いパルスを生成できないが、その出力を非線形ファイバに通すと、帯域幅は1 オクターブ以上に広がる。エルビウムおよびイッテルビウムドープファイバレーザはいずれも周波数コムを生成し、いずれも短波長への周波数2倍化を行うことができる。ピーク出力と繰返し速度はTi:サファイアレーザに及ばないが、ファイバレーザは使いやすく、安価であり、ロバスト性も優れている。このような特徴を組み合わせることで、ファイバレーザは研究室外の用途にも応用できる魅力が付与される。また、宇宙空間での無重力実験に使用するファイバレーザも開発されている。

図1

図1 周波数コム(下)はモード同期されたパルス列(上)をフーリエ変換して生成される。コムの歯の周波数間隔はパルスに繰返し速度に等しい。非線形効果により増強されるパルス列のスペクトル帯域幅がコムの周波数範囲を決定する。下図に示すように、コム周波数はコム間隔の整数倍とオフセット周波数からなる。

微小共振器周波数コム

周波数コムは高Q 値の微小共振器による四光波混合からも生成できる。光パラメトリック発振器(OPO)の場合と同様に、ポンプレーザからの光子対を非線形材料に入れると、OPOのポンプ光とアイドラ光のように、同じ全体エネルギーをもつ2つの光子が発生する。しかし、この場合のコム発生は可変波長連続ビームを用いて多数のささやきの回廊モードを振動させる微小リング共振器の励振過程にもとづいている。
 一般に、微小共振器と結合する前のポンプビームは増幅を行い、平方センチメートルあたりギガワットの放射強度に高める。この放射強度が縮退四光波混合を引き起こし、図2に示すように、1つはポンプ光のスペクトル線の高周波側に、もう1つは低周波側に位置する一対の周波数が生成される。このシフトは原理的にどのような数でも可能だが、微小共振器の場合はささやきの回廊モードと一致する周波数だけが増幅され、ポンプ光から1つ、2つ、またはそれ以上のステップでオフセットされた周波数コムのスペクトル線が生まれる。付加されたコム線は非縮退四光波混合による他のコム線との相互作用が起こり、図2に示すように、より広い周波数コムが発生する。
 微小共振器コムの最大幅は共振器材料の波長分散の制約を受ける。四光波混合過程は周波数のオフセットに等しい側波帯のスペクトル線を生成する。しかしながら、非線形材料に存在するすべての波長分散はささやきの回廊モードに波長シフトをもたらすため、波長が変化すると、側波帯スペクトル線からのドリフトが起こり、スペクトル線強度が減少する(1)。
 現在はスイス連邦ローザンヌ工科大学(Swiss Federal Institute of Technology Lausanne)に在籍するトビアス・キッペンバーグ氏(Tobias Kippenberg)とその共同研究者は2007年に、最初の広帯域微小共振器周波数コムを発生させた(2)。彼らが実験した共振器モードは850GHzの間隔があり、周波数があまりにも高いため、その光周波数の測定にはマイクロ波エレクトロニクスによる処理が必要であった。

図2

図2 微小共振器周波数コムはリング共振器の四光波混合から生成される。最初の縮退四光波混合はポンプ線の高周波側と低周波側に、同一の増分による新しいスペクトル線オフセットを発生させる。次に、非縮退四光波混合が追加のスペクトル線を発生させる。(資料提供:キッペンバーグ氏ら(1))

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出典元
https://ex-press.jp/wp-content/uploads/2012/03/201203_0034pf.pdf